子供たちの未来
ゴポゴポゴポ。
ここが好き。
ゴポゴポゴポ。
なんだか落ち着くの。
ゴポゴポゴポ。
ここが私の居場所。
ゴポ……
「その後、問題はないようですね」
「ええ、先生。ただどうにもうちの子はお風呂、というか水の中が好きみたいで……。この前なんか。うふふふふ! 生簀に顔を突っ込んで大変でしたよぉ」
大変と言うがその母親は笑っていた。無理もない、念願のわが子なのだ。どんな奇行も許せるというもの。
しかし、母親が帰った後で博士は報告書を睨む。
あの家に貰われた子だけではない。どの子も水に強い興味を抱いている。何か事故に繋がらなければ良いが……なんて暗い考えは私くらいで親たちは『将来は水泳選手』なんて展望を述べている。
事実、全員といっても差し支えないくらい、どの子供も泳ぎが得意のようだが……。
博士はカードキーを差し込み、ドアを開けた。
そして部屋に入り、赤子を眺める。すると博士の脳内にある情景が浮かんだ。
子供たちが海亀の子のように一斉に砂浜から海の中に入る。
恐れはない。適応できると分かっているのだ。
母なき子。帰る場所は生命の源。
海中を自由に泳ぎ回り、波と魚と戯れる。
その彼らがこちらに手を振っている。
と、そこで博士はハッと我に返った。
そして目の前のガラス容器に触れた。
発注はどんどん増えている。
いずれ、人間にとって代わるかもしれない。
そして海に……なんて私もあの親たちと変わらないな。子供たちの未来に夢を見てしまっている。
培養液の中ですくすく育つ赤子たち。時々、ピクッと動く。それが僅かに手を振ったように見え、博士もまた優しく手を振り返した。




