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死体少女《デッドボディガール》  作者: 小川幸子
【第一章】生かすも殺すも君死体
10/16

異世界は思ったよりもファンタジー


 ロプサが初めに告げたのはウェルノエアの格言だった。白いモニターに映る濃淡な宗教画には両掌りょうてのひらを上にして光の球を救う女性が描かれている。


「”永遠の命はないが魂は永遠である”と女神スオルがおっしゃりウェルノエアでは魂が巡って世界を創っていると云われています」

「女神さまって実在するんですか?」

「……いるんでしょうね。私は見たことがないので断言はできませんが、死神として女神の存在を感じることはあります」

「神様って本当にいるんだ……」

「気になるのでしたら聖堂へ行きますか?同じ教会内ですので案内しますよ」

「そんなに信心深くないので今は結構です」

「では、続きを。ウェルノエアでは全てに魔力が含まれるとされています。その中でも強い魔力を持つことで進化した魔族と魔物が暮らす世界です」

「魔族?」

「種族ごとに能力や特徴を持つ、ツキヨさんの世界で言うところの人間ヒトという存在に似ています」

「ロプサさんの種族はなんですか?」

「私は魔法族です。見た目だけなら最も人間ヒトに近い種族だと思います」

「違いはなんでしょうか……瞳や髪の色は違うと思うんですが、それ以外にも特徴ってありますか」

「魔法族は手の平に魔術陣があるのが特徴です。生まれた時から刻んでいく固有能力ですね」

「手相がそんなファンタジー仕様だなんて羨ましいです」


 ロプサが手袋を外して左のてのひらを見せた。一見すると普通の手相のようだが、目を凝らしていれば魔術陣らしき模様に見えてくる。興味深そうに月世ツキヨてのひらを見つめるためロプサは困った顔し、不安に思った月世ツキヨがロプサに質問した。


「私、なにか悪い事をしちゃいましたか?」

「いえ、そのですね……魔法族のてのひら伴侶はんりょにしか見せない慣習があるので意識してしまって」

「礼儀知らずなことをして大変申し訳ございません!」

「かまいませんよ。ツキヨさんは知らなかった訳ですし私も言わなかったので」

「……以後、気を付けます」

「それほど気になさらないでください。魔族には種族ごとに様々な慣習があります。全てを覚えるのではなく重要な部分をまとめた書籍がありますので用意しておきますね」

「よろしくお願いします」

「さて、魔族と人間ヒトには他にも異なるところがあります。これは魔物にも該当することですが、魔族のセルベスは役目を終え……死体となった後は時間と共に消化され魔玉まぎょくへと変わります。魔物の場合は魔石ませきですね」

「そういえば森で襲われた時、魔物の死体があった場所に黄色い石がありましたが」

「それはヨメンクの魔石ですね。魔力保有量や性質により変化する時間や色が異なります。魔玉まぎょくは生前で最も大切な相手に託されますが、魔石はウェルノエアの資源として使用されています」

「質問です!すべてに魔力があって魔族以外は死んだら魔石になるんですよね?この世界の食料はどうなってるんですか?」

「魔力を抜くと魔石になりません。なので食材や原材料などは殺してすぐに、ある程度の魔力を抜く必要があるんです」

「魔力を抜くのって簡単にできるんですか?」

「魔族であれば可能です。ただし完全に魔力を抜く作業は緻密な魔力コントロールが求められ、魂にも影響がでるので滅多にありません」

「……私の左目って」

「ご安心ください。死神は魔力コントロールのプロですから」

「どうか、よろしくお願いします」

「他に気になることは?」

「魔石と魔玉まぎょくの見た目の違いってありますか?」

「重さと材質ですね。魔石は軽くて大きさや形も石のように様々ですが、魔玉まぎょくは重量があって大きさが統一された輝く小粒の円球です」

「宝石とは違うんですか?」

「輝き方が違います。魔玉まぎょくは内側に魔力を閉じ込めたような光が揺らぎ輝きます」

「なるほど……見てみたいって思うのは不謹慎でしょうか」

「身寄りのない方が教会へ託す場合があり、聖堂や礼拝室に祀られていますよ」

「あとで女神さまへ祈りを捧げにいきますね」


 さっきは聖堂に行く気が全くなかった月世ツキヨだが、異世界感溢れる魔玉まぎょくが気になったので後でロプサに連れて行ってもらうことにした。あまりにも早い切り返しにロプサは少し驚き苦笑する。



「では、他の種族の説明をしていきます」


 ロプサが手袋を装着しなおしてから両手を動かす。今度は一見してわかりやすいファンタジーな種族が表示された。ロプサが説明するごとに拡大されたり動いたりする様子は魔法というよりも近未来的であり、月世ツキヨはアメコミ映画で見たホログラフィを思い出していた。


「四大種族と言って魔法族、獣人族、吸血鬼族、妖精族の順番に人口が多いとされています」

「あれ魔族は?」

「魔族は総称です。四大種族に当てはまらない場合や混血などが当てはまります」

「異類婚姻があるんですか」

「むしろ、ほとんどが異類婚で混血ですよ。なので異種族の血が混じらない純粋な血統は貴族階級や閉鎖的な種族にしかみられません」

「混血と純血の違いってなんですか?」

「能力的な差でしょうか。混血であれば増えた遺伝のぶんだけ能力や特徴、合わさった個性が増える代わりに質が低下します。純血は特殊な能力または体質を血で継ぎますが一点特化ですね」

「やっぱり血によって身分差とか争いとか……」

「多少はありますがウェルノエアは実力主義なので、そこまで差はありませんよ」

「つまり、力こそが全てなんですね!」

「その通りです。それに、リスクはありますが混血でも血を抜くことで純血になれますよ」

「なにそれこわい」

「今のウェルノエアでは混血や純血にこだわる事は時代錯誤ですね。重要なのは血よりも力です」

「弱肉強食がすごい……私、このままだと生きていけなさそうですね」

「力とは腕っぷしもありますが、頭脳や状況を見極めるというのも力の一つです。ツキヨさんは私に……」

「私に?」

「いえ、守るや頼るといった言葉を使っていいものか悩みまして。年齢や相手によっては侮る発言になりますから」

「そういえばロプサさんって何歳いくつなんですか?魔族って長命そうだし百歳超えてたり」

二三五にひゃくさんじゅうごですよ。いつも年齢より上だと思われるのですが、若く見られたのは初めてです」


 ロプサが笑う。月世ツキヨは呆ける。見た目や口調から二四にじゅうし二五にじゅうごくらいだと推測していたが、その百倍だとは思ってもみなかった。


「なら十七になったばかりの私なんて小娘もいいとこですね。存分に守ってください」

「かしこまりました。種族で短命長命の差はありますが人間ヒトに比べると魔族は長く生きますね」

「ちなみにウェルノエアでの最高齢は?」

「ティフェ公国のゴーストが一万と二千年ほどだと記録されています」

「すごすぎて意味が解りません」

「魔族が生きる理由は様々ありますが、今は割愛しましょうか」


 ウェルノエアの溢れる異世界感に月世ツキヨは圧倒された。さきほどまでの魔物と戦って刻まれたトラウマよりも、未知への高揚感にゲーム好きの心がテンションを上げていく。


「あの、この世界には魔王がいるんですよね?魔王ってどういう存在なんですか」

「魔王というのは各国における代表の役職です。ウェルノエアには五つの大陸と六つの国があり、六人の魔王が国を治めています」


 空中に再びウェルノエアの世界地図が浮かんだ。さきほどまでの抽象的な地図と違い、国名や領地の特徴を記す文字が追記されている。それを見た月世ツキヨは首を傾げた。


「女神スオルが定めた世界共通の守らなければいけない神法と各国の魔王が定めた制度があり――」

「あの、ちょっといいですか」

「どうされました?」

「文字が読めるんです……?墓地にいた時は読めなかったのに」

「おそらくですが経過した時間により魂がウェルノエアへ順応しているのでしょう。私がかけた呪いによって魂へ魔力が影響し知識などが流れているのだと思われます」

「それって大丈夫なんですか」

「前例が過去にありましたが問題なかったようです」

「……ロプサさんを信じます」

「……ありがとうございます。では、各国を簡単に説明します。こちらをご覧ください――」


 ロプサが地図を右回りから説明していった。


「最も広い領土を誇るバルック連合国は獣人族の国です。山脈を挟んでティフェ公国、ことらはアンデッドの国ですね。領土は狭いですが多くの歴史や遺跡があり今でも謎が多い土地です。谷を挟んで魔法族のペルピエル皇国、森に囲まれた妖精族の多いネゲル連邦国、最後にウェルノエアで最も栄えている吸血鬼族のエルディエ帝国です」


(これが、異世界……なんだかゲームみたいだ)



 月世ツキヨは自分の知っている知識や常識、生きた中で培ってきたモノとは状況が異なりすぎることで、再び現実感を見失いつつあった。



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