結ばれてる
「僕らはね、赤い糸で結ばれているんだ」
「ふーん」
「つまりね、運命の相手なんだよ」
「はいはい」
「嘘だと思うだろう? でも僕にはハッキリ見えるんだ」
「あっそ」
「だからね、僕らは絶対離れ離れにならないんだ。ねぇ、考え直してよ」
「やだ」
ため息一つ。椅子から立ち上がり、一度も振り返ることなくスタスタ歩き去る女。一人、カフェのテラス席に残された男はその背中を見つめる。その目に浮かぶは憎悪の色。
「本当なんだけど……ね!」
女が道路を横断するその最中、男が小指に結ばれた赤い糸をグイと引っ張った。
すると何かに引っ張られるように仰け反る女
そして……。
「残念。見えるだけじゃなくて触れられるんだなこれが」
男はいい気味だとばかりに笑った。
いつかは忘れたが男は自分にこのような特殊能力があることに気づいた。
運命の赤い糸。彼はそれに望んだ時に干渉することができるのだ。
つまり今のように引っ張ることもできれば女の指に引っ掛けることもできる。
すると、自然と恋人になれた。尤も洗脳ではないため、先程のように別れを告げられることがある。そして糸もまた自然と解けてしまうのだ。事情を知らぬ女からすれば『一目惚れしたけどなんか違った』といったところ。
結局の話、男自身の魅力にかかっているわけだが、男はただただ腹立たしく思っていた。それがこのような結末を招いたのだ。
女に駆け寄る人々。男もそれに混じる。
――即死だな。
車に轢かれた女の首は見事にへし折れていた。
左隣の男が口を押さえながらヨタヨタ遠ざかり、植木に向かって吐いた。右隣の女もフラフラとその場から離れる。
――今の、けっこう、可愛い顔していたな。
男は鼻歌を歌いながらその後に続く。女のその小指を見つめながら。
……と、男のその足がピタッと止まった。指に何か違和感を覚えたのだ。
視線を下に向けようとしたその直後、背後で悲鳴が上がった。
そして男の小指から伸びた赤い糸がピンと張り、小指がクイッと曲がった。




