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死体少女《デッドボディガール》  作者: 小川幸子
【第一章】生かすも殺すも君死体
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呪い


 夜にかけて太陽が沈み月が明るい光を放つ。

月世ツキヨが自身の変化に気づいたのは、視界が完全に真っ暗になってからだった。


「ひぇっ!?なんで、なにも見えない!!!」


 ルルとロプサの攻防戦は月世ツキヨの焦った声により中断される。ルルは立ったまま様子を伺うが、ロプサはしゃがみこんで月世ツキヨの状態を確かめた。


「……きちんと発動したようだな」

「やっぱり、ツキヨの魂に細工したのは君だったんだ」

「随分とよく視える目を持っているな」

「まぁね。それより君も無茶するなぁ。まさか呪いをかける程の腕前とは恐れ入ったよ」

「どこまで視えている」

「表面だけさ。なにぶん呪いには馴染なじみ深いからね」

「なるほど……厄介だな、本当に」


 目が見えないだけで耳は聞こえている月世ツキヨは、二人の会話から不穏な単語を察知し思わず声を荒げた。


「あの!私って今どうなってるんですか!?」

「おや、気づいてないのかいツキヨ」

「視界が塞がっていて状況が把握できていないようですね。眼帯をずらしてください」

「え?でも私の腕、今はないし……動けないから…………って!?」

「問題なく動くようですね」

「元に戻って良かったねツキヨ」

「え?えぇっ!?ロプサさんが魔法で直してくれたんですか??」

「まぁ、そうですね。何か変わりありませんか?」

「ぁー、左側が見えにくい、です」

「だろうねぇ。ツキヨの左目は戻ってないみたいだし」

「やはり転移の影響が残りましたか」

「……あの、状況が良くわからないのですが」

「説明してなかったのかい?名乗りも承諾も交わさずに呪いを成功させるなんて、死神にしておくには惜しい腕前の魔術師だね」

「名乗り?承諾??」

「あとでご説明させて頂きます。今は自身の状態を確認してください」


 ロプサに促され月世ツキヨはおずおずと腕を上げたり、身体を動かしながら手で触っていく。血塗れでボロボロな服装とぽっかり空いた左目を除いて、継ぎ接ぎもなくなった月世ツキヨの身体はすっかり元通りになっていた。


「元通りだ……身体が、私の身体、食べられてない!」

「よかったね」

「清めと復元の魔法をかけてもよろしいですか?」

「よろしくお願いします!」

「”清め戻れ”」


 ロプサが両手を向けると月世ツキヨは白い光に包み込まれ、あっという間に転移する前と変わらない状態になった。


「それにしても、なんで私の身体が元に戻ったんですか?」

「……私が」

「ロプサさんが貴女に呪いをかけたからですよ」


 上空から舞い降りたのはクオルが周囲を見回し状況を把握する。クオルはルルを目にして息を飲むが少し考え込んだ後、大きく深呼吸して目の前の問題へ向き合う。


「隊長、なぜ」

「スピレドから報告を聞きました。それにしても、やはり貴方でしたかルルさん」

「久しいねクオル。デハトの養成所以来だ」

「えぇ。ほんとうに……詳しい事情は後で説明願います。それにしても、今の貴方の状態は――」

「相変わらず良く視えるねクオル。私は逃げも隠れもしないから、話を聞いてほしいな」

「……わかりました。ロプサさん、まずは彼女と名乗りを交わしましょう」

「しかし、この男は」

「私が責任をもって預かります。さて、彼女が異世界から訪れた方ですね。はじめまして、死神のクオル・アポスロートと申します。お名前を伺っても?」

永満ナガミツ 月世ツキヨです。あの、それよりも呪いって……」

「詳しくは本人に説明してもらいましょう。さて、夜になったことですし一度教会へ戻って」

「今、教えてください。お願いします!」

「ですが魔物のいるキチイ森は危険です。いくら夜と言えども……いえ、ツキヨさんの言い分はもっともですね。スピレド、周囲の警戒を頼みます」

「わかったよクオルさん。やぁ、君とは今朝ぶりたね。私はスピレド・ハセラン。教会の修道女シスターで死神の協力員なんだ」


 月世ツキヨの少し離れた場所へスピレドが木の上から静かに降り立つ。月世ツキヨへと名乗りはしたが目を合わせることはない。スピレドは軽くお辞儀をし、すぐに糸をつたって再び木の上へと戻ってしまった。月世ツキヨはスピレドの事が気になったが、クオルがロプサへ目配せすると話を戻した。


「ロプサさん、ツキヨさんへ説明を」

「……私が貴女の器へ時を止める呪いをかけました」

「呪いって、どういうことですか。魔法とは違うんですか?」

「魔法や魔術とは魔力を代償に自身が発動させる現象ですが、呪い……呪術は魂を代償に相手へ影響を与える現象です」

「付け加えて言うと魔法よりも呪いのほうが制約や条件が多くて高いリスクもあるんだけど、そのぶん強力なんだよ。そして呪いにも種類があるんだけど」

「貴方は余計な事を言わないでください……私が貴女へかけたのは転移直後の状態で器の時間を止める呪い。だからこそ、昨日の黄昏時への状態になっています」

「えっと、つまり?」

「例え一部が損傷し失われたとしても、止まった時へ器が戻るということです」

「でも、昨日の私の手足は継ぎ接ぎだったんじゃ」

「貴女の手足がバラけたのは転移着地での衝撃によるものだったので」

「……もしかして、飛び降り死体みたいな感じになってたんですか」

「その通りです。なので貴女が目覚めたあと動けるように器のパーツを繋ぎなおしました。呪いという形をとったのは代償を私だけが払うようにする為です。貴女へは月と太陽の魔力を組み込み制約をかけた結果、呪いが日没頃に発動します」


 時間が経つにつれ元に戻っていた月世ツキヨの身体。損傷が激しすぎて実感しにくかったが、月世ツキヨは思い返してみると喉をやられていたのに段々と不自由なく話せていた事にようやく気付いた。


「でも、それなら左目も戻っているはずじゃ」

「……申し上げにくいのですが、呪いをかけた時点で貴女の左目はありませんでした」

「ど、どういうことですか!?左目がないって……そんな、どうして」

「私の落ち度です。目を閉じた状態だったので把握できていませんでした」

「なるほどねぇ。転移中に影響を受けちゃったんだ」

「ルルさん、それって」

「眼球ってね、身体のパーツとして器の中で最も魔力の影響を受けやすいんだよ。だから転移中の高濃度な魔力の中で目を開けていたとしたら弾け飛んじゃうだろうなぁ」

「っ!!?」

「転移の際にむき出しであった左の眼球は魔力を溜めすぎた結果、貴女の器が留めておけなかったようです。なので、左目だけが器とは別の場所に転がりました。そして、私が貴女に呪いをかけている間に…………」


 ロプサは言いよどみ迷っているようだった。月世ツキヨは追及するようにロプサへと詰め寄る。クオルは痛ましげに月世ツキヨを見つめたあと呟くような声でロプサに命令した。


「ロプサさん、ツキヨさんには知る権利があります。上司命令です、続きを」

「ウェルノエアへ転移後に我々から最も遠くへ飛ばされた眼球がベルビリドに奪われてしまいました」

「おやおや、運が悪いにもほどがあるね」

「ベルビリド?」

「翼のある青い魔物です。魔力を好んで魔石や魔玉をくわえこむ習性があり、貴女の左目は転移で大量の魔力をまとっていた為に」

「奪われたのですね。それにしても魔物へ奪われた報告は聞きましたがベルビリドとは……困りましたね。女神の遣いと崇められ不殺が原則だからこそ我々は手出しできません」

「レアノグはスオル教の総本山だからねぇ。ベルビリドがいても不思議ではないけど女神さまは意地悪だ」

「左目も此処にはないだけで元に戻っている筈です。あとは、奪っていったベルビリドを見つけて」

「腹を裂くつもりかい?死神の君がそんなことをしたら教会になんて言われるか」

「かまいません。覚悟はできています」

「まずはベルビリドを探すことからですね。名乗りを交わしましたし魔力を辿っても…………難しいですね。ベルビリドが持つ魔力が強すぎて位置が全く感知できません」

「クオルでも把握できないなら見つけるのは至難の業だね」

「かったっぱしから捕まえていきます。どんな手段を使ってでも必ず」

「冷静になってくださいロプサさん」


 ベルビリドについての知識がないせいで状況を把握できていないのは月世ツキヨだけだった。他の三人は非常に困っている雰囲気をだしており不安が募る。


「あの、なにがそんなに問題なんですか?」

「ベルビリドは渡り鳥なんだ。一日で千里を飛び二日あれば女神の御許へ翔るってね」

「神出鬼没の魔物なんです。個体数は少ないですが、生息範囲が広く未だに謎が多い魔物と云われています」

「そんなっ」

「ご安心ください。我々、死神が責任をもって捜索します。ツキヨさんの安全と生活はロプサさんが保障すると仰ってましたし、私も尽力いたします」

「クオルさん……ありがとうございます」

「ほかに聞きたいことはありますか?」

「えっと……今までのお話を纏めると、私の身体はウェルノエアへ転移する前ではなくウェルノエアへの転移直後の状態に戻る呪いですよね? でもって左目は一緒に転移したけど、弾いちゃってベルビリドって魔物に奪われた……あの、私の左目って、もうはめることは出来ないんですか?」

「魔力を完全に抜けば可能です。転移直後の周辺は強い魔力が充満して不可能でしたが、三人以上の死神が揃えばできるはずです」

「よ、よかった――!! あ、あと呪いって解けないんですか?むしろ解いたら困るけど、このままなのは」

「ウェルノエア限定の制約ですから、元の世界では影響がないはずです」

「……そうなんですね。ありがとうございます、やっぱり呪いって恐いイメージがあったので――」

「それも間違いじゃないけどね」

「ルルさん、そのお話は私に聞かせてくださいね」

「隊長、やはりこの男を……どうかされましたか?」


 月世ツキヨがロプサへと土下座していた。謝罪の証と知らない三人は首を傾げるばかりで月世ツキヨを見つめる。


「至れり尽くせりで申し分けないです……あの、ロプサさんには迷惑かけてばかりで……私の自業自得なのに、こんなことに、なっちゃって」

「顔をお上げください」

「え」

「ロプサ・イグニクスの魂に誓って貴女を元の世界へと返します。不自由をさせぬよう誠心誠意お仕えしますので、どうか一年の間ウェルノエアでお過ごしください」


 ロプサが月世ツキヨの手を取り自分の手と合わせる。魂と名前に誓う契約魔法が発動し淡い青の光が二人を包んだ。驚いた月世ツキヨはロプサを凝視したが、視線を受け止め真っ直ぐと見返されて思わず赤面する。月世ツキヨは手が離された後、思わず両手で顔をおおった。


「……うぇっ!?」

「どうかされましたか?」

「あっ、えっと……その、ん?」

「ツキヨさん? 具合が悪いのでしょうか」

「なに、あれ……」


 月世ツキヨは混乱していた。両手を顔から離すと目の前には変わらずロプサがいる。もう一度、両手で顔を覆うと別の光景が月世ツキヨには見えていた。


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