魔法と魔術、それから魔力
クオルと入れ替えで部屋に戻ってきたロプサが、限りなく紳士的に勤めながら月世の左足を繋ぎなおし、血で汚れた部屋を魔法で清めた。
「……ありがとうございました」
「いえ。隊長から報告を受けましたが問題ないようで安心いたしました」
「ツキヨって、なんだか少し抜けてるね」
「よく言われる」
月世は繋がれた左足を気にしながら反省し椅子に座る。スピレドに着替えを手伝ってもらった時にも色々あった為、二人の仲は急速に縮まった。
「ロプサさんも、わざわざ来てもらって申し訳ありません……まだ死体の状態に慣れてなくって。今後もお世話になると思いますが、その、この魔法って私にも使えたりしませんか?」
「お気になさらないでください。それと、魔法についてですが残念ながら不可能かと思われます」
「魔力制御が出来ないからですか?」
「いえ、ツキヨさんの人間という種族に造詣が深いわけではありませんが、魔法は魔法族の能力なので誰でも出来るわけではないのです」
「もしかしてツキヨの世界では皆が魔法を使えたのかい?」
「いやいやいや。魔法っぽい技術はあるけど空想のモノだったよ。だから、すっごく憧れてる」
「へぇ。なら魔術が発展してたのかな」
「ん? 魔法と魔術って違うの」
「似ているようで異なりますよ」
「ツキヨが良く分かってないみたいだしロプサさん説明してあげなよ」
「是非ともお願いします!」
ロプサは眼鏡のフレームをクイッと上げて一呼吸おいた。真剣な面持ちで両手を上に向け、机の向かい側に座るスピレドと月世へ説明を始める。
「端的に述べますと使える種族が限られ呪文がいる代わりに術式を不要としない"魔法"、誰でも使えて呪文が不要でも魔素での術式を必要とするのが"魔術"です」
「魔素ってなんですか?」
「コレのことだよ」
「歯車?」
「一つずつ形が違うだろ? 歯車の形は単語や記号だと思えばいいよ。でもって魔素を組み合わせて術式を完成させると魔術が発動するのさ。魔力をエネルギーとしてね」
「なるほど……つまり私には魔法は使えないけど、魔術なら使えるかもしれないってことだよね?」
「人間という種族の詳細が不明なため断言は出来ませんが、ツキヨさんが魔力を扱えるようになれば問題なく魔術を行使できるでしょう」
「ちなみに、ロプサさんが私の身体を繋げたり清めたりしたのは……」
「どちらも魔法ですね」
「……残念です。ロプサさんにはこれからもお世話になりそうですね」
「繋いだのは魔法ですが、清めであれば同じような効力を持つ魔術具がありますよ」
「魔術具ですか? スピレドやクオルさんが変身する為に使ってた、あの?」
「そうだよ。魔力があれば誰にでも使えるからね」
「へぇ。便利なんですね魔術具って! ちなみに、どういう仕組みなんですか」
「道具に魔術陣を刻む、または取り付けておけば魔力を流し込むだけで魔術を発動させるのが魔術具です。ウェルノエアでは一般的に流通しております」
「ま、魔力を扱えないと使えないけどね」
「魔力かぁ……さっきから話には出ていたから興味があるけど、私の世界には無かったから感覚がわからないんだよね」
「では魔力についてもお話しましょう。魔力とはウェルノエアに存在する全てが保有しているエネルギーです。もちろん、ツキヨさんも魔力を保持しています。制御や操作は感覚で覚えて頂くのですが、手を握ってもかまいませんか?」
「はい」
「では目を閉じてください」
ロプサに両手を掴まれながらツキヨは目を閉じた。よく小説や漫画で集中し身体のエネルギーを感じ取ればよいのだろうと思っていたツキヨは、ロプサの言った言葉に首を傾げる。
「では、目を開けてください」
「え? まだ集中も何もしてませんが……」
「集中? 確かに魔力へ慣れるには集中も必要ですが、最も大切なのは自覚のみです。今、ツキヨさんの魔力を可視化しましたが具合はどうですか?」
「可視化……って、私めちゃくちゃ光ってるんですけど!?」
「ツキヨの魔力保有量は多いみたいだね。良かったじゃないか」
「あれ? さっき私の魔力は少ないって言われてなかったっけ」
「先ほどまでの状態だと一見して少なかったですね」
「もしかしてロプサさんと手を握ってるから、何かの魔法ですか?」
「魔法ではありませんよ。しいて言うなら補助みたいなものでしょうか。ツキヨさんの潜在的な魔力保有量が空に近かったので私の魔力を共有している状態ですね」
「つまり、さっきの身体能力と同じで把握しきれてなっかたんですね」
「そうなるね。また、色々と私が試してあげようか?」
「遠慮しておきます」
「それにしても、魔力回復の早さはアンデッドと同じ状態のようですね」
「どういうことですか?」
「ツキヨさんは死体の状態で本来であれば生命活動に必要とされる魔力が不要になってます。なので器に魔力が溜まりやすいようです」
「こんなに元気なアンデッドは珍しいけどね」
「えーっと、私が省エネでコスパ良いってことかな」
「魔力のない世界の方が魔力を保有している場合は無意識のうちに抑制していることが多いそうですが、こうして全快状態の魔力量をみると魔法族との混血に匹敵しますね」
「もしかして、魔力チートも夢じゃない?」
「チート?」
「すごく強いとか、無双できるって意味です」
「それは無理だね。だって普通よりもちょっと上ってほどだし」
「……短い夢だった」
月世はガクリと項垂れる。視線の先にロプサと繋いだままの両手を見えた。”無いよりはマシ”と平均並みの魔力があると判明しただけでも儲けものだと気分を切り替える。
「ロプサさん、魔力操作ってどうすればいいんですか?」
「今、目に見えている光を動かせますか」
「……動け—って念じてるんですけど、ちっともダメです」
「念じるんじゃなくて自覚して操るんだよ。手足みたいにね」
「歩く時に足を動かし腕を振るうのと同じ感覚なのですが、こればかりは日常動作なのでどう説明してよいものか」
「魔法族のロプサさんにとって魔力を扱うのは息を吸うのと同じくらい当たり前のことだもんね」
「なんだか、思った以上に難しいです……」
「魔族は生まれながらにして魔力を感知し成長と共に慣れ親しんでいきますが、人間には無かった感覚を掴めというのは容易ではないですね」
「魔力のない魔族なんていないし、私らにとって当たり前すぎることを伝えるのは難しいや」
「んー……ぁー。うー」
「すっごく集中してるのに魔力がちっとも反応してないねぇ」
「無意識に魔力を使用されていたので不可能ではないはずだが」
「コツを掴むしかないね」
「なんというか、息をするのと同じ感覚って言うのが曖昧で。さっきから身体の各所を意識したり集中してるんだけど全く手ごたえがありません!!」
「「「…………」」」
三人は顔を見合わせる。落胆する月世へロプサとスピレドは何とかして魔力の説明をするのだが、生きている器で行われている無意識の感覚を伝えるのに難航した。
「仮定ですが死体の状態で身体器官を感じ取るのが難しいのかもしれません」
「でもアンデッドは魔術を使えているよ?」
「生きている状態の時に器が覚えていたから可能だった。しかしツキヨさんは生体の時に魔力を感じたことはないのですよね?」
「はい。私の世界には魔力なんてありませんでしたから」
「ウェルノエアに来てから発覚した魔力保有。つまり把握していなかったと同じ状態ですよね」
「それって、さっき言ってた……」
「死体である弊害に該当するかと思われます」
「やっぱり……」
「ツキヨにとっては器へ別のパーツが発覚したから、それを動かしてってことだもんね。生きていれば痛覚や疲労感、人によっては冷温を感じて魔力の"認識"や"自覚"ができるけど死体は無理みたいだ」
「そんなぁ……ロプサさん、どうにかなりませんか!?」
「魔力操作できない魔族へ痛みによって感覚を覚えさせることがありますが、それが不可能となると別の手段を考えるしかありませんね。しばらくは魔力制御の魔法をかけさせて頂きます。魔法や魔術、魔術具が使用できなくなりますが」
「今の私には、なんの問題もないですね!!」
月世が空元気で笑う。現状お手上げ状態なので一時的にロプサが月世の魔力を封印した。
しょんぼりと肩を落とす月世をスピレドが慰めロプサは他の手段を探しておくと言って励ました。




