死ねと呟き街歩く :約500文字
死ね……死ね、死ね、死ね死ね死ね。
弛緩したジジイの尻から出る屁のように、口から漏れる。
死ね死ね死ね死ね。
ふん。天に向かって吐いた唾は自分に返るというが、私は真正面に向かっているし、誰かに直接言っているわけでもない。誰も罰せやしないだろう。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
この世の中への不平不満、怒り憎しみを吐き出さずにいられるか。
死ね死ね死ね死ね。
今、横を通り過ぎた、手をつなぎ歩く親子。高校生カップル。肩を並び、談笑する友人グループ。妬ましくて、死ねと呟く。
死ね死ね死ね死ね。
誰にも聞こえていない。だから構わないだろう。放っておいてくれ。私ごときの呟きなど、風に舞う落ち葉よりも軽いのだから。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね……待てよ。聞いているぞ。
私だ。私自身はさっきから聞いているじゃないか。ああ、ははは。やはり唾は己に返るものなのか。
……死ね死ね死ね。
だが、それでもやめられない。どうすればいいというんだ。死ねと呟かなきゃ、この胸は軽くはならないのだ。もっとも、呟いたところで、この重さは消えないのだが。
死ね。死ね。死ね死ね死ね死ね……。ああ死ね。やれ死ね。今の奴も遠くの奴もみんな死ね。自転車、車、老人に子供。政治家、芸能人、顔のいい奴、頭のいい奴、運動のできる奴、みんな死ね。おれも死ね。もう死んじまえ。いい加減に死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ね……。
……生きて。
ふと、なぜかそう呟いた。ただの気まぐれ。逆のことを言ってみたくなった、ひねくれだ。
生きて。
どこか湿気たマッチのような言葉。
だが、ほんのかすかに、温かさと明るさの兆し。火花のようなものが見えた気がした。




