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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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膨らむ想像

 お風呂上がりの火照った体、春子はそれが更に熱くなるのを感じていた。

 このダブルサイズのベッドの前に立つたびに、彼のことを思い出し……はらわたが煮えくり返る。

 まさか同棲寸前で彼の浮気を知るとは思わなかった。そのせいでこのベッドを有効活用する機会は流れたのだ。

 ゆえに春子は今日も侘しく、ひとり眠りにつく……。

 彼氏がほしい。

 彼氏が……。

 ほしい……。


 春子は毎晩のようにそう思い、そしてまた寂しい朝を迎える。

 が、この朝はいつもと少し違っていた。

 春子が目を覚ますと隣に膨らみがあったのだ。

 

 え、なにこは……? 掛け布団の中に何が……?

 訝しがる春子。覚悟を決めたように息を呑み、上から手で押すと、その膨らみはクシャと潰れた。


 なんだ、空気かよ。って当たり前か……。

 春子は力なく笑い、ベッドから降りた。


 しかし、翌日の朝もその膨らみは現れた。

 これ、どういう原理? 頭を捻るが浮かばず、寝相が悪いという不本意ながら合理的な結論に落ち着く。

 だが、さらに日が経つと、ある変化が起きた。

 春子がいつも通り、手で潰そうとしたその時、確かな弾力が。

 春子は「うひぃ」と声を上げ、ベッドから転げ落ちた。

 何かがいる。

 警察……・。

 そう思った時だった。


「おはヨウ、ハ、ル、コ」


 膨らみから声がした。


「誰、誰なの……?」


 わなわなと震え、漏らした声。期待はしていなかったが返答はなく、しばしそのまま。無言の時が流れ、体の震えが少し収まった春子は恐る恐るベッドの掛け布団をめくった。

 しかし、そこには誰もいなかった。

 寝ぼけていた。そう、あれは夢が絡みついていただけのこと。春子は自分にそう言い聞かせた。


 しかし、翌日の朝もその膨らみはあった。

 そして……。


「おはよう、ハル子」


 それは気のせいか昨日よりも流暢、それに良い声だった。


「お、おはよう……」


 返事はなかった。そして、掛け布団の中には、やはり何もいなかった。

 だが、春子はほのかにある期待を抱いていた。

 また日が経ち、ある朝。


「おはよう、春子」

「ふふっ、おはよう。修二っ」


 修二と名づけたのは春子自身だ。

 そう、これはイマジナリーフレンドのようなもの妄想彼氏とでも言おうか。

 無論、春子は自分の精神状態に一時、不安になったが朝、ひとりで起きるよりはいい。植物が育つ楽しみのようなものを見出していた。

 その膨らみはもう成人男性の大きさにまでなり声は甘い、いい男の声だ。そのうち姿までもが具現化されるのではないか?

 それも……裸の……そして、ふたりは……。

 そう想像すると春子はうひひと、ひとりで笑うのだった。


 翌日の朝。目を覚ました春子は背中に痛みを感じた。

 その理由はすぐにわかった。

 床の上だ。床の上で眠っていたのだ。

 本当に寝相が悪くなったのかな……と、春子は頭を掻く。でもいい。こんな自分も彼は受け入れてくれる。なぜなら彼は自分の理想の存在なのだから。


「おはようっ、修……」


 言葉に詰まった春子。

 その目の前のベッドには二つの膨らみが。

 そして声を殺すように男女の笑い声。

 まるで恋人同士が隠れてイチャつくような……。

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