最終話 センゴ
●「ほっほー!(結果発表じゃ!)」
なんだか久しぶりに戻って来たような感覚だ、このスタート地点である神様空間に。ちなみに美味しバトルの間、元の世界の時間は進んでいないので浦島太郎になることはない、あーよかった。
完全に蛇足でしかない勝敗の判定だがこれも決まりだ、消化しなくてはならないイベントだろう。最高点の勝者に与えられるご褒美はまあどうでもいいとアカルたちは考えている。
神様とやらが与えてくれるチート設定なんて興味が無いし、受け入れるのはカッコ悪いと思っているからだ。平たく言って彼のポリシーに反するのだ。結局己の力で戦い勝ち取ったものにしか意味が無いのだから。
問題は最下位に与えられる神罰ゲームだ。それはそれぞれの世界に戻った後『外出先でウンコを漏らしそうになる』こと、そしてマイナス点の最下位に至っては『外出先でウンコを漏らす』ことという狂悪なものであった。
「しっかしさあ、なんでここにきてウンコの話するかねーこのファッキンジジイは」「ふふぉふぉ!(やはり人間は食べなくて死んでしまう、同じように排泄しなくては死んでしまうものだからの、食べる行為について触れる時は同様に排泄する行為についても―――)」「「「「いらねぇー!」」」」
「いや、いいから、そういうのホンットどーでもいいカラ」「美しいものだけでなくコインの裏表である汚いものについても同時に語るべきという謎の使命感があるのは理解しましょう、問題はそれをここでやるのかという話ですよ、それになぜ漏らさなくてはならないのですかねえ、それも外出先でとかありあえないでしょう、下手したら人生終わりますよこれ」
「うほほーい!(第一位の発表ぞい!)」ダララララララララララララ…どこからかドラムロールが聞こえてくるが、場の雰囲気はまったく盛り上がらず、むしろ白けに白けていた。
「ほえ!?(ムッ、これは…!)」「とっとと発表しろッス!」「ホエー!ホエー!(おめでとう!全員100点満点の1位じゃーい!)」4人は力無く笑い、そして力無く拍手をした、パチパチパチ…
「ホッフェー!イギー!イギーッ!(そして同時にオヌシら全員0点の最下位じゃー!美味し!美味しだもう!)」「「「「ふざけんなーッ!あと『オヌシ』言うな!」」」」
「ま、まあ『漏らしそうになる』で止まってるわけですし、ここは大人しく受け入れておきませんか?」「まあ旦那がそう言うなら、けどこれって元の世界に戻ったら忘れてるワケよね?」
「ファック!漏らしそうになる恐怖はこれまでも結構あったのに更に上乗せかよシーッット!」「これまでウンコ漏らしそうになったのってオレらの知らないどこかでもらっちゃってた神罰ゲームのせいって言われてもなんか納得出来るッスね」それは生命を頂いて生きる業深い人間という生き物に与えられた、試練のそのひとつなのかもしれない。
「とにかくマイナスを出さないように美味しバトルを進めていくしかないでしょうねえ」「この中で漏らしたコトあるヤツはいるン?」「メーン、いつもギリギリセーフメーン」「ありがたいことにオレもまだ無いッス」まあ漏らしたことがあってもその申告をここで正直にする者はいないだろう。
さて、スーパーご褒美タイムである。「ひっほ(イチゴからいくかの)」「じゃあオレは『他の3人の助言を忘れない』でいくッス、けどこれってどーなるんスかね、お告げみたいのが聞こえるんスか?」「ほふぇ(なんかこうしないといけないみたいな気持ちになるだけじゃ、お告げとか聞こえたら怖いじゃろ)」
「じゃあイチゴボーイ、ミーからのアドバイスは『オグリキャップ引退試合の有馬記念で勝つ』でどーよ、単勝を全力で買うだけでなく馬券購入代行も出来る限りやるんだメーン」「ウ、ウス、サンキューッス」ニイゴからの過剰なスキンシップに身の危険を感じ始めたイチゴボーイであった、今も後ろから抱きしめられるようにニイゴの膝の上に座らされていた。
「じゃあジブンからはさっき出てきた『あじまるを守れ』にしますかネ」「ウス、ありがとうございます」「あとニイゴちゃん、イチゴちゃん怯えてるヨ、放してあげな」「チッ、いーじゃん減るモンじゃねーし、自分なんだしメーン」解放されるイチゴ、ホッとひといきである。
「ワタシからは、そうですねえ『学園祭後夜祭の大トリのバンドのボーカルをピンでやれ』でいきましょうか、レストランの件はまた後ほど」「旦那、ドラマーが取り合いになるから早めに抑えとけも追加で」「ウス、頑張るッス、ありがとうございます」
「ふっほ(ニイゴはどうじゃ?)」「ミーはシンプルさ『すべての友達としあわせになるために生きたい』これで」ギャングの荒んだ生活の中にいるからだろうかピュアな部分はどこまでもピュアなニイゴだった。
「勿論ここにいるブラザーズも友達に含んでるメーン」「ホエホエ?(ワシは?ワシは?)」「しょーがねーなファッキンジジイも仲間に入れてやるメーン」「プシッ!プシシ!(ワシ知っとるぞい!コレ、ツンデレというんじゃろ?)」「うっせーなファックすんぞジジイ!」えっ?ファックする?その言葉になぜかビクッと反応するイチゴボーイだった。
「オーストラリア時代の友人たち、みんな元気ですよ」「ミックのバンドがメジャーデビューしてネ、アメリカにツアー行ったりしてんのヨ」「…そっかー、負けられねーな、勿論ユーガイズにも負けねーぜメーン」
「鳳凰学園時代の友人たちも元気に活躍していますよ」「たまに集まって酒飲んでるヨ」「そーなんだ、へっ、今から楽しみだメーン」「オレ、随分とダチに恵まれてるんスね、オレも頑張るッス!」
「みっほ(サンゴは?)」「迷うナー、コレ、最初は『商売繁盛』でいこうかと思ってたケド、なんかそれを神頼みにするのって違う気がしてきたんだよネ」マルボロに火をつけるサンゴ、言葉の割にはそんなに悩んでいるふうではなかった。
「旦那ぁ、旦那の願い事って何?参考までに」「『歴代の好きだった女の子たちに過去にさかのぼって告白しにいく』ですが?」うわあ、こりゃまたとんでもなく痛いお願い事が飛び出してきたなと発言した本人を除く全員が思った。イチゴやニイゴは恥ずかしさで暴れ出したくなったと同時に気を失いそうになった。
「…それだと代わりにその願い事をかなえてもらっても意味無いナ、ちなみに旦那まずは誰ちゃんのトコにイクつもりで?」「小6夏休み、学校宿泊、肝試しの時のタカコ」ああーっ、何が彼をそうさせるのか。イチゴとニイゴは言葉に出来ないざわつく気持ちを誤魔化すかのように髪を掻き毟ったり、両頬を両手で叩いたりし始めた、動いていないと気が狂いそうになるのだ。
「(イチゴとニイゴがヤバいな…)コホン、えーっと、じゃあジブンは『この先この美味しバトルでマイナス点が出ない』でヨロシク頼むヨ!」「…お、おーイイッスねーっ!」「…ハハッ!イエス!グッジョブ!サンゴブラザー!」「見事なもんです」「ふぇぇ…(緊張感が無くなるのう…)」「「「「いらねーよ!そんなモン!」」」」
「よっほ(ヨンゴは?)ほぁぁ(サンゴの願い事取り下げとかどうかの?)」「あるわけ無しですねえ、とは言えさっきの皆さんのリアクションで目が醒めましたよ、願い事は改めることにしましょう」よかったにゃー。
「では『1000歳まで生きて神様になり、1005歳で美味しバトルを開催する』でいきましょうかねえ」「へえ、旦那は面白いこと考えるネェ」「クールじゃないのアイライキッメーン」続くイチゴのつぶやきはこの空間ではよく響き、思っていたより音量が大きかった「ドン引きのお願い事じゃなくてよかったッス、ちょっと見直したッス」
「うん?なんだか失礼な発言が聞こえてきましたねえ、イチゴ少年の乳首、開発しちゃいましょうかねえ」「ケツアナもイッちゃいますカァ!」「まあ自分同士だしオナニーみたいなモンだメーン!レッツファック!」「いやちょっと、すみませんでしたって、レッツファック本気カンベンッス!ヒッ!ヒィィ!」
「ふぉっふぇ!ホエー!ホエールズ!(盛り上がってきたのう!では次の美味しバトルを開始するぞい!『甘いもの勝負』ファイッ!)」「じゃ、じゃあオレから―――(なんとか雰囲気をかえないと!先輩たちのオレを見る目が怖い!特にニイゴの目がヤバい!)」
「―――コイツで勝負するッス!『中3の時に小5のナオちゃんからもらった手作りバレンタインチョコ』これでどうスか!?先輩がた、切り替えましょうよ!新しい勝負の開始ッスよ!…よ?」イチゴの切ったカードに何か4人を壊滅的に絶望させる要素があったのだろう、その瞬間、4人の動きは止まり、各人の両目と口は穴っぽこのようなまっ黒い空洞になった。そしていくらかの時間が経つと固まったままのその4体はサラサラと砂のように崩れて消えた。
イチゴはひとりきり、神様空間で千年近くの時を過ごして神様になった、そして神様パワーで過去の自分を召喚するが、ずっとこの虚無以外何もない真っ白な神様空間にいたので、当然ながら元の世界の記憶は15歳までしかなく、召喚された過去のイチゴたちとのやり取りは酷く退屈なものであった。イチゴはは青春時代の思い出という牢獄に囚われ、今もひとりそこでなろう小説を読んだりたまに書いたりを続けているのだった。
●「おっほぉぉ…(これでおしまいじゃ…)」そう、ここがしるべ無き旅の、旅路の果ての果てだったのだ 完
以上で完結です
お付合い頂き誠にありがとうございました