エピローグ:現実の希望的観測
地球に向かった翔悟を見送った後、女神イシスは神の間に呼び出された。
「やあ、久しぶりに顔を合わせるね、女神イシス。いや、今は石須愛菜なのかな?」
実体化した神は女神に語る。
「女神のお勤め御苦労様」
「……」
無言で神を睨みつける愛菜。
「どうだった、久しぶりの石須愛菜としての再会は? 私からのプレゼントは気に入ってもらえたかな?」
「……やっぱり最低だよ、神様」
「あはは、最高の褒め言葉だね」
神は動じない。捻くれた物語こそ、彼の理想とした"世界創造"だから。
「なんで……こんなひどいことばっかりするの……?」
「何で、かー。うーん、そうだね、最後だし語っておこうか」
神は不敵な笑みを浮かべて、話し始めた。
「私はね、自分が"何かと同じ"にするのが好きじゃないんだ。私が人間だった頃からね。誰かと同じ服、誰かと同じ考え、何かと同じ物の創作、そんなものじゃつまらないだろ? 常に独創的でありたいのさ」
「……なんか、そんなの寂しい人の言い訳みたいじゃん」
「それでもいいさ。裏を返せば周りに馴染めないってことだけど、表を返せば周りにできないことができるってことだからね。神になれる以上、自分にしかできないことがやりたいだろ?」
「……そんなの知らないよ」
「幸せな物語なんていっぱいあるからね。本当はもう飽きている人だっているはずだ。だから私はわたしにしかできない"面白い世界"を、"面白い物語"を創りたかったのさ」
「でも、幸せな物語のほうが面白いじゃん!」
「ああ、できれば私も幸せの方がいい。幸せが嫌いなわけじゃないんだ。でも、今は幸せがありふれてしまっている。人は理想の幸福に囲まれてしまっているんだよ」
「それでいいじゃん!」
「……いや、そこには幸せのありがたみが欠けてしまっているのさ。幸福に慣れてしまっているんだよ」
「幸福に慣れている……?」
「そう。だから私はその人々に一度低みを見せるのさ。現実という不幸をね」
神は興奮してきたのか、手を広げて選挙演説のように続けた。
「そうしてまた幸福を見ればいい。その時見る幸福は以前より輝いて見えるだろう! あるいは今まで幸福とも思えなかったものまでそう見えてくるかもしれない!」
「それで……翔ちゃんが……誰かが傷つくとしても……?」
「私は最悪の神だからね。人間の犠牲も不可欠だと思ってしまっている。それを含めて、現実なんだよ。全ての人間を幸せになんてできるはずがない」
「それでも……最後にはみんなを幸せにするのが神なんじゃないの?」
「最後……か。君は物語の最後ってなんだと思う?」
「そんなの……そのお話の結末のことでしょ?」
神は首を横に振った。
「そこじゃ終わらない。書かれていないだけで物語は続いている。昔話で大判小判を手に入れたおじいさんだっていずれは老いて死ぬ。異世界で最強になった勇者だって魔王討伐後にも生活は続く」
「そんなの物語だからじゃん。いちいち書いてたらキリないよ」
「物語と人生の何が違うっていうんだい? 君たちの生き方なんて神様が書いた物語に過ぎないんだよ。少々のアドリブは許されるけどね」
愛菜は理解することを無意識の中で拒否した。それを肯定していまうと自分の生きていた意味が失われる気がしたから。
「物語のハッピーなところで切って、無理やりしめくくる。『俺たちの冒険はこれからだ!』とかでね。それが理想の物語だ。現実の物語は、誰かを不幸にしないと終われないんだよ」
「……最低」
「いいね! かわいい女の子からそう言ってもらえるなんて!」
「……きもい」
愛菜は一歩後ずさりして身を震わせた。
「冗談だよ、でも私は後悔はしていない。むしろここまでよくやってこれたと思うよ。自分で自分をほめたいね」
神は誇らしげに胸を張った。その自信に迷いはなかった。
「もう思い残すことはない。次のバトンを君に渡すよ」
「え、わ、私……?」
いきなりのことで愛菜は戸惑いを隠せなかった。
「他でもない。君は立派に転生者を女神まで育て上げたからね。女神から神に昇級だよ。君の枠には次の人が入るから」
その"次の人"が誰なのかは聞くまでもなかった。
神が世界を作り、女神が転生者を導く。やがて転生者は世界を知り尽くす女神となり、女神が神となる。その秩序は神ですら介入できない。
「任期は次の転生者が一人前になるまで。それまで君は好きに世界を動かせる、好きなように物語を創れる」
突然のことで愛菜は頭がいっぱいになっていた。
「任期が終わったらどうなるの……?」
「その時は君の存在が本当に消滅する」
「じゃあ、神様ももうすぐ消えちゃうの?」
「ああ、惜しんでくれるのかい?」
「いや、全然」
「ずいぶん嫌われたね。まあそれでいいさ。君は君なりの世界を創ればいい。私のやり方が気に入らないならそれはそれでいい」
愛菜はそれに対して何も答えなかった。ただ、消滅という言葉は彼女に重くのしかかった。
「もう話し尽くしたよ。それじゃ、世代交代といこうか」
かつてない光が彼女に差し込んだ。目を開けてはいられなかった。
「お別れだ、女神さん。君の活躍を楽しみにしてるよ」
「待ってよ! そんないきなり……!」
「女神のときと同様拒否権はない。なに、すぐに慣れるよ」
光がさらに強度を増していく。光は天まで伸びていく。彼女自身も浮いている感覚に陥った。
「さあ、君はどんな世界を創るんだい?」
「そんなのわかんないよ。けどあえて言うなら……」
愛菜の顔に少しの笑顔が浮かんだ。楽しい気分というよりも、懐かしい気分から来る思い出し笑いのようなものだった。
「……神のみぞ知る、かな……」
光が彼女を包む。その光は彼女の体内にまで入っていくようだった。
やがてその光は天まで昇っていき、消えた。
「せいぜいがんばれ。君なら幸せな世界を創れる」
神もまた、聖なる光とともにどこかに消えた。
その空間には、ただ静寂だけが残った。
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私はたった今、神になった。未だに実感は湧かない。
とにかく、これからはいろんな世界を整理していかなくてはならないようだ。
前任の神様は世界に現実を見せた。
その前の神様は世界に安定を求めた。
私は……どうしよう。
前任の神様が言っていたこともわからなくもない。
でも、私にはできない。
その前の神様がやろうとしたことも正解だと思う。
でも、私にはできない。
……私にできることをやろう。
手始めに、翔ちゃんを幸せにしよう。前の神に散々痛めつけられたんだ。今回は私が彼を救う。
新たに"石須愛菜"という存在を作った。
三人で仲良くしている姿を見ながら私は考えてしまう。あれは私であって私ではない。海川翔悟と池内高広と仲のいい少女に過ぎない。
まあいいさ。そうやって強がってみた。
……これで翔ちゃんは本当に幸せだろうか。
……これで池ちゃんは本当に幸せだろうか。
ーーこれで石須愛菜は本当に幸せだろうか。
こちら異世界転生研究所
〜異世界転生の現実の希望的観測〜 終
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。初投稿でしたが、皆様のおかげで完結させることができました。
以下、あとがきとなります。初心者作家の戯言ですが、お付き合いください。
私は異世界モノが好きではありませんでした。
序盤をお読みいただき気づかれたかと思いますが、この作品は異世界モノへの皮肉から書き始めました。
異世界モノを読んで、自分ならもっとこうするのになー、という軽い気持ちから書き始めました。
しかし書くうちに、そのような異世界モノの良さに気づき始めました。作中にも書きましたが、異世界は自由なんです。作者様の感覚と意図に合わせて世界を作れるのです。だからこそ、人によってテイストが違ってくる、同じ作者でも作品によって世界観が変わってくるのです。
自分には自分の見える世界しか見えていません。ですが、小説を通して他人の世界を覗き見できるのです。なんか素晴らしくないですか。
もちろん中には好き嫌いもあるでしょう。チートが苦手な方、ラブシーンが苦手な方、主人公が苦戦するのが苦手な方、人それぞれです。私も前述の通り、異世界に行って無双するストーリーが苦手でした。
ですが、読んでみたら意外と面白いのです。その作者様なりのこだわりがあったり、俺ならこうすると妄想してみたり。
だから皆様も食わず嫌いしているものがもしかしたらあるかもしれません。これを読んでくださった方々は、私なんかよりいろんな小説を読んでいらっしゃると思いますが、気づかないうちに敬遠していたものがあるかもしれません。
嫌いなものを無理に食べろとは思っていませんが、新たな世界を解放してみるのも面白いと思いました。
このように思えたのは小説を書き始めたからかもしれません。私のように「私ならこう書くのになー」とか、自分の中に何か"世界"を持っている方がいらっしゃると思います。あるいは、この作品を読んで「こんな作品認めない!」と思った方もいらっしゃるかもしれません。逆に何かの作品の世界に憧れを持つ方もいらっしゃると思います。
そんな時はその"世界"を文字に起こすことをお勧めします。テーゼでもアンチテーゼでも、それがかけがえのない世界だということを保証します。お時間があるときに少しメモ帳に書いたりしてみてはいかがでしょうか。
私がこの作品で伝えたかったことはひとつだけです。
『ぜひ最後まで読んでほしい。そして読み返してほしい』
この作品に限らず、他の作者様もそう思っていらっしゃるでしょう。作者の頭の中にはすでにストーリーが完成しています。それを知るのは神である作者だけです。その世界を最後まで見届けてほしいのです。
ネット小説が無料で読める昨今、気軽に1話をみて、気軽にブラウザバックできます。そのせいでタイトルやあらすじで読者の気を引いたり、第1話のインパクトを重視しすぎるがあまり、いわゆる出オチ大喜利状態になってしまうのでしょう。もちろんそんなことになっていない作品もたくさんあります。
だからこそ、もう少しだけ進んでみてほしい、そしたら面白くなるかもしれません。面白くないかもしれません。
結局、最終的には作者の腕の問題なんですけどね。
この作品も「一話切りなんてもったいない!」と言ってもらいたくて書いていました。始めの部分だけ読んだ人が持つ印象と、ここまで読んだ人が抱く印象は全く異なるものでしょう。この構成がネット小説に向いているのかどうか悩みました。おもしろかったかは作者にはわかりません、読者様にしかわからないのです。ただ、今後も読者様の貴重な時間を無駄にしないような作品づくりを心がけていきます。
次回作についてですが、もう構想はあります。
今回は王道から外れた脇道を行ったので、次は少し王道にしようかと。と言っても路地裏くらいですかね。ひねくれたものが好きな方はすいません。ですが、王道が苦手だった自分にしかできない世界を創り上げます。
また、今作はストーリー重視でキャラにあまり力を入れられず、テンポも速くなってしまったので、その反省を生かし、ゆっくり少しずつキャラを掘り下げていきたいです。
ひねくれた作者だからこそできる作品をお楽しみに。
作者としては評価pt、ブクマが欲しくないと言ったら嘘になります。もちろんいろんな人に読んでもらいたいですしね。
しかし、それ以上にせっかくここまで読んでくださった目の前のあなたに、この作品を最大限楽しんでもらえることが何よりの幸せです。
長くなりましたが、ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。お見苦しい点もいっぱいあったと思います。作者としては読んでいただけたこと、完結できたことをとても嬉しく思います。
本当に、本当に、ありがとうございました。
では、皆様、また会う日まで。
by黒鼠




