第63話 思わぬ収獲
「?」
「どうしましたか、お嬢様」
「今、修道院の方からマナが弾けた様な気配が……」
「そんな気配があるのですか?」
「えぇ、熾天化を受けてからだけど、なんだかそう言うものを時々感じるのよ」
「まぁしかし、彼方には魔警の彼女やセツナが居ます。
問題はないでしょう……何かあればマギビークルで離脱する事も可能な筈です」
「そうね……わたくし達も何か手掛かりを見つけなければ」
クリスティナとロザリアは現在、情報を得るべく貧民区を歩いていた。
(物乞いが居れば、情報量をある程度品定めして施そうとも思ったが……そういう輩も居ないようだな)
ロザリアが注意深く周囲を見る。
表通りからは比べるべくもない狭い裏路地。
潰れた店や空き家、安値の倉庫……人気の無い建物群にもたれて座っている人々が数名といった状況だ。
当然、その風景には似つかわしく無いクリスティナの青い礼服は、見るものの目を引く。
しかし同時にロザリアが後ろをついているため、悪事を働きにくい状況ではあった。
と、ここで。
「うわぁぁ!」
「! お嬢様ッ」
突如響いた悲鳴、それは十字路に差し掛かった時に発せられた。
ロザリアが素早く声のする方とクリスティナの間に割って入る。
その声の主は年端も行かぬ子供で、半泣きの状態で突っ込んできた。
「────」
整えられていないぼさぼさの髪に、破れかけの衣類。
その姿は、ロザリアの記憶の隅をつついて止まない。
ボフッ
「おわっ!?」
「ローザ!?」
「っ、大丈夫です」
ロザリアがその子供を受け止める。
飛び込んできた勢いに反して、その身体は軽かった。
「た、助けて!」
「何があったかを言うんだ、それによる」
「魔獣が襲ってくるんだ!」
「何?」
ロザリアがその子供を背中へ下がらせ路地へ目を凝らす。
よく見れば、愛玩用魔獣であるドープがぐったりと倒れていた。
(……おかしい、あのサイズはどう見ても"ハウンド"のサイズ……)
「おい、お嬢様と一緒にいるんだ。
私は少し様子を見る」
「えぇ?! ねーちゃん大丈夫?!」
「大丈夫だと思ったから助けを求めたのでは無いのか……私は印章士だ、問題ない」
ロザリアが近付いて調べるなら、そのドープはもはや生命活動を維持していない死体だった。
「!!」
故に、有り得なかった。
だらりと垂らされたドープの舌だけが新鮮で、印章が刻まれていたのだ。
「ローザ? そのドープからも魔法の気配がしたわ、離れた方がいいんじゃ…」
「いえ、すでに息絶えています。
お嬢様までそう仰るのでしたら、確かですね」
「どういうこと?」
「この街に、何らかの悪意が潜んでいるのかもしれません。
この死体は検証すべきでしょう……それと、そこの子供」
「んぇっ、な、なに?」
「お前がポケットに入れたそれは私の万理印では無いぞ」
「え゛っ」
「え?」
子供はビクッと身体を震わせると、冷や汗をかき出した。
「全く、思った以上の収獲だな……お前も修道院に来てもらう。
話を聞かせてもらうぞ……財布では無く、万理印を盗もうとした理由をな」
「ローザ、あなた仕込んでたの?」
「来る前に貴重品のダミーを身につけておきました」
「な、き、汚い!」
「お前ほどでは無いさ。
さて、魔警に突き出されるよりはマシだろう? 行くぞ」
クリスティナも初めて見る、してやったりといった表情のロザリア。
彼女は子供の首根っこを捕まえると、クリスティナと共に修道院へと戻るのだった。




