第76話 アラタの過去④
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ある日を境に、マリィは俺とエリクから徐々に疎遠になっていった。
理由は簡単だ。
魔法は他者にばれるわけにはいかない。
まして国で見つけた旧文明の遺産なんて、他国に流出するわけにはいかなかった。
だからこそ、熾天化の研究は厳重な秘匿体制を用意して行われた。
日が経つにつれ、"コード・ウルティマ"……そうあだ名を付けられて、脅し文句にすらなっていった。
緘口令だって敷かれたくらいだ。
マリィは初め俺たちと研究ができないのを寂しがっていたが、三人ともその理由は理解できた。
"最初にキミに完成品を見せるよ"
そうマリィは言って、軈て彼女の顔を丸々2ヶ月見なくなった頃だった。
マリィから、軍の秘密文書で招待状が届いた。
ヴァラトーの城塞、その奥にある研究塔の一角に自分は居て、完成したからそれを見せるという。
そこには早くお披露目するのが楽しみだ、とか、2人にも久しぶりに会えるから嬉しい、だとか……他愛もない内容も入っていた。
同時に、この招待状はエリクにも届いていると思った。
そしてこの内容を知られたり他者に勘繰られたりするのは、彼女と軍の本意ではないとも。
だから俺は、その塔に何気なく向かった。
気温の割に、西日が強く照りつける夕方だったのを覚えている。
普段は細かい身体検査が必要な城塞も、今回は真章騎士の徽章を見せれば一発で通れた。
第三研究塔、その門を開くと、そこには誰も居なかった。
ただ、中央にベッドがあってそこから放射状に並ぶ家具の配置と埃っぽさが、マリィがここに住んでいたのだと俺に教えた。
同時に違和感を感じた。
この窓の無い研究塔の中で、結構な時間を過ごしている?
だとすれば、相当にキツい生活だったろう。
そして、その彼女なりの生活感溢れる部屋がもぬけの殻。
彼女は塔の上階に居るんだろう。
だがしかし、やけに静かだった。
そして、エリクとも鉢合わなかった。
俺はその時、妙に様々なことが目についたりしたけれど、不思議と不信感は抱かなかった。
いや、抱きたくなかったのかもしれない。
どうせ2人とも俺を驚かそうとでも考えているのだろう、そんな楽観的な考えでゆったりと階段を登った。
そして、最上階に来た時だった。
真っ暗だった。
マリィが居ない。
そう、思った時だった。
「あー君」
声がして、それがやけに"響かなかった"。
まるで耳元で囁かれたかのような、ピタリと鼓膜に張り付くような音だった。
軽く槍を抜いて、光源代わりにして部屋を照らした。
そこに、彼女は居なかった。
水流の触手を捩らせながら、獰猛な牙と8つの目を持つ化け物が、ただ俺の目の前に佇んでいた。




