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侍、刀、そして魂。—時代劇風冒険活劇ファンタジー/Samurai, Sword and Souls—  作者: ノラねこマジン
第1章 サムライ、オンミツ、そして旅に出る少女
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第1話  『序幕 あるいは てめぇら ぜんいん ぶちのめすっ!』

 戦乱の世も、今は昔。この世は天下泰平。


 今では、どの町にもいる冒険者たち。その者たちが生まれたのは、皮肉にも(いくさ)のない世になったからだと伝えられています。


 天下の覇権を争う大きな(いくさ)が終わり、戦場(いくさば)のなくなったこの国では、職を失った(つわもの)たちで溢れてしまったのです。


 しかしながら、大抵の者は全国の小国領主に召し抱えられ、領地を守るための侍となり、ある者は戦場(いくさば)となった町の復興に尽力し、またある者は荒れ果てた大地を耕しました。


 そして、そのいずれにもなれなかった者たちが化した賊の手から、まだまだ闇に蠢いているあやかしどもから、故郷を守るために一部の(つわもの)たちは、冒険者を名乗って動き始めたのです。


 もはやいくさの傷跡など微塵も感じさせない、天下泰平なこの世の中。様々な民が暮らすこの国で、この物語は始まるのです。



  ○ ● ○ ● ○



「な ん で  こ う な る の !」


 突然、有象無象の謎の(やから)どもに、こぞって追い回されて、思わず少女は叫ぶ。

 今は戦う(すべ)を持たない。明るく元気で、少しお茶目なワタシって設定だから、イタシカタナシ。


「じゃなくて、あのふたりは、いったいドコでナニやってんのよ!」


 二人のお供を従え、ひと夏の大冒険っ!


 そのはずが頼みの二人とは離ればなれ。ひとり町中を逃げまくる。

 浮世離れした美しい顔立ちも、今は土埃で真っ黒。すらりと均整の取れたその体躯に長い脚。

 そこに纏う衣装の裾も、どこで引っ掛けたのやら所々が破れ、その白い肌が(あらわ)となっていた。


 掴みかかる手を巧みにすり抜け、追いすがる手を右へ左へひらりと(かわ)す。

 狭い路地裏を縦横無尽に駆け抜け、塀をよじ上り、垣根を飛び越し、逃げる、逃げる。

 たまに、休む。


 しかし、敵もさるもの。ひっかくもの。何故か見つけ出され、追いかけっこはまだまだ続く。

 道ばたの石ころを(つぶて)代わりに投げつけ、風呂屋の(かまど)から掠め取ってきた灰を目つぶしに。

 その他諸々、即席の罠で相手を撒いてきた。馬丁通りで馬糞桶の中身をぶちまけたのはやり過ぎだったか。


 追っ手の数をかなり減らしたであろう頃には、人気のない町の外れにまで来てしまった。

 物陰に隠れ、懐に忍ばせていた小振りな握り飯を一口で頬張り、竹筒の茶で一息つく。

 微かにだが、風に乗って、遠くから自分を探す声と足音が聞こえてくる。


「おちおち一休みもできやしない」


 少女は顔をしかめながらも、そっと辺りの様子を伺う。


「あんまりしつこいのは嫌われるよー」


 近づく足音に、不敵な笑みを浮かべ少女は呟く。


 しかしそれにしても、と少女は考える。追っ手の数がまだこんなに多いってのはどういうこと。

 見ると途中脱落させたと(おぼ)しき連中が、いつの間にやら復帰しているように思われる。

 しかも、自分の背後からも、少なからぬ数の人の気配を感じる。周りを囲まれているようだ。


「でも、ちょっと楽しくなってきたかも」


 すっくと立ち上がり、緩んだ帯を、きゅっと締め直すと、追っ手の前に立ちはだかる。

 もちろん逃げ出すのには、十分な距離をとって。


「うーん、小癪こしゃくな。アンタたちにはコレをお見舞いしてやるわ」


 やにわに懐に手を入れると、丸い竹皮の包みを取り出した。


「これで、アンタたちもイチコロよ。ってコレおむすびじゃない」


 慌てて懐の中を探る少女に、追っ手の男たちも失笑混じりにザワつき始めた。


「おいおい、握り飯でオレたちをどうするって」


「だいたい、何だよ。今時コシャクとかイチコロって」


 じわじわと迫り来る男たちから、視線を反らさず少女は言う。


「あーっ! もー、うっさいわね。そもそもアンタたちは、なんでワタシの行く先々に追って来ちゃうのよっ?!」


 男たちの一人が、竹皮何枚かを、その手に答えた。


「そりゃオメーが、逃げた先々で飯喰って、包みを捨てていくからだろうがっ」


「そうだ、そうだーっ!」


 他の男たちも、口々にそれに応える。


「通った道筋、マルバレなんだよっ」


「そうだ、そうだーっ!」


「ゴミはきちんとゴミ箱に、そう教わらなかったのか」


「そうだ、そうだーっ!」


 男たちの言葉に、顔を真っ赤にした少女が叫んだ。


「だーっ、もー面倒ね。爆裂弾でも投げて、終わりにしちゃおうかしら」


 少女の物騒な物言いに、追っ手の包囲の輪がぐぐっと広がる。


 堪り兼ねたように、(かしら)らしき男が、前に進み出て口を開いた。


「私はさるお方の依頼で、あなたを保護するために追いかけて来たのです。どうかご理解を」


 更に一歩二歩と、少女の方へ近づきながら、説得を重ねる。


「もう、本当にお願いします。大人しく帰りましょうよ」


 両手を大きく広げ、土下座せんばかりの勢いで懇願する追っ手の(かしら)


「だーまーさーれーまーせーんっ。アンタたち、どう見ても町のチンピラどもにしか見えないんですけどー」


 何故かトクイ気に胸を反らせ、腰に手を当てる少女。


「ワタシを捕まえてどうするつもりよー。きっとあーんなコトや、そーんなコトやっちゃうつもりでしょ」


 その言葉に途端に色めき立ち、叫ぶ男たち。


「失礼な。下級とはいえ我々も冒険者の端くれ。子どもには手を出さん」


「そうだ、そうだーっ!」


 それを聞いた少女の表情がピクリと変わる。


「……ど……も……じゃない」


 地の底から響いてくるような恐ろしい声。


「ワタシは子どもじゃなーい」


 少女の豹変ぶりに、正体不明の追っ手の(やから)ども改め、公儀の冒険者たちは静まり返った。


「て め ぇ ら ぜ ん い ん  ぶ ち の め す っ !」

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