盗癖
「ちょっと、いいかな?」
――まただ、俺はまたやってしまった。
礼二は素直に店員の後に続き、事務室に入った。
机とパイプ椅子、白い壁。どこの店も同じような感じだなと礼二は思った。
「盗った物はこれだけ?」
「はい……」
礼二には盗癖があった。
これは自分ではどうすることもできない。何度やめようと思っても、無意識にやってしまうのだ。
店を出たあと、ポケットの膨らみに自分でも驚いたことが何度もある。
「たったのこれだけ?」
「はい……」
「もっと盗ってもいいのに」
「はい……。はい?」
「ふふふ。この店はね、君のような人たちのためにあるのさ」
聞けば目の前にいるこの個人スーパーの店長。彼もまた礼二と同じく、自分の盗癖に悩まされていたらしい。
治そうと詳しく調べるうちに同じ悩みを持った人間が数多くいると知った。そして、運よく宝くじで大金を手にしたのを天啓と思い、このスーパーを始めたのだ。
店の中の物ならどれでも盗んでいい。ただし、最低でも一つは買うこと。そのうち、盗む数と買う数を逆転、つまりは症状を克服して欲しいとの事。今では治ったという人から感謝の手紙や寄付が届くとか。
礼二は涙を流した。こんな自分にも居場所があるのか……と。
店長は優しく肩を叩き、いつでもおいでと礼二に言った。
礼二はこの日、一つ買った。
ラムネの錠菓だ。小学生の時、生まれて初めて盗んだ物だった。
店を出た礼二は蓋を開け、一つ口に放り込んだ。
爽やかな味。そして爽快な風が吹き抜ける。まだ全てが自分に優しかった頃を思い出し、礼二は空を見上げた。
歩き出した礼二はものの数分で警官に捕まった。
全裸だった。




