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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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侵入者           :約1500文字

 ――なんだ……?


 朝、ベッドの上で目覚めて間もなく、胸のあたりに違和感を覚えた。それとも、違和感を覚えたから目覚めたのか……いや、今それはどちらでもいい。


 パジャマの下で何かが動いている。

 これは……蜂か? 外に干していた洗濯物を取り込むとき、窓から入り込んだのか。あるいは洗濯物にくっついていたのか。まあ、どちらでも同じことか。

 そんなことより、まずい。私は若い頃に一度、蜂に刺されたことがあるのだ。次に刺されれば、命の危険が……。

 しかし、下手に動いて刺激するのもまずい。あいつらは驚くとすぐに刺してくるんだ。

 ゆっくりだ、ゆっくり。何食わぬ顔で……まあ、それが意味あるのかはわからないが、気づかぬふりをして、まずは慎重に掛け布団をどかして、それからパジャマを脱いで……。


 ……いや、待て。蜂よりも可能性が高いのは、やはりゴキブリだろう。

 なら、刺される心配はない。ほら、蜂よりも大きい気がする。よかった。いや、気分は良くないし、すぐにでも振り払いたいが……いや、どっちだ? わからないな。蜂か、ゴキブリか。


 目を閉じて、感覚を研ぎ澄ませる――足の数は……それは、どちらも同じか。

 触角はどうだ? 長さは? 

 ……短い、か? いや、わからない。ん? ちょっと待て……これは尻尾か?

 それに今の感触……鋏か? いたっ、挟まれたのか?

 じゃあ、これはサソリ……? そんな馬鹿な。

 いや、待て……今度は羽のようなものを広げ始めたぞ……。

 それに、ぬめぬめとした感触……え、触手か?


 いったい……いったい、私の胸の上に何が乗っているんだ!?

 本当にこのまま動かずにいるのが正解なのか? こうしている間にも、胸の上のそれが、ますます重くなっているような気がする。

 ああ、まただ……私の想像通りに……想像通り? 私がそう想像してしまったせいか? 私の想像に引っ張られるように、そいつは形を変えて……そんな馬鹿な。それに、だとしてももう無理だ。考えないようにすればするほど、より具体的に、ああ、色まで、それに毛も……駄目だ。どうやっても脳から追い出せない。

 怖気が走るこの感触が、私に考えないことを許さないのだ。もはや私の手を離れ、まるで買い物かごに商品を次々と放り込むように、私の脳内で好き勝手に自分の姿を作り上げていく。

 これは、まさに怪物……。ああ、駄目だ駄目だ駄目だ。

 鋭い牙がある! 奴は喉を、どこを狙えばいいかわかっているのだ! 

 今にくるぞ! いや、そんなことあるはずがない! だが、重さはもう子猫、いや、成猫ほどにまで増しているじゃないか! 

 思い、息苦しい……嘘だ、嘘だ……ああああ! もう、振り払うしかない!


 私は意を決し、勢いよくベッドから飛び起きた。そして、パジャマを脱ぎ去り、目を瞑ったまま全力で振り回した。足もバタつかせた。もう、破れかぶれだった。


「はあ、はあ、はあ……」


 ひとしきり暴れると、動きを止め、耳を澄ませた。聞こえてくるのは、自分の荒い息遣いだけだった。

 私はゆっくりと目を開けた。


「え……」


 目の前をふわりと羽毛が落ちていった。

 おそらく、掛け布団から出たものだろう。それが恐怖の元だったのだ。

 気のせい、錯覚、夢うつつ。あれは、現実と夢が混ざり合い、作り上げた、ただの想像物だったのだ。


「ははは……」


 乾いた笑いが漏れた。水分は冷や汗となって流れ出ていったのだろう。喉が内側から切られたように痛む。

 水だ。水を飲もう。それからシャワーを浴びよう。


 ……なんだ、これは?

 胸のあたりに……ぬめぬめとした感触がある。あの想像物の触手が撫でた、まさにそのあたりに……。


 ――カリカリ……ガリガリガリッ


 ベッドの下から音が聞こえた。

 そして、私はその一瞬で鮮明に想像してしまった。


 自分の殺され方を。

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