第77話 アラタの過去⑤
俺の腕は、勝手に槍を引き抜いていた。
それとほぼ同時に、化け物の上半身から鋭利な爪が伸びる。
「ッ」
身体を捻って左へ回避すると、爪は壁に突き刺さる。
化け物が、俺を見つめた。
つるりとした白磁の面に深く開いた顎、その中には夥しい数の牙が蠢いている。
上半身は引き絞られた人型で、下半身はのたうつ触手……それに加えて根本の部分は甲脚科の魔獣のようだった。
明らかに人のそれじゃない。
でもたしかに……
「すごいでしょう? これが熾天化の力よ」
「! 誰だッ!」
後ろから声がして槍を振る。
その人影は槍に斬られると幻影のように溶け消えた。
声が、今度は化け物の方から響く。
「私? 私はシャーロット。
熾天化を研究する者にして、それを伝える者」
声の主の見た目は幼い少女で、ボロ布のようなローブを纏っていた。
妖艶なまでに白い肌と、七色にも無色にも見える双眸が槍の灯りでぼんやりと確認できる。
「なにが研究だ……マリィをどこへやった!!
熾天化は、マリィが任された遺産だぞ……!」
うっすらと過ぎった不安を、彼女は煽るように告げた。
「居るじゃない。ここに」
「────────!!!?」
きゅる、と化け物の首がこちらを向く。
"彼女は"牙を蠢かせ、音を発した。
それは、一番聞きたかった、そして聞きたくなかった言葉だった。
「あー君」




