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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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取り憑きまSHOW!

「さぁさぁさぁ! 始まりました! 取り憑き~ま……ショョョゥウ! 今回のチャレンジャーはこちらの方々ですっ!」


 ……は、は? なにこれ? どういうこと? チャレンジャー? チャレンジ? 何を? こちらの方々?

 あ、僕以外にも人が……。男だけ。でも、なんか、変な……。


「さぁ、今から皆さんにはこの部屋にある物に取り憑いて頂きましょう! 最後まで捨てられずに残った方が優勝です!」


 え、取り憑くって? ははは、それじゃまるで幽霊、あれ? そういえば僕は、あれ? 死んで……。


「さぁさぁさぁ! この耐久レース! 生き残るのは誰か! っと死んでますけどねはっはっは! ではさっそくいきまっショウ! フゥゥゥゥ!」


 「ほら、開始ですよっ」と司会の男に促され、僕らは部屋の中をウロウロし始めた。

 耐久レース? ショウ? 誰か見てる? これはあの世の番組なのか? 賭け事? 捨てられたらどうなる?

 疑問は尽きない。でも、参加者の何人かが司会の男に質問をぶつけたけど、すべて無視。司会の男はポン! と姿を消した。

 やるしかない……のか? 賞品とか、あ、優勝すれば天国? 何一つわからないけど、今は何に取り憑くか考えなきゃ……。


 僕は部屋を見渡した。察するに女性、それも若そうだ。かなり整頓されている、というか物が少ない。ミニマリストというやつかな?

 薄いピンクの壁紙に、あのハンガーにかかったシックな服はお気に入りだろうか? クマのぬいぐるみ。何年物だろう? 幼い頃からの物かな。単純に考えて……ベッドなんかはどうだろう? そう簡単に捨てられるものじゃ……あ!


「お先に失礼しますよフッフフフフ。若い女性のベッド、最高ですね」


 メガネの小太りの男はそう言うとスッーとベッドに溶け込んでいった。

 どうやらそれで取り憑き完了のようだ。


「俺はコイツにするぜぇ。テレビだ! 俺が持っていたやつよりデカい。そう簡単には捨てないだろう」


 ヤンキーっぽい男が溶け込んでいく。


「私はこれですね」


「おいおい、あんた正気かい? それって……」


「ええ、下着です。わかっています。だが! 悔いはなぁぁぁい!」

 

 メガネの男が下着に溶け込んだ。


「やれやれ、あの男はわかってないねぇ。私はコレにするよ」


 なるほど! スーツケース! そうしょっちゅう使うものではないから壊れにくいし、そもそも耐久性に優れている。それに収納ケースとしても使える。捨てられないだろう。考えたなあの人。


「ワシは辞書だな。捨てるものではないだろう一生ものだ」

「俺はクッションにするかぁ。まだ新しそうだ。へへへ抱きしめられたりしてな」

「僕は姿見鏡」

「私はブラジャー」

「俺は折りたたみ式テーブルだな」

「僕はこのネックレス」


 皆、続々と決め、溶け込んでいく。僕はどうしようか……。そもそも耐久レースって何年やるんだ? 一度取り憑いたら離れられない? それも考えてなるべく持ち運んでもらえるやつのほうが退屈しないでいいかな? ずっと部屋で動けないなんて退屈だもの。

 いいや、それより早く決めないと。残りは僕一人なんだから。化粧品は……無くなったら捨てられちゃうし服も本もなぁ。

 扇風機は壊れたらそこまでだし、同じ理由で電気スタンドも……。観葉植物は枯れたらなぁ。この小さい本棚もいっぱいになったら買い換えられそうな……。

 あ、コレは……?


「おおおお!」


 取り憑いた物たちから一斉に歓声が上がった。

 その理由はこの部屋の主であろう女の子の登場だ。かなり可愛い。それに若い。大学生? 

 女の子は部屋を見渡す。


「座ってくれ! 頼む」

「履け! 脱いで私を履け!」

「寝よう! 僕の元へおいで!」


 先ほどの歓声同様、男たちの声は女の子には聞こえていないようだ。尤も聞こえていたらすぐに部屋から飛び出していただろう。

 おや? 女の子の後ろから母親らしき女性が顔を出したぞ。


「それで、全部捨てていいの?」


 へ?


「そ~なんです! 実はこの女性、引越し間近! すでに大学近くのアパートには必要なものを運び込んでいます!

今日はその最終チェック! 不要なものは両親に処分を任せています!

さぁ! この部屋から運び出されるものはいるのか! そしてそれは誰なのか!」


 再び登場した司会の男が高らかに喋る。

 そういう訳だったのか……。


「このベッド」

「粗大ゴミよろしく」


「テレビも?」

「うん、調子悪いんだよね、新しいのあるし」


「服も?」

「うん、ここにあるのは全部捨てる奴だけ」


「辞書は」

「電子辞書があるからいらなーい」


「クッション」

「もう新しいの買った」


「姿見鏡も?」

「うーん、梱包するの面倒だしいいや」


「あの折り畳みテーブルは?」

「汚れてるし、いらないかな」


「このネックレスは?」

「もう趣味じゃないかな。子供っぽいでしょ」


 次々と死刑が宣告されていく。阿鼻叫喚。しかし、その声も届かない。


「あら? スーツケースも? 使わないの?」

「うん、それ鍵の部分壊れちゃってるし」


「じゃあ……ぬいぐるみは? このクマちゃん。気に入ってたよね?」

「昔の話すぎ。それになんか咳出るんだよね。埃っぽい」


「じゃあ、全部捨てでいいのね?」

「うん、一通りチェックした後だからね。ん」


「何?」

「な、なんでもなーい。じゃあヨロシクね」


 そう言った女の子が手に取り、後ろに隠した物。

 それは僕だった。

 悲鳴溢れる部屋から彼女と一緒に出て行く。


「きまったああああああああ! 優勝者はぁああ……コンドームに取り憑いた彼えええ!」


 そう、僕はコンドームに取り憑いた。

 本棚の後ろに隠されていたものだ。恐らく彼氏のためのもの。これの処分は少々親に頼みづらいだろう。

 それにまだ使えそうだ。

 ただ……いずれ僕が味わう感触は果たして……。

 いや、優勝者が決まったのだからもうここまでか? 天国行き決定? でもどうやって出たら良いんだ?


「一度取り憑いた物からはそれが破壊されるまで出ることはできません!

優勝した彼には特典として、取り憑いた物がゴミ処理場での焼却等、跡形もなくなった後に記憶そのままに、ただし現世への影響を考えて人間以外の好きな生き物に転生されます! ではまた会うときまでサヨナラ~!」


 転生? やった! それに好きな生き物だって! 何がいいかな……あれかな、いやあれも……。


「ちょうど来週海行くし、使えるかな」


 ん? 彼女がボソッと何か言ったようだけど……まぁ大した事じゃないよね。

 やっぱり魚かなぁ。海好きだし。どうせなら強いのが……鮫か、ああシャチなんていいな……鯨もいい。

 ゴミが浮かんでいたら嫌だから、人が暮らしているところから離れた場所で生まれたいなぁ。大海原をのんびりとさ……。

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