馬は犠牲になったのだ!
『ヒュドラから騎士王の紋章を奪った所から再開です。馬に乗って、滝の裏に進んでください。道があります。本来はヒュドラを倒すと死体で水が堰き止められて気付けます』
ふと、滝の落ちる音に混じって風の音を感じた。
なんと、滝の裏に穴が広がっていた。
馬に乗った状態で滝の裏側に回り、その穴に入っていく。
洞窟のようなその穴は、どうやら地下に向かうように斜面になっているようだ。
暫く進んでいくと、赤い光が見えた。
溶岩だ、赤く流動する溶岩がその先にはあった。
『乗っている間は馬も熱で死なないので気にしないでください。降りると数秒で脱水症状になって死にます。バグじゃないです、仕様です。適応の魔法が触れてる間は馬にも作用するんだと思います』
溶岩地帯には生きてるモンスターがいなかった。
この過酷な環境では生きていける場所が限られるのかもしれない。
遠くに動く人影、ゴーレムの姿を見るからに生きてないモンスターだけのようだ。
『道なりに進むとこれ以上はボスを倒さないと進めない場所になりますが、溶岩の中に突っ込んで、馬から飛び降りてください。馬を犠牲にすれば進めます』
自らの死に怖じ気付く馬を無理矢理進めて溶岩に飛び込んだ。
足元から悲痛な叫びが聞こえるが、無視して陸地へと移動する。
『後は雪山地帯へと進みます。たぶん、一番短いルートですね。雪原エリアに到達したら上の方に竜王はいます。氷を溶かしたり氷を作ったりしながら進むギミックがありますが、ショートカットで進みます』
陸地の奥に繋がる洞窟から雪原へと出た。
溶岩地帯と違って、体毛の多いモンスターが多数いる。
モンスターは本来、避けて対応するのだが一体ずつ近付いて処理した。
囲まれれば死んでしまうので細心の注意を払ってだ。
そして、次のエリアであろう雪山の入り口部分で立ち止まる。
何だか無性に壁を殴りたくなったのだ。
『この位置を攻撃すると、壁の向こうのモンスターにダメージが入ります。壁抜けではなく伝播しているのでしょう、バグじゃないです。攻撃したらすぐに距離を取ってください、来ます』
予感を感じて雪山入り口から雪原に出る。
すると、先程まで立っていた場所が轟音に包まれた。
先程攻撃した壁を壊して、白いドラゴンが現れたのだ。
ドラゴンは壁に頭を打ち付けて項垂れている、これはチャンスだと聖剣で攻撃を繰り出した。
『竜王を倒してから開通するショートカットですが内側から攻撃したら開く仕組みなのでモンスターを利用します。竜王まで裏口からすぐです、裏口から入れば瞬殺です。ここで身代わり人形を装備してください』
壁に空いた穴から侵入すると、そこには上り坂があった。
上り坂の先に竜王がいるという確信を何故か抱き、そのまま聖剣を持って坂を登り上がった。
登った先は崖だった。
崖下には、白い巨大なドラゴンがとぐろを巻いて眠っている。
『正面から入ると戦闘になりますが、裏口から入ると気付かれません。飛び降り攻撃すると大ダメージが与えられます。これで八割は削れるので攻略が早く進みます。では始めましょう』
両手に聖剣を握りしめ、意を決して飛び降りた。
重力に引かれる身体、聖剣が刺さるように態勢を整える。
そして、体重を乗せた一撃が竜王の首筋へと見舞われる。
「グワァァァァァァ!?」
『首を左右に振って暴れます。聖剣ごと吹き飛ばされますが、着地と同時にローリングで回避してください、腕攻撃が飛んできます』
「貴様ァァァァ!」
竜王が首を左右に振り、反動で振り落とされる。
聖剣を持っていたので、ヌルリと抜けたそれごと地面へと叩きつけられた。
背中が地面についた瞬間、身体を捻り肩から横向きに転がり移動する。
すると、先程までいた場所に竜王の腕が叩きつけられるのが目に入った。
『続いて噛みつき攻撃が来ますので、バクステで後ろに下がれるだけ下がってください。噛みつきは三回なので、二回目からダッシュで飛び切りをします』
竜王と目が合い、その憎悪に燃える目から敵意を感じ取る。
ここはヤバイ、すでに死地であるという直感が自然と足を遠ざけさせた。
すぐさま、背後に向けて下がっていく。
その瞬間を狙ってか伸びる首、鋭い牙が襲いかかり、構えた聖剣とぶつかり金属を叩きつけたような音を打ち鳴らす。
鋭い攻撃、だがそれも終わりが来る。
その瞬間を狙って下がる足を踏み出し、斬り掛かった。
聖剣は吸い込まれるように竜王の右目を傷付けた。
『ダメージが一定以上入ると怯みます。動きが止まるので硬直した瞬間に強攻撃を入れると死にます。強制イベントが開始、イライラタイムです』
右目を押さえ苦しむ竜王、その首元に逆向きとなった光る鱗を見つけた。
逆鱗、ドラゴンの弱点と呼ばれるそれだと気付き、そこに向けて会心の突きを食らわせる。
「おぉ……魔王様……」
『イライラタイムなので解説。竜王は死ぬと同時に自爆します。この攻撃を防ぐには竜殺しの一族が持つ龍属性攻撃をカットする竜殺しの鎧を装備しないと無理です。どんな防具でも死にます。しかし、取得条件がドラゴン退治なので時間を大幅ロスしますので諦めて死んでください。身代わり人形で身代わりにしてください。体力は1残るので問題ないです』
竜王の身体が光に包まれ眼の前が真っ白になっていく。
お前、自爆するのか……その疑問を抱いた瞬間に気を失った。
どのくらい時間経過があったのか、気付けば俺は雪の中で眠っていた。
手には黒い炭が握られており、人形がそこにあったことを思い出す。
何故か俺は生きているらしい、神は言っている魔王を倒すまで死ぬのはまだ早いと。
『言ってません。ムービーで主人公の独白が終わったので行動タイムです。四天王は死ぬたびに他の四天王を強化します。最後は騎士王と決めてるので東の人狼を狩ります。竜王が死ぬと魔法で隠されていた宝物庫が発生するので中からアイテムを取得します。転移のスクロールと竜王の秘宝を手に入れます。他は重くなって素早さが下がるので放置してください。転移で王都を選択、ジャンプしながら選択すると数秒早く転移できます』
眼の前に聳え立つ謎の扉を開けると、金銀財宝が敷き詰められた空間があった。
黄金の空、その下には宝物がこれ見よがしに溢れている。
まるで普段はそこにいるかのように、竜王と同じぐらいの凹みが金貨の海にはあった。
中央には宙に浮く三角形の赤いルビーがある。
俺はその場所に入ると、迷わず丸まった羊皮紙とそのルビーを手にとった。
羊皮紙を飛び跳ねながら広げると、瞬きと同時に俺は王都に立っていた。
『王都に来たら、まず入り口近くの薬屋で回復薬を買い占めます。竜王の秘宝は売ると店の商品すべてを買い占めてもお釣りが来るので問題ありません。お釣りは邪魔なので寄付します。回復薬を買い占めたら教会に向かってください。今はリザードマンとして認識されるので衛兵には攻撃されません』
迷わず身体を右に向け、目の前にいる薬屋の婦人に赤いルビーを差し出す。
呆然とする婦人を他所に、店のカバンに回復薬を入れるだけ入れて、そのカバンを背負って店を出た。
店を出て、王城近くの教会へと走っていく。
衛兵と時々会うが頭を下げて王都にようこそと挨拶してくるので勇者だと気付かれてないようだ。
『教会に入ったら、竜王の経験値を魔力に極振りでお願いします。教皇が貴方の呪いに気付いて話し掛けてきますが、ボタン連打してください。呪いを解除してくれます』
「おぉ、そこのお方。なんと悲しき運命を背負っているのか。もしや呪われているのでは?」
「あぁ」
「貴方から溢れる力を感じます、さぞや名のあるお方なのでしょうな」
「あぁ」
「ならば、我が力が貴方の支えになるやもしれません。試しに、呪いを解いてみませんか」
「あぁ」
「もしよろしければ幾許か、喜捨頂けると助かるのですが」
「あぁ」
『クソ僧侶の長い話が終わり、解呪されました。回復薬を飲んで全回復してください。次に乗合馬車に乗って人狼狩りに向かいます。東の開拓村を選択してください』