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「愛によろしく」など

愛によろしく

作者: 維酉

〈温度、あります〉


鏡台に見切れるくらいの背伸びしてお洒落な嘘の予行演習


感覚で素肌になったあの朝の純朴だけで生きている処女


光さす広島駅の北口で秋に晒さる喉のあたりで


信号は右見て左見て右を見て足元見てきみを見ていく


小綺麗な鮭になりたし土曜日の水族館のほのぐらいまで


魚ならクマノミとかで生まれたらまたかわいいといわれそうだし


たぶんすき慣れてないから暗がりで飽和する恋 手を繋ぎたい


あんまりな顔でごめんね来世ではきっと素敵なエイになるから


左手に温度、あります 右手には温度と恋ときみがあります




〈左手のアフォーダンス〉


空間の強まる二十五時ふたり消え入りそうな純朴が青


ラヴソング流れるまでの埋めあわせします たとえば泣いてみるなど


左手のアフォーダンスは消えかけておそらくもう絡まない指先


たべてみたいものがみっつくらいあればあしたもあくびをしなくてすむ


死に体な絶望にもし気づいたら環状線を二周してみて




〈きみの命日〉


駅前のおいしいパスタを食べにいく わたし来世はねずみになるね


あなたより大事なひとはきっといてそれを忘れるための食卓


今日がきみの命日になりますように パスタがおいしくできますように


恋さえも着飾っている街角で秒でセックスするだけの恋


いうなれば恋は盲目かつ聾唖 だれも言葉を交わさぬきまり


数時間前のパスタがわたしには最後の晩餐という前提


躰さえ赦すほどではないにしろ来世をすこしおあずけにして




〈恋をする蟹〉


もし明日機械仕掛けになったって三倍速で恋をしている


毎日が戦争なのだスカートのしわを迫害する朝は晴れ


塹壕に隠れて生きる よく晴れた朝に限って鍵を忘れる


もうずっと一緒にいてと抱きしめた昨日の熱はまだ残ってる?


神様は死んじゃったそう ありていな夜の懺悔が揺れてふれており


だれひとり死なない戦争 爆弾を花束にしたひとの空襲


この朝とむかしの春が合わさって恋を始める・恋が渦巻く


夜と霧 猫とまたたび きみと花 泡めく春と恋をする蟹




〈愛によろしく〉


『侵略者27号襲来』の次回予告とお湯を張る音


蓴菜を買う土曜日と蓴菜を捨てる土曜日きみに会うなら


ことばよりたしかに見える寂しさが居座る204号室


来週はテレビをいちどもつけないで夜に蕩けてすぐいなくなる


さようなら生より死より真っ当なきみのうさぎと愛によろしく




〈風のいろは〉


三月の風のいろはを知りたくて伸ばした髪をたまに結うとき


新しき水の流るる三月に振り返ること花になること


拭えない涙さえあり花柄の心は霧のすぐ深い場所


春よりもずっと春らしい温度で覚えてしまうあなたのありか




〈やさしさ〉


約束は叶わなければ幸せで叶ったのならやさしさになる


百年もまえの思いが届くなら春のおぼろな揺らめきがクズ


よそいきの衣裳をまとう退屈はビル街を喰う やさしくなりたい


傷つけたひとの名前もわからずにまた傷つけるふつうの態度


ナイフまで持っていること さめざめとした街角できみに会ったら


深々とお辞儀をしてる毎日のよこをそしらぬ顔で過ぐだけ


お洒落してひとに恋するくりかえし 昨日聞いたパンケーキはおいしい




〈ふたしかな蟹〉


ねぇ、好きだ。鳩がかわいいとかじゃなくより純粋な理由でいたい


春のようにわたしもいつか終わるからまず歯ブラシとシャンプーを買う


叶うならきみのとなりで どうだっていいからもしも蜘蛛になっても


この街は見えないものでできている大根買って帰ろうきみと


左手があたたかいぶん好きになる移ろう今日のふたしかな蟹

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