叩く音 :約500文字
……いい加減にしろよな。
アパートの部屋で寝転んでいると、どこからか『タッタッタッタッ』と指で床を叩くような音が聞こえてきた。
たぶん、隣の部屋だ。数分経つが止まない。どことなく楽しげなリズムなのが、かえって腹立たしい。こっちは先日、彼女にフラれたばかりなのだ。だから……
「うるさい!」
怒鳴り、壁を叩いてやった。……よし、音が止んだ。ははは、ざまあみろ。
――タッタッタタン。
おれは思わず舌打ちした。壁だ。今度は壁を叩いてやがる。クソが。喧嘩を売っているのか……?
おれはもう一度壁を叩いた。
――タッタタタタタタタタ。
すると、リスが木を駆け上がるように、音が壁を這い上がっていく。
そして、それは――おれの部屋の天井へ……? どうなってんだ?
――タタン……タタン! タタン! タタタタン! タン! タンタンタタタタタタン! タンタンタタン!
どんどん威圧的な音へと変わっていく……。まるで、おれへ敵意を剥き出しに、いや、嘲笑うように。
やめろ……。
おれは震えを振り払うように、『ダン!』と床を強く一度、踏み鳴らした。
すると……音が止んだ、な。
「ふうー……」
しんと静まり返った室内。おれは息を吐き、耳を澄ました。
……大丈夫。終わった。
だから、気のせいだ。
そうに決まっている。
不規則に跳ねる心臓の鼓動が、どこか覚えのある楽しげなリズムなのは……。




