念話
「はい、えーそれじゃ、ライラさん。本番なんですけども――」
とあるテレビスタジオ。番組スタッフがライラという女性に番組の流れを説明している。その様子を見つめるプロデューサーとディレクターの男はヒソヒソと話し始めた。
「……彼女、動物と話せるって本当なんですかね? 心が通じ合うとか何とか」
「嘘に決まってるだろう。そもそも流暢に会話が成り立つほど犬や猫の脳は大きくない。全部、あの女の想像、妄想さ」
「あー、でもいいんですか? 本当に。彼女、こっちの意図も何も知らないんでしょう?」
「いいんだよ。ヤラセはご法度。というのも最近バレて怒られたばかりだしな。
たまには嘘つきを面白おかしく晒し者にし、世間の怒りをガス抜きしてやらないとな」
「成程……お、犬が来ましたね。にしても、あんなにたくさん用意しなくても」
「波長が合う犬がいないから今回は無理とかなんとか言い逃れされたくはないからな。彼女にはあの中から一匹選んで――」
突如、ライラが四つん這いになったためプロデューサーの男はそこで言葉を切った。
そしてライラは警報機のように激しく吠えた。涎を垂らし、顔に青筋を立て、彼女のジーンズは見る見るうちに色濃く、やがて裾から流れた尿がフロアに滴り落ちた。
「いい、もういい! ヤラセしよう! 大した演技力と根性だよまったく!」
プロデューサーは降参とばかりに手を上げた。
しかし、ライラは止まることはなかった。
彼女の脳は大量の犬の思念で満たされ、人間の声など届かなかったのである。




