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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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マスクを外して

 ある夜。男は家に帰り、洗面所の鏡の前でマスクを外した。

 その流れでゴミ箱の中に落としたつもりだったが中に入っていたゴミの山から滑り落ち、マットの上に落ちた。

 舌打ちして拾い上げようとする手が止まったのはマスクのちょうど真ん中辺りに、赤いシミがあるのを見つけたからだ。道に生えているような小さな赤い実を二粒ほど上で磨り潰したようなそんな丸っぽいシミ。


 男は指で唇を触る。ついでに手で口を覆い、咳を一つ。それから口から離した手の平をジッと見つめる。

 クレヨンのカスほどの血も見受けられない。自分の血ではないのか? 家を出る前に着けた時にはなかった。念入りに確認したわけではないが白い布に赤は目立つ。あれば気づいたはずだ。


 家を出てから帰るまで喉や口の中に血の味がした瞬間はなかった。ならどうして?

 男はマスクを拾い上げた。そこであることに気づく。

 外側だ。この赤いシミは内側からつけられたものではない。よく見れば外側のほうが色が濃いのだ。

 で、あるならば何だと言うんだ? 何かを吹きかけられた覚えも、何かが触れた覚えもない。一度も外したことは……いや、一度だけあった。

 トイレだ。うがいをしたくなって一度外して置いたのだ。

 ずらすだけにしておけばよかったのだがゴムで耳が痛かった。いや、だからといってもその一瞬で何が……。

 いや、確か隣の洗面台に人がいたはずだ。俺が腰を曲げ、ぺっと口の中の水を出す瞬間にサッと悪戯したんだ。可能と言えば可能。しかし、何のために……。


 男はしげしげとマスクを眺めた。何かのマーキング? 泥棒が家の表札などにするような……。


 キスマーク。


 そう頭によぎった時、インターホンが鳴り、手から落としたマスクがまたマットの上に着地した。

 ちょうどマットの模様と合わさり不気味な顔が男に微笑みかけているようだったが男の視線は玄関の方を向いていた。


 鍵を閉め忘れた。

 そう気づいたのはもうドアが開く音がした後だった。

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