経過観察
「手術が無事に終わって良かったよ。おめでとうと言わせてくれ。それでどうだね経過は? 拒絶反応はないか?」
「ええ、お陰さまで。博士が開発した人工臓器のおかげです。ありがとうございます。ところでどこまで歩くんです? あまり……」
「ああ、わかっているとも無理はさせるつもりはないよ。そこだ、そこの扉だ」
博士がカードキーを差し込むとドアが開いた。
青年は博士に促され中に入る。
「これは……一体なんですか?」
壁の下側に等間隔にある青い電灯が、部屋を静かに冷たく照らす。
その部屋の中心に置かれているのはガラスケース。
その中に入っていたのは今まで見たことのない生き物。小型犬ほどの大きさで、動物の赤子のような小さな足が無数に生えている。どこかウミウシに似ていると彼は思った。
ただ、死んでいるようだった。やや透明感のある白い体が少し萎びているように見え、彼は眉を顰めた。
「……ドウルルゥステンナベリア。人工臓器を作る過程で生まれた生き物だ。
彼女の中には人間に適合する臓器が内包されているんだ。
それにそれを摘出しても、そう、木から実を採るようなもので命や生活に支障はない。そして時間が経てばまた再生する」
「それは……素晴らしいですね。見た目のグロテスクさから少し引いてしまいましたが、ただ、こいつ、いや彼女は死んでいるようですが?」
「そう。そこなんだ。実はこちらのミスでこの個体は死んでしまってね」
「ええ!? 他には……」
「いや、彼女だけだ。他の個体はいない」
「それは残念ですね……。多くの人間の命を救えたのに……。もう一度作れないのですか?」
「それは難しい。偶然の産物だからね。ただ……うん。君には彼女の分まで生きて欲しいんだ」
「成程、それで僕に見せたんですね。ええ、勿論。精一杯生きますよ」
「そうか! それは良かった! では、あっちに飲み物を用意してあるから、さ、ゆったりしてくれ」
これまでどこか落ち着きのない様子だった博士はパッと顔を明るくし、青年にそう促した。
その背に軽く手を添える。「転ばないように気を付けてな大事な……」
『大事な母体なのだから』と口を滑らせそうになった博士は、取り繕うように笑った。




