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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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色つきタバコの怪

 タバコ業界を揺るがす、いや大いに盛り上げる新製品が発売された。

 色つきタバコである。その名の通り、吐いた煙に色がついているのだ。

 毎回、同じ色とは限らない上に見えるのはほんの数瞬だが、それが却って喫煙意欲を増長させた。

 一番人気は金色である。安直だが「金運がある」とその色を出した人間はモテにモテた。

 キャバクラやクラブでの喫煙は当たり前。店内を彩る女と煙。嫌煙意識が進むこのご時勢、追い風となるぞ、と「まだ早い!」と言う開発室の制止を聞かず販売されたこのタバコは空前のブームに。


 ……しかし陰りが。赤色、それもどす黒い赤を出した人間は数時間以内に死ぬ。そんな噂が世に出始めたのだ。

 ただの噂。根拠などない。ライバル社の営業妨害。そう笑い飛ばそうとしたのだが……目撃者がいたのだ、それも複数人。

 駅近くの喫煙所にて赤黒い煙を出したその男は震え上がり、タバコをその場に放り捨て、喫煙所を後にした。その足取りの頼りなさたるや、動揺がそのままあらわれていたという。そして、喫煙所からそう離れないうちに車がその男に突っ込んだ。即死だった。カエルが胃袋を吐き出すように押しつぶされた男の身体からドロッと赤黒い肺が出た、吹き上がった血がタバコの煙のように霧散していった、などと話に尾ひれがついたが、しかし、これはただの事故。偶然だ。タバコに毒性があったわけでもない。問題はない……とは言えなかった。


 全国各地でこのような事例が見られたのである。

 タバコ製造会社には連日連夜問い合わせが殺到。何を仕込んだ! と陰謀論飛び交う中、会社は起死回生の一手に出る。

 テレビで生中継しようというのだ。

 そして集められた百人の喫煙者。この中から赤黒い煙を出した者を保護し、観察しようという企み。数時間、あるいは数日経って何事もなければただの偶然。それでお終い。

 これには色つきタバコの開発者自身も立ち会った。その顔には疲れが見える。無理もない。全ての黒幕扱いをされているのだから。全て偶然。会社の命令で本人はそう言わされているが、偶然と言うなら色つきタバコの開発そのものがそうだった。開発者にも煙に色がつくその仕組みがよくわかっていなかったのだ。

 そして、彼はある考えが頭から離れなかった。もし手相でその人の一生を読み取れると言うのであれば人間の体には他にも、そう、吐く息にも未来の情報が詰まっているのではないか? 吐いた煙の色がその人の未来を暗示、赤黒い煙は死を……。根拠はない。手相もこの仮説にも。


「出た! 出たぞ! 五十四番!」


 開発者はハッと顔を上げ、モニターを見た。

 確かに赤黒い煙。ほんの一瞬だったが映像は撮れている。

 巻き戻し、再び見る。


「拡大とスロー再生を」


 緊張でしわがれた声。唾を飲み込む。指示通りに映像が流れた。



「顔……」


 開発者は思った。

 そりゃそうか。顔に煙を吹きかけられたら真っ赤になって怒るよな。


 一時停止されたモニターには怒りの形相で喫煙者を睨む、赤黒い顔が映っていた。

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