第2章 女神トーク!
真っ平らな世界。何もない世界。これから何をすればいいんだ?
とりあえず持ち物確認。服はそのままだ。あとは財布と、バスの定期券。死の直前、自分が持っていたものはそのままだ。記憶もそのままだ。ただ一つ。スマホだけ、ない。
「なにかとチートアイテムだからなー」
本来、異世界にはないスマホが、なにかとトラブルを解決したりする。
アイはすでに起きていたようだ。
「おはよう」
「……おはよう」
聞きたいことはたくさんあった。俺は彼女によってビルの縁に、死の淵に導かれた。
「なあ…アイは…」
その時だった。目の前が光に包まれた。
「っ!まぶしっ!」
目を開けると、目の前に女神(?)がいた。あぁ、これもお決まりのやつか。
「どうも! ここ『area』を統べる女神です! 気軽に、めがみんって呼んでね☆」
思っていたのとちょっと違う。女神といえばもっと、おしとやかな感じを予想していた。
「え〜っと〜、ウミカワさんでしたっけ〜?」
「あ、はい。こっちの女の子がアイです。」
「ん、あー! はいはい! お久しぶりですね! ちょっと見ないうちに可愛くなりましたねー!」
「……前に会ったっけ??」
アイは首をかしげる。可愛い。
「あ〜記憶無くされてるんでしたね〜。失礼しました〜」
女神は一呼吸置いて、話を再開する。
「えー、早速ですが、転生についてご説明させていただきます!」
やはり、説明役の女神か。
「まず、はじめに、正確に言うと現在いるこの場所は異世界とはいえません!」
「どういうことですか?」
「ここは、世界と世界の中継所。通称『area』です☆」
決めポーズを決める女神。何に対して決めているのだろうか。
「あなた方は『ウチュウ』という世界からやって来ました。神様に選ばれ、転生が可能になりました。これから別の世界 に行くことができます。あ、でも行く世界は神様が選びますので!」
「異世界は一つじゃないんですか?」
「当たり前ですよー! 無限にあります!」
「ということは、別の世界からもう一度転生することもできるんですか?」
「はい〜、できますよー!」
案外早くに目標が達成される、のか?
「そもそもですねー、世界と世界というのはつながっているのです。えっとー、正六角形を想像してみてください! イマジン〜」
「はぁ」 言われた通りに想像する。
「この一つ一つの頂点が、"世界"です。簡単に言うと、転生というのは、頂点から頂点への移動なのですよー」
簡単に言ってのけたが、聞く限りかなりスケールの大きな話だ。
「他の頂点に移動しようとする、すなわち対角線を引こうとすると、 面を通りますよね? この面こそが『area』 なのです!」
「なるほど、それで中継所なんですね」
「いぇす☆ 世界を移動しようとする者は、みーんな、ここを通るわけです」
「その割に周りに誰もいなくないですか?」
「いえいえ、ここからは見えないだけで、離れたところに別の世界からの転生者がいるのですよー。そこでは、私の分身が仕事中です☆」
女神の分身、どの世界の人とでも話せる女神の言語能力については、聞くまでもない。きっと「女神ですから☆」の一言で終わる。
「ここはそんなに広いんですか」
「んー、広い、という言葉では足りません。そもそも、あなた方のいた世界で一番広いのが宇宙って時点で、この『area』と比べるに足りません。点と面を比べるんですよ?」
スケールがデカすぎてついていけない。俺がいた"世界"は点に過ぎないだと?
「それだけじゃありませんよー。先程は、わかりやすくするため正六角形と言いましたが、実際は、正無限角形と思っていただいて構いません。世界は、たくさんあるのですから!」
「もはや、円じゃないですか。」
「そうですねー、しかしそこには確実に頂点が存在します。」
面白くなってきた。ロマンに溢れている。思っていたよりも異世界は広い。いや、果てしないと言うべきか。
「あの、ふと思ったんですけど、頂点から隣の頂点へ移動する時もここを通るんですか?」
「鋭いですね〜、まるでミシン針みたい!」
まったく嬉しくない。
「何事にも例外が存在するのです〜。ここを通らずに異世界へ行く方法。その1つは、異世界からの召喚や、特定の異世界転移。これは神様の意志に関係なく行き先が決まるからなのですー」
指折りで数えながら女神は続ける。
「んでー、もう1つは先程仰ったように、隣の頂点への移動です〜。つまり、神様が隣の頂点への移動を決めた場合です」
「その、ちょいちょい出てくる神様ってのはどんな方なんですか?」
「さぁー? 私にもわかりません〜。ただ、転生者の運命は神様によって決まると言っても、過言ではありません」
「どういうことですか?」
「まず、あなたをここに連れてきたのも神様、転生の際、行き先、持ち物、見た目、記憶を変えるのも神様、そして、あなた方の消滅を決めるのも神様です〜、これらはここを通らなくても同じです」
神様、か。つまり、アイの記憶を消したのも神様ってことか。
「それらの基準ってなんなんですか?」
「気まぐれです!」
「は?」
「全て神様の気分で決まります!」
「そういうもんなんですか。」
「そういうもんなんです。神様は、上から見て、面白いと思ったことをする、それだけです〜」
そんな適当なのか?そんなんでいいのか?
「次の世界で普通に死んで、神に見捨てられたら、あなた方は消滅します〜。ぜひ、死ぬときはいい死に方してくださいね☆」
おっかないことを仰る。おそらく消滅というのは、転生できなくなるということだろう。
「これで一通り説明し終わりました! 何かご質問は?」
「あの、これから俺らはどんな世界に行くんですか?アイがいた世界ですか?」
「いえ、違います〜、神様は同じ対角線を逆走させることだけはしません〜。おそらく別の世界かと。着いてからの、お・た・の・し・み☆」
「あの、ここにとどまることってできないんですか?」
異世界を研究してきたものにとって、興味を惹かれないわけがない。
「んー? どーだろ? 長年やってるけど、ここにとどまろうとする人はいないなー。」
「女神様おいくつなんですか?」
「のんのん〜、女性に年齢を聞くのは世界共通でNGだぞ☆ 敢えていうなら永遠の18歳かなっ! きゃはっ!」
ぶりっ子女神。きっと、何とか億歳とかだろう。
「ありゃ、もうお時間ですかねー」
明るい世界が、より明るくなってきた。
「それでは、皆様に神のご加護があらんことを! また、いつかお会いしましょう! ばいび〜」
手を振る女神。次会った時には、もっと世界について教えてもらおう。世界についてゆっくり語り合いたい。
明るさは一層増し、目の前が光に包まれた。
第2章 女神トーク! 完