クリアだと思った?残念二回戦目がありました!
『騎士王を倒した所から再開です。現在の状態じゃ街の教会は使えないので、騎士王の死んだ修道院で神に祈ります。前回同様、体力を極振りでいいです。因みに、ラスボスまでは敵を避けていけば戦闘にはなりません。では魔王城からスタートです』
魔王城は湖の中央にあった。
魔王城に行くまでの道には巨大な桟橋が掛かっている。
橋の上にはこれまで侵入がなかったせいか、敵の姿は全く無い。
『霊体の見えない敵が索敵してますが、よく見ると影があります。まぁ、端っこを通れば戦闘になることはありません。扉の前でボタンを押すと扉が開閉します。そしたら、特殊攻撃ボタンでチャージしてください。両手持ち状態で聖剣の特殊攻撃を行うとビームが出ます。ダメージは通る仕様なのでラスボス前に体力を減らしときましょう。攻撃後は左手にナイフ、右手に聖剣を持ってください』
敵と遭遇せずに魔王の居城へと侵入する。
巨大な門も、目の前に立つとゆっくりとだが独りでに開いた。
魔王という存在を見たこと無いが、しかしコイツが魔王だろうという確信があった。
そんな確信を与える存在が玉座に座っていた。
ソイツは禍々しい存在ではなく、普通の人間にしか見えない姿だった。
俺が奴を視認すると同時に聖剣の黒い輝きが増していく。
引っ張られるよう力に従い、魔王へと剣先を向けると身体の中から何かが搾り取られる。
魔力だ、俺の中の魔力と呼ばれる熱が腕先から抜けていった。
黒い光が目を眩ます程に輝くと、それは魔王に向かって黒い光の奔流となって放たれた。
『会話イベントが本来なら始まりますが、対話中に攻撃すると戦闘が始まる仕様なのでこの状態でもダメージは入ります。これで体力が半分くらい削れますが、戦闘中はまず当たらないので動かない敵専用技です。戦闘中にやることも可能ですがネタプレイですし、時間が必要なので今回はスルー。魔王は距離があると飛んできますので、ナイフでパリィしてください』
黒い光の奔流が魔王を飲み込むと、魔王の苦しむ声が聞こえた。
同時に、怒りに狂った叫びと同時に魔王が飛び込んでくる。
魔王の手には聖剣に似た一振りの剣が握られており、それが此方に向かって振り下ろされた。
咄嗟に左手に持ったナイフでその攻撃を流すように滑らせる。
ナイフに沿って側面へと流れる魔王の剣、ガラ空きになった身体、またとない好機。
俺は躊躇なく剣を心臓に突き刺した。
魔王はそれでも此方に攻撃しようと剣を振り上げる、距離を取るために俺は魔王の腹部に向かって蹴りを放った。
魔王は蹴り飛ばされ、そのまま俺の前方へと倒れていく。
『一定期間、魔王は硬直が入ります。パリィのタイミングさえ上手く行けば、余裕で倒せる相手なのでプレイヤースキルを磨いてください。魔王から距離を取ったら振り下ろしが来ますので、二回避けてバクスタです』
魔王が起き上がり、此方に向かってゆっくりと歩いてくる。
剣を一振り、二振り、鋭い一撃だが避けれないわけじゃない。
此方を見ていないような魔王の攻撃は理性というものを感じられなかった。
魔王の攻撃を避け、そしてそのまま背後を取る。
既に最初の一撃のせいで精彩に欠けていたのかもしれない。
そんな魔王の背中に蹴りを放ち跪かせる。
そして、そのまま背中に向かって剣を突き立てた。
「おぉ……神よ……」
「魔王……」
魔王の瞳に理性の色が戻り、何か呟いたと思ったら息絶えた。
魔王が息絶えると同時に、魔王の居城の中心部に黒い影が現れる。
人にも見える黒い影、それが揺れながらもそこに存在していた。
自然と俺の足はソイツの元に動いていく。
影が、俺を飲み込んだ。
『魔王二戦目です。実は魔王というのは前任者の勇者で、本当は取り付いてたコイツが魔王です。精神世界での戦いになります。精神世界だと聖剣の呪いは適用されてない状態になります。開幕攻撃が来るのでローリングで回避します』
真っ白な何もない空間が広がっていた。
そんな場所に上半身だけの巨大な人の形をした影がある。
それが滑るように此方に近づき、巨大な手で引っ掻くように攻撃してきた。
俺は咄嗟にその攻撃を飛び込むようにして前転することで避け、武器を欲する。
すると、俺の手には握り慣れた聖剣の感触があった。
聖剣が、俺の呼びかけに応じて出現したのだ。
俺は腕を振り切った奴に向けて斬りかかる。
奴に確かなダメージを与えたが、しかしこのままではマズイと今まで幾度と助けられた直感が働き俺は急いで距離を取る。
『一撃入れたら離脱、全体に向けて影の攻撃が来ます。その後、影の塊がホーミングしながら3つ飛んできますが魔王から最大まで距離を取ってグルグル回ってれば回避できます。距離を取ると瞬間移動してくるのですが、どこに来るか分からないので反射神経で対応してください。一撃食らっても死にませんが、体力は今の状態だと半分くらい減ります、二回までしか喰らえません』
「ウオォォォォォ!」
影が膨れ上がり、小規模な爆発を起こす。
闇の波動とでもいう爆発は、謎の白い空間を震わせる。
近くにいることを良しとしない直感に従い距離を取って正解だった。
奴は苦しげな声を上げると、身体から何かを放ってきた。
黒い影の塊が恐ろしい速度で此方に向かってくる。
俺はそれに追われながらも奴を見据えていた。
長くは持続できないのか、俺の背後で落ちていく闇の塊。
不服そうに奴は俺に視線を向けていた。
そして、口のような物を開けるとそこに向かって闇が集中していく。
『全体に向けてのビームです。聖剣を盾にして防ぐしか無いのですが、喰らっても死なないので突撃です。むしろ攻撃し放題のチャンスになります、スタミナ切れするまで斬り続けましょう』
阻止しなくては、俺は駆け出し聖剣で攻撃を加える。
振り下ろし、振り上げ、袈裟斬り、幾重にも剣を振るうが眼の前で光が集まっていく。
ダメだ、この攻撃は防げない。
気付いた頃には遅く、阻止することは能わず、そのまま俺は攻撃を受ける。
影の口から黒い闇の奔流が、聖剣の光の奔流とは似て非なる闇の奔流が俺の腹を貫いた。
焼けるように熱い、しかし肉体に損傷はない。
立っているのがやっとな俺を、奴はその長い腕を伸ばして掴んでくる。
ダメだ、逃げられない。
『拘束が入ります、ボタン連打で外せるようになるまで抵抗します。拘束中はダメージが入るのでとにかく連打してください。外れたら魔王がそのまま落としますので着地と同時にパリィの準備として両手持ちに切り替えてください、決着です』
何度も藻掻き、その末に拘束を振りほどくことに成功した。
押し開けた掌から、真下に向けて落ちた俺は白い地面に聖剣を突き立てそれを支えに立ち上がる。
奴は、落ちた俺を追撃するが如く腕を叩きつけに来た。
それを聖剣で防ぎ、拮抗の末に押し返す。
そして後ろに倒れそうになった、腕を押し返された影に向かって俺は駆けた。
態勢を崩した、謎の存在に聖剣を突き立てるためだ。
「アァァァァァァ……」
聖剣が突き刺さると、刺さった部分から光が影を払うかのように削っていく。
影は罅割れたかのように表面から強烈な光を撒き散らしながら、苦しむ声と同時に霧散していった。
『タイマーストップ、78:54:27です。何とか4日で魔王討伐しました、多分一番これが早いと思います。エンディングです。総評としては、開幕運ゲーな職業設定で勇者を引けたことによる呪いの聖剣RTAが出来たのが大きかったです。効率を考えると他の職業は勇者に大きく劣ってしまうので、その場合はリトライしてください』
気付けば俺は魔王城の玉座に座っていた。
何が起きたのか分からないが、しかし魔王を倒し、あの影を倒した事には変わり無いのだろう。
あの影が何だったのか今となっては分からない。
さて、使命を果たした俺はどうしたらいいのだろうか。
俺は報告すべく、王都へと向かうのだった。