ロリウィッチ、召喚される
「ようこそ勇者達よ!!」
髭面のジジイが何かほざいているが、オレ様は周囲を確認する。
クラスメイト達と共に瞬間移動させられたらしい、セブンスターを狙った犯行か?
「安藤さん、安藤さん」
オレ様は取りあえず、セブンスターである安藤星七に近付き声をかける。
奴が何か知っているなら、リアクションを取るだろう。
オレ様が奴をさん付けなのは、奴に好まれる様な不思議ちゃんキャラを演じているからだぞ!
「七瀬、無事か」
セブンスターはオレ様を確認すると屈んで頭を撫でる。
煩わしいが、今は情報収取の為に我慢だ。
奴はオレ様を撫でつつ耳元に口を近づける。
「悪い七瀬、巻き込んでしまったかもしれない」
「安藤さんのせいではないです」
セブンスターはオレ様の計画に嵌り、幾度も危機に直面した。
だが、その都度近くにいた主犯のオレ様は、巻き込まれて迷子になってる阿保だと認識されて来たのだ。
なんたる屈辱!
まぁ良い、その恨みもこの毒入りお弁当を……おや?オレ様の手元にあったお弁当が無いぞ?
というか、荷物が無い。
机も無い。
「どうした七瀬?」
「持ってたお弁当が無いのです」
「そうだな、荷物が無いのは不味いな……。どうした?残念そうな顔して、お腹空いているのか?」
「違うのです。安藤さんの為に早起きして作ったお弁当が無くなったのです」
貴様を葬る為になァァァ!!
しかし、オレ様の貴重な睡眠時間を削って作った弁当を無駄にしやがるとは。
相当屑な奴が主犯だな?
あの髭か?殺すか?
セブンスターはオレ様だけに聞こえる声で言う。
「七瀬、俺は人の悪意が分かる」
え?何その能力?
オレ様知らないよ?
「俺はこの力をセブンセンスと呼んでいるんだが、今は良い」
せぶんせんす。
畜生!道理でオレ様の計画をことごとく潰してくれた訳だぜ!!
セブンスターはオレ様に正体を明かしている。
奴の正体が判明し、変身解除後を狙って奇襲をかけようとした時に見つかったのだ。
奴は怪人である事をバレて怯えていたが、オレ様だって怪人だ。
そして、人間よりも進化した存在の怪人である事に、オレ様は誇りを持っている。
ウジウジしてる奴を叱ってやってから、セブンスターは何かとオレ様を気にかける様になりやがった。
まぁ、奴を見張る上では好都合だからな、マヌケめぇぇぇっ!!
「兎に角、周囲の人間からは悪意しか感じられない。俺達はかなり窮地に立っている」
だろうな。
オレ様が頷くと、奴は悲しい目をした。
奴の恩人であり、戦闘を支えていたババアが、子供を質に取られて裏切った時みたいな目だな。
アレは傑作だったが、ババアが土壇場でセブンスターを庇って死んで失敗したんだよな。
まぁ、オレ様が預かり知らない所で計画してた所為で、迷子かと思ったババアの子供を交番に届けて、親であるババアに連絡が入って裏切ったらしいが……オレ様が悪いなっ!?
しかも、ババアの死体は実験に使ったら蘇生しやがったしサイアクだっ!!
クソッタレェ!
「敵の戦力が分からない今、脱出に連れていけるのは、小柄な七瀬だけだ。勿論、七瀬なら体格なんて関係なく連れて行くけどな」
何だ?コイツ?
クラスメイトを見捨てるのを躊躇ってるのか?
馬鹿がっ!
怪人以外の人間が幾ら死のうが問題ねェだろうがよォ!!
チョー面白い奴だな。
「皆んな浮かれてて怖いのです。安藤さん、命あっての物種です。それに、此処に連れて来られたのは安藤さんのせいではないのですよ?だから、気に病む必要は無いのです!」
言葉の通り、クラスメイト達は何やら気持ち悪くぶつぶつ言ったり、ニヤケている者が大半である。
平和ボケした凡人共怖えェな。
お前ら集団誘拐の被害者だぜ、もっと怯えて心地よい悲鳴上げとけよォッ!
オレ様がセブンスターに声を掛けると、奴の瞳に光が灯った。
やっと怪人様の価値を理解した様だな。
さぁ、ダニ供など置いて、オレ様達はおさらばしようぜ!
そして、無事日本に帰ったら……ぶっ殺してやんよォォォォォッ!!
「七瀬、失礼する」
そう言って、セブンスターはオレ様のお股に頭を通して肩車をする。
合体だ!!
オレ様は成長が止まっち待ってるから、手足も短く移動速度が遅い。
屈辱だが、何度もセブンスターに肩車をされているのだ。
というか、オレ様のセブンスター抹殺計画を、コイツは肩車で戦場から圏外に輸送しやがる所為で散々煮え湯を飲まされてンだァ!
今は緊急事態だからな、この屈辱は貴様を殺すまで置いておいてやる、セブンスターよッ!
覚えていろっ!
「行くぞ……」
セブンスターは自然な足取りで派手の大きな扉に向かう、髭ジジイはまだ何か言っているが無視だ。
扉の前に差し掛かった所で、出口を固めていた騎士の格好をした男達が立ちはだかる。
「勇者様、お待ちを。王様の……うごっ!」
セブンスターは怪人形態に変身もせずに、生身の拳で兜毎殴り飛ばした。
おまっ!
全身鎧だゾォッ!!
そもそも変身もしてねェのに!?
どんな腕力してんだっ!?
鎧男の落下音が甲高く響き、呆けてたもう1人の男が漸く意識を戻した時には、最初の男の二の舞になっていた。
そして豪華な扉を蹴り開けると、オレ様を乗せたまま走り出す。
クッソ!
もっと安全運転しやがれ!
舌噛むだろうが!!
「なっ!ななっ!?お、追えっ!捕らえるのだ!!」
髭ジジイの大声を背中に、セブンスターはオリンピックに出れる程の速度で走る。
勿論オレ様を乗せてだ。
「あ、安藤さん、安藤さん。凄い身体能力です!!」
「あぁ、セブンセンスはあらゆる能力を7倍にする」
な な ば い。
つまり、オレ様達怪人は、セブンスター7人を同時に相手してる様なものなのか?
え?勝てなくない?
嫌でも数で上まれば……いや、過去に集団でセブンスターを襲った奴らがいたな。
人造怪人の変身時間や活動時間を超えれば、奴は只の人だって偉い人が決戦時に言ってたな。
まぁ、ムカつく立ち回りで各個撃破された。
その時セブンスターは『俺の変身時間は7光年だ』とか言っていたと、逃げ延びた怪人仲間から聞いたな。
オレ様は風邪でお休みしてから直接は聞いてないが、そもそも7光年って距離だっつーの!ってお布団で思ったから覚えてるぜッ!
「お待ちくださいッ!」
オレ様が現実逃避していると、いつのまにかセブンスターの前に巨乳のババアが立ちはだかっていた。
アァッ?オレ様以上の身長は全員ババアだっつーのォ!
まぁ、目の前のビッグオッパイはババアにしては若いが、その目は腐ってるから碌な奴じゃねーぞ。
「安藤さん、安藤さん。あいつは目が腐ってるので、碌な性格してないですよ。たわわなお胸に騙されないでください」
「あぁ、安心しろ。俺は妹キャラが好みだ」
「それは今聞いてないです」
「……そうか」
オレ様達の会話が聞こえたのか、頬がヒクついているが、テメェが悪党なのは同類だから分かるぞ。
ビッグオッパイは相変わらず貼り付けた笑みを浮かべたまま、口を開く。
「勇者様、今は混乱しているのは当然です。私達は敵ではありません」
「嘘なのです、敵意バリバリです」
「待て七瀬、話を聞こう」
セブンスターはオレ様を止め、奴に話を続ける様に促す。
ま、まさかっ!!
セブンスターッ!見損なったぞッ!
お前はこんな巨乳の色仕掛けに騙されるなんてっ!!
オレ様が貴様に誘われて市民プールに行った時は、ハニートラップを避けまくったじゃねーかっ!!
色好く怪人サキュバーノは自慢の肢体で、貴様を魅了し精魂絞ろうとしたのに、お前が全く魅了されなかった所為で、暫く居酒屋で飲んでたんだゾッ!!
その後奴は居酒屋で知り合ったおっさんに慰められ、そのおっさんが会社を立ち上げ日本一の企業へと進む道を陰ながら支えて、結婚を期にオレ様達の組織を辞めたがな……。
「良かった、お話を聞いてくれるのですね」
ビッグオッパイはニッコリと微笑み、両手を胸の前で合わせる。
それにより、胸が強調されるのは奴の計画通りだろう。
誰もが気を許しそうな雰囲気を意図的に纏い、甘い戯言で堕としていく。
まるで、毒の花だな。
「貴方達勇者様は、別の世界より召喚された存在なのです」
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