第66話 犯人探し
「何してるんだ?
犯人探し、しないのか?」
「今からするわ。
ちょっとだけ待ってね」
貧民区の入り口付近……修道院から出て間もない位置でクリスティナは歩みを止めた。
彼女は懐から試験管と錠剤を一つずつ取り出す。
コルクで封をされた試験管の中には、薄緑色の粒子がふわふわと浮いていた。
「お嬢様、やはり私に任せて貰えませんか。
死体から抽出されたマナですし……」
「平気よ。
それとも、貴女の魔法はそんなに陳腐なものなのかしら」
「そんな! そういうわけでは……」
「なら任せて。
ローザだけにやらせては立場が無いもの。
その代わりにしっかり気を張っていてね」
「か、畏まりました……」
ローザを言い負かし微笑むと、クリスティナは試験管の中の粒子を口に吸い込み、即座に錠剤も口の中へと放り込んだ。
ごくり……と嚥下の音がすると、クリスティナの身体────正確には、視界に変化が起きる。
風景は夕闇のようにぼんやりと暗くなり、代わりに家屋の屋根付近に、ぽつりぽつりと鮮紅色の光が映った。
「どう? 見えるかいクリスティナ」
「ええ少し。
やはりここは同一犯に狙われていたようですね……監視か何かのマナ残滓が、屋根に見えます」
「嫌な予想が当たってるなぁ……こりゃ早いところケリつけないと不味いかもしれないね」
「え? え? ね、ねーちゃんたちには何か見えてんの?」
クリスティナとセツナの会話に困惑する少年。
その疑問に対する回答は、少年のすぐ横から飛んできた。
「|系統同化式魔法探知甲型。視覚的に特定のマナ流動、残滓を探知する魔法です。
クリスティナ・アオザホースには、先程のドープを操っていた者が用いたマナと同系統の残滓及び痕跡が、極めて特徴的な色で見えていることでしょう」
「???」
「……要するに、犯人の足跡が見えるのです」
「そ、そんな魔法あんのか!
すげーなー、でも何で魔法で何でもできるのに、修道院の人はやんなかったんだ?」
「基本的に、魔法使い同士の戦いは速さが基本です。
魔法とは印章術を除けば本来時間と手間のかかるもの。
よって、相手が魔法使いだと分かったところで、同一の事件がすでに何度も起こっているということであれば、相手が十分な陣地・魔法構築が整っている可能性が高い。
故に下手に動くよりは予防に切り替え、協力者を求めた……と言ったところでしょう」
「?????????」
「……つまり、人手が足りないのです」
「なるほど!」
少年が頭の上に?を浮かべてもなお、カトレーヌの表情と声色は崩れない。
「体調に変化はありますか、お嬢様」
「今のところ大丈夫。
もし異常があったら言うわね……じゃあ、探しに行きましょう」
クリスティナとセツナを斥候として、4人の印章士と少年一名が探索を開始した。




