ロリウィッチ魔物と会敵する
中ランク冒険者であるボウは、相棒のケンと冒険者ギルドで酒を飲んでいた。
彼等が居るのは、勇者達が召喚された国とは、魔の森を挟んでいる。
一仕事終えたばかりのボウ達は金があり、暫くはゆっくり身体を休めようとしていた。
しかし、無情にもその平穏は崩れる。
「た、助けてくださいっ!オーガが現れました!」
這々の体で、ボロボロな低ランク冒険者の青年が叫びながら入ってきたのだ。
オーガは危険度が中ランクであり、青年の様な低ランクの狩場には現れる事が殆ど無い。
彼等は4人であった筈だが、彼一人で此処にいる事が答えだろう。
「行くか」
「あぁ、若い奴らの命を無駄に散らせる訳にはいかねぇ」
魔の森は深部へと入る程強力な個体が増えていく、浅瀬にオーガの様な個体がいれば、それだけ周囲に被害が及ぶ。
下手をすれば、村が一つ無くなるのだ。
「シャーはどうした?」
「装飾品の冷やかしだろ、市場に行けば見つかる」
「女って奴は、キラキラしたもんが好きだよな」
「言うな、シャーは年頃の娘だ、血が流れる戦場よりもそちらの世界の方が似合っているさ」
「へっ、キザなセリフは本人に言ってやりな!」
お互いに笑い合いながら、彼等は再び死地へと向かう。
☆
セブンスターはオレ様を抱えて、流星の様に空を掛ける。
オレ様、流星の事が嫌いになりそうだぜ。
巨大な森を木々を踏み台に跳ぶ、跳ぶ、飛ぶ。
跳びすぎだボケェッ!
お前どんな体力してやがんだ、宇宙レベルか!
だが、不意にセブンスターはオレ様を抱えたまま態勢を崩す。
絶叫マシンの様な浮遊感を感じながら、オレ様達は地面へと叩きつけられた。
勿論衝撃は全て奴が喰らったが、ザマァねェな。
猿も木から落ちると言うが、セブンスターもサルって訳だなッ!
ヒャハハっ!!
「す…まない、七瀬」
「安藤、さん?」
何故か変身が解けるセブンスター、息も荒く顔が真っ赤である。
なんダァ?
オレ様達が集団で襲った時もこんな風になって無かったんだが、初めてだな。
オレ様が奴の額に手を当ててやる。
くそっ、熱が高えな!
病原菌か?なんだかワカンねぇが……。
ラッキーだなっ!!
遂に、遂にセブンスターを葬れるゼェェェ!!
ヒャッホーウ!
やったー!!
やっぱり、オレ様が良い子にしてるから、神様のサービスだなっ!
「……七瀬、俺を置いていけ。俺一人なら、何とかなるが、お前を護れない」
「何を言っているのですか?」
あったり前だろうがァァ!
貴様は此処で死ぬんだよセブンスターァァッ!
つーか、病原菌か何かか知らねェが、奴が抗体を持たない病ならかなり有効みたいだな。
こんな弱点があったなんてな、案外気がつかねぇもんだ……って、オレ様もヤバくない?
慌てて身体を確かめるが、特に問題は無い。
そうか!
セブンスターは人造怪人故に、人間の部分があるせいかっ!
オレ様は完全な怪人故に病にならないが、コイツは違うからな。
やっぱり、怪人は最高だぜっ!
「安藤さん……」
「す……ない」
セブンスターは意識を失った様だ。
さて、トドメを……。
いや、待て。
此処でコイツが死んだら、オレ様の功績に出来ねェじゃねーかよっ!
評価上がんねェのかぁ……いや、でもこれまでの屈辱をっ!!
オレ様は奴を殺そうと右手に魔力を集める。
くたばれセブンスターァァァァァァ…ァァ………ぁ?
そしてふと気がつく。
右を見ても森、左を見ても森。
今のオレ様、迷子じゃん。
「あ、安藤さんっ!?」
返事が無い。
セブンスターァァァァァァァァッ!
せめて人里に連れて行ってから死ねやっ!!
うわ、急に不安になって来たぞ!
知らない土地での迷子ってやだァァ!!
どうする!どうするぅ!?
オレ様は暫く葛藤し、覚悟する。
コイツの弱点は分かった、だから今は生かす。
決してソロぼっちの迷子が怖いからって訳ではない。
「魔法創生、診断能力、作成」
魔力の少ないオレ様は、普段からコツコツと地道に魔力を貯蓄してきた。
魔法創生はあらゆる奇跡を可能とするが、対価の魔力も比例する。
それでも、コイツを助けるくらいの魔力は十分溜まってるだろ。
あー、クソッ!
セブンスターとの決戦の為に溜めてきたのに、助ける為に使うなんて付いてねぇゼェェ!
「診断……?特に異常は無いのです」
セブンスターはあらゆる毒や病の抗体を持っているし、特に異常は見当たらねェ。
何故か心拍数と体温上昇、内臓の不調。
一見病気だが、病となる病原菌はいねぇ。
魔力も普通に身体を巡って……アァン?
セブンスターに魔力だァ?
オレ様の専売特許の魔力を、ナンデェ此奴が……。
魔力が荒ぶってんな……。
オレ様は周囲を見回して気がつく、異常な魔力濃度に。
此処は、地球なのか?
今までこんな魔力濃度の高い場所は見た事ねェぞ?
魔の森なんて名前付けたくなるくらいに、魔力が濃いって事は、此奴は魔力に当てられたのか?
今まで摂取した事ない魔力を、突如大量に身体に留めた事による過剰摂取……急性魔力中毒?
まぁ、良くワカンねぇけど、魔力の過剰症なら体力付ければ何とかなるだろ、セブンスターだしな。
取り敢えず、水分補給でもさせて寝てりゃ治んだろっ!
って、待て待てっ!
魔力の過剰症って、病じゃねぇし、今を逃せば2度と無いんじゃねぇか?
どどどどど、どうする?
オレ様は頭を抱えるが、やはり日本に戻るまでは生かしておこうと結論する。
なんというか、取り返しのつかない予感がするが、良い子なオレ様の為に神様は微笑んむに違いねぇ。
そして、最後に笑うのはオレ様だっ!
「安藤さん、頑張るのです。魔力変換、物質作製」
オレ様は魔法でスポーツドリンクを作って宙に浮かせ、奴の口元に持っていく。
だが、寝てる所為でむせやがった。
オレ様の貴重な魔力を粗末にしてんじゃねぇよっ!
こういう時は、口移しが良いとか聞いたことがあったので、実行してやる。
マジでメンドクセェなぁ。
はよ死ぬなら、死ねよ。
魔力で物質作んのはめちゃくちゃ消費デケェし。
さて、後はセブンスターを担いで行くか、起きるまで待つかだが……。
オレ様の使った魔力から残り魔力を考えると、セブンスターを連れての移動は魔力がもたねぇかもしれねぇなぁ。
なんか、拉致られてからオレ様、自分の残り魔力がイマイチワカンねぇんだよなぁー。
「っと、お客さんなのです」
灰色の犬っころが複数やってきた。
群れなんだろうが、オレ様からすれば怪人以外が徒党を組んだ所で、ゴミ虫をまとめて潰せる良い機会になるだけだぜ。
犬っころ共は、オレ様の外見がプリーチでミニマムボディだから勝てると判断したんだろうが……。
チラリと後ろを振り返り、木に持たれかけたセブンスターの様子を伺うが、しっかり意識はねぇみたいだな。
オレ様はニヤリと獰猛に笑う。
尖った八重歯が最高にカッコいいぜ!
「ガウッ!」
リーダーらしきひと回り巨体な犬っころが吠えると、群れは一斉にこちらに駆けてくる。
「クソ犬共ガァッ!オレ様の獲物を狙ってんじゃねーぞッ!!」
オレ様が魔力を解放すると、金色の長髪が電気を帯びて蠢く。
磁力を発し、周囲の砂鉄を開いた両手に集め、槍を形成。
磁力のS極とN極を切り替え、高速回転させた槍を磁力の反発で放つ。
射線に入った犬っころ7.8匹に風穴を開けて即死した。
衝撃で怯んだ犬っころに接近し、超振動を繰り返す砂鉄の刃で次々に首をはねていく。
「只の犬共がぁ怪人様に勝てるワケねぇだろうがよぉッ!!」
背を見せた犬共には次々と砂鉄のナイフが突き刺さる、肉壁が無いなら貫通力はイラネェ、連射をするのだっ!
「グオォンッ!」
ひと回り巨体の犬が叫ぶと、赤いオーラを身に纏う。
んだありゃ?
彼奴も怪人なのかぁ?
「話がわかんなら、格上に手を出すんじゃねぇ。尻尾を巻いて逃げたら、見逃す事も考えてやるぜ?」
オレ様が笑って問いかけてやるが、此方の言葉が解らない様で、赤いオーラを纏って駆けてくる。
その速度は他の犬とは一線を引いている。
外国の怪人なのか言葉が分かんなかったみてぇだ。
「オレ様に勝てるわけねぇだろ」
犬の前に巨大な水球を作り、自ら水に飛び込んで慌てている所に、電撃を浴びせる。
自ら水……くっ、オレ様自分の才能が恐ろしいぜ!
ダランと下が伸び、白目を剥いたところで水球を解除する。
「魔力がなぁ……」
新たに現れる別の異形に、オレ様はため息つく。
周囲に溢れる魔力を、どうにも上手く吸収する事が出来ない。
オレ様自身の魔力を感じる事が出来ない所為だろう。
セブンスター早く起きろよォッー!
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