西の魔女が死んだ!
『始めていきます。ボタン連打で進行してください、結果名前はあになります。職業はランダム、性別は男、ステータスは割り振られてません。今回は勇者あですね』
そこは石積みの閉鎖的な一室だった。
床には魔法陣が刻まれており、周囲にはローブを着た者達がいる。
その中心に、偉そうな格好をしたお爺さんがいた。
王冠らしき者からして王様だろう。
「おぉ、よくぞ来られた勇者よ――」
『プロローグです。ここは行動はできるのですが、話が終わるまで部屋から出られないので時間を無駄にしないでください。王様が話している間に服を脱ぎます、服を脱ぐと防御力は落ちますが素早さが上がります。それと魔法陣を刻むのに使った生贄に刺さったナイフを取得してください』
ズボンを脱ぎ、上着を投げ捨てる。シャツもあるきながら脱ぎ捨て、パンツ一枚になった。
そして、魔法陣の横にある鶏から突き刺さったナイフを手に取った。
『王様の話が終わりそうです。終わると王様が聖剣を渡してきます。受け取るまで進まないのでボタン連打で、受け取り次第装備したナイフで王様を殺害してください』
「という訳なのじゃ、さぁ旅立つが良い勇――」
聖剣を左手で手に取った瞬間、右手のナイフを首に突き刺す。
王様は理解出来ない様子でそのまま崩れ落ちた。
『戦闘になるのですが、騎士達の相手をしているのは時間の無駄なので逃げます。すぐ動かないと囲まれますが、ルートさえ知ってれば回避できます。動画を見直して覚えてください、必須です』
事態を理解した騎士が剣を取ろうとした瞬間、王様を踏み越えて背後のドアを開け放つ。
そのまま走り抜け、何故か騒ぎを聞きつけた使用人が箒や剪定鋏を持って廊下に立っているが、反対側によることで駆け抜けた。
一直線の廊下を抜け、階段を登りまっすぐ進む。
巨大な扉があるが、横にある石を触ると自動的に開き始め、王都へ続く王城の門が見えた。
道を進んで、門を抜けると王都だ。
『王様を殺すと、犯罪者扱いされて会話できるモブが限定され騎士との戦闘が王都で発生します。ただ、魔王の四天王が王様に憑依するルートを潰したほうが速いので殺します。王様を殺さないと、追い出すためにアイテムを集めて、そのアイテムの為に要求されるレベルを満たさないといけないと、色々ありますが大幅なロスです』
王都は入り組んだ形になっている。
大通りが十字に広がる円形の街で、寄り道をしなければ中央から外まですぐに出れる。
王城は中心にあり、ぐるりと王城の回りを移動して勇者は西に向かって走った。
途中騎士がゾロゾロ出てくるが、動きが遅いので斬っている間に避けて戦闘はスルーした。
『ランニングタイム中に簡単な解説。魔王を倒すには、四天王を倒さないといけません。結界があって、魔王城にバグ技を使わない限り入れないからです。先に西に向かうのは物理攻撃をカットする四天王、霧の魔女がいるからです。通常だと大幅なデバフなんですが、王様を殺す副次効果で聖剣の属性が反転して呪い状態になります。解呪してない聖剣は呪われているので呪い分の属性攻撃が入ります。つまり、ステ攻撃力と呪い攻撃です。物理はゼロになるので計算式には入ってきません』
西の城門を抜け、整備された道を進む。
そのうち石畳がなくなり土の地面になると平地でなくなってきた。
『王都を抜けました。森が見えると思うのですが、そちらに向かってください。森の入口にトロールが三体いますが、倒すのには時間がかかるのでダッシュとローリングで回避してください。右、左、右、と寄ればプレイヤースキルが無くてもだいたい避けれます。基本的にモンスターは戦わないで必要最低限のレベルで進行します』
森に近づくとトロールが一体、棍棒を持って立っている。
トロールがこちらに気付き、その鈍足で歩み寄ってくるのを華麗にスルーして横を通り過ぎる。
二体目のトロールが棍棒を振り下ろしてくるが、ローリングして股の下を通過、ローリングし続けて三体目が追いかけようとして右往左往している横を通過。
立ち上がって、三体のトロールを追い抜き森の中へ、背後から遠距離攻撃も警戒し続ける。
『基本的に森は擬態したモンスターが多いので、よく見て逃げてください。木とか骨とかゴーレムとか基本的にモンスターです。起き上がったり飛び上がったりしてくるので、身構えずダッシュしてください。イベントです』
森の中で馬車の一部が壊れたのか立ち往生して困った顔を浮かべる商人がいた。
どうやら、車輪が破損して外れてしまったようだ。
『車輪を修理して上げるとアイテムを貰えますが、殺しても貰えるので今回は殺します』
呪われた聖剣が商人の体を袈裟斬りで真っ二つにする。
商人は話しかけようとして死んだ。
『手に付いてる起死回生の指輪を取得。HPの低さに比例してステータスを強化してくれます。聖剣の呪いで常に体力は1になるので都合のいいアイテムです。馬車の中から魔女の火付け薬も取得してください、ボス戦で使います。これがあると半分くらい短縮されます』
森を進んでいると、古城のような物が見えてきた。
中に進むと一本道が見えたのだが、廊下とほぼ同じ大きさのイノシシがいたので反転して外に向かった。
振り向いたら巨大なイノシシが此方に向かって走ってくるのが見えたので、左側にローリングで回避、イノシシがそのまま走り抜けているのを見送ってから再び入城。
『説明が遅れましたが、気付かせてから一度外に出てイノシシは切り抜けましょう。一撃でも食らうとレベルカンストしても死にます、逃げてください。廊下を進むとエレベーターが見えてくるので、乗ったらレバーを引いて端に寄ってください。反対側に飛び降ります』
廊下を抜けると古代のカラクリ仕掛けの昇降機があった。
どうやら、レバーを引くことで縄が動き出し床が上に動く代物のようだ。
昇降機が上に上がっていく間、建物内部を見てみる。
全部で五層あるようで、吹き抜けとなった場所に昇降機があるからか、廊下を徘徊するスケルトンなどが目に入った。
昇降機側の廊下には手すりがついており、昇降機で誰が登ってくるか使用人が分かるようになっていたのかもしれない。
昇降機が登りきった瞬間、反対側に向けて飛び降りてみる。
あと一歩の所で手が届かず、自由落下を始めるが一段ズレた四層目の手すりに手が届いたので何とかよじ登る事が出来た。
『普通に進むと中ボスと戦うハメになるのですが、倒した後に進める四層目の廊下はショートカット出来ます。反対側に移ったら奥に向かって、魔女の寝室に入ってください。移動中に商人から奪った魔女の火付け薬を聖剣に使います。五分間、炎属性も付与されるのでダメージが上がります。ムービーはスキップです』
廊下を走りながら、使用人のスケルトンを回避して懐から出した薬を聖剣に垂らす。
垂らした所から真っ黒な炎が聖剣から発生し、刀身が黒い炎に包まれた。
そんな聖剣を持った状態で、一番奥の豪華なおそらく魔女がいるであろうドアを蹴破った。
『開始直後ローリング、魔女の魔法が飛んできますので回避。発動後硬直状態なので一撃を入れたら背後に走り抜けてください、全体攻撃が発生します』
「無礼者、誰じゃ!」
魔女らしき女が此方に向かって手を伸ばし、そこから雷の槍らしき物が直進で飛んでくる。
それを転がることで頭上を掠めながらも回避して、起き上がりざまに切り上げる。
胸を押さえて魔女が何かしようとしたので急いで距離を取れば、魔女の体を中心に光の膜が球体となって広がっていた。
周囲の物が吹き飛んでいたので、斥力かなにかが働いていたのだろう。
『後は一撃も喰らわずに殺してください。回避後、魔女が炎を両手から出して剣にしますが利き手と反対側を位置取りしてスタミナ管理すれば、あと二回で倒せます。一、二、ほら簡単でしょ』
「おのれ、魔法しか使えぬと侮ったのが――」
魔女が此方を振り向きながら、炎の剣を精製し構える。
それに対し、距離を詰め此方も聖剣を構えた。
魔女の鋭い突きが俺を貫かんとするが、右側に向けて紙一重に避けてその伸びた腕に一撃を入れる、片腕は貰った。
追撃を試みるも、何故か無傷な魔女が振り向きながら斬り掛かってきていたので合わせるように右側から回り込んで背後を取る。
そして、無防備になった背中に向けて聖剣を突き刺した。
「例え、私が死んでも第二、第三の四天王が――」
『奴は四天王でも最弱、なお対策してないと強いです。脳筋プレイは属性をアイテムか加工で付与しないとダメージを与えられれません。反対に魔法使いなら与えられますが、魔女なので魔法防御力が高いので魔法攻撃は微々たる物です。多分、これが一番早いと思います』