第72話 静寂に恐れを捨てて
「うわ、すごいね」
「ん? …あ、あぁ。
セツナか……」
不意に、作業場に背後から光が差した。
振り向くとセツナが居た。
「出られなくて悪いな…収穫はあったのか?」
「あったよ。襲撃がね」
「何!? おいそれじゃあ…」
「心配するなって。
貧民区とはいえ街の中だし、僕ら4人も居るんだぜ。
何とかなったさ…それに、手がかりなら今ロザリア達が調べてくれてる」
「そうか…良かった」
役に立ててない悔しさと、何とかなってることへの安堵が混じって腹の奥をきゅっとさせる。
カトレーヌも読めない奴だけど、協力的みたいだし良かった。
「…ね、見ててもいい?」
「えっ? あぁ、これか?
あー……いや、セツナなら、大丈夫だ。
別に商売敵って訳でもないしな」
「うん、ありがと。
閉めるね」
俺が言い淀んだのは、別に見せたくなかったからじゃない。
いや確かに、万理印を構築しているところなんて他人に見られたら印章士として良くないのかもしれないが、そんな事はどうでもよかった。
ただ、話し難いからだ。
セツナと2人きりで会話するのが、何となく居心地悪かったからだ。
でもセツナはソレすら見越したように、ゆっくりと扉を閉めて、別に近付くでもなく閉じた扉に寄りかかった。
手元の火種だけがぼんやりと光を灯し、薄暗い部屋の中で作業の音だけが暫く響く。
軈て口を開いたのは、セツナの方だった。
「死体操作の術だったんだ」
「! 犯人の魔法か」
「うん…しかも恐らく、毒属性。
身体の中に入るのに、入れられた人はソレを毒だと感じにくいものだって、ロザリアが」
「じゃあ、もしかしたら────」
「そう。
もしかしたら、生前に入れられて、そのまま殺されて発動するタイプの可能性もあるってさ。
カトレーヌさんもそう言ってたよ、やっぱり巡視官ってそういうの慣れてるのかな」
「…恐らく、慣れてるだろうな。
巡視官は対人戦はお手の物だろう」
「…………アラタも、そう?」
心臓が、跳ねた。
唇が震える。
だが同時に、俺の身体が勝手に強がることを選んでいた。
「……まぁ、そうだな。
昔の話か?」
「あ! いや…問い詰めたかったわけじゃないよ。
ただ、その、気になったんだ。
アラタが起きてから、ずっと何処か暗いような気がして」
セツナの言ったことは、本心だろう。
同時に、ゾーア島でエリク達が口にしたことを気になってもいるはずだ。
言いたくない。
昔の過ちで、事故で、仕方の無いことで、誤解された事実だ。
でも、事実だから。
言うのが怖い。
引かれたく無い。
嫌われたく無い。
そんな身の上で自分を励ましたのかと、そんな風に思われたく無い。
だけど────あの日、俺に全部を吐き出したセツナはだって、このくらい怖かった筈だ。
自分だけ言わないなんて────そんな狡い事があって堪るものか。
「ちょっと聞いてくれ。
俺がここに来る前、そう……ヴァラトーでの話をするよ」




