Final "現実"の世界3
「すごいね、異世界!」
二人ともテンションが上がっている。夜中になったとはいえ、俺も含め、みんな眠気を感じている様子はない。
「だな! これを発表したらビッグニュースになるって!」
「そうだよ、翔ちゃん!」
「でもな……」
教授の言葉を思い出す。今の俺の話は他人にとって信頼に足るものではない。
「みんな信じてくれないと思うんだ……」
「そんなことないよー!」
「そうだそうだ、こんだけリアルな体験談があるんだぞ?」
「だが、それは俺の中にしかないんだ。こんな非科学的なことは信じてくれないさ」
「うー、科学かー」
「た、確かに証明は難しいよな……」
「さっき教授にも言われたよ。今の世の中じゃ信じてくれないから、時が来るまで待てってさ」
「そんなの待ってられないよー!」
「そうだよ、新鮮なうちがいいんだろ?」
そんな魚みたいに言われても。新鮮な魚だって、おいしさを見出されなければ他の魚と変わらない。非食用の魚はたとえ新鮮であっても見向きもされない。
「どうすればいいと思う?」
うーん、と腕を組む二人。何かを思いついたように愛菜が発言した。
「あ!、いっそ誰かほかの人を異世界送りにするとかー?」
無意識だろうが、おっかないことをおっしゃる。
「さっきの話聞いてたろ? 異世界に行くには死ななきゃいけないんだよ」
「死んででも異世界に行ってみたい人もいるかも!」
「それは翔悟だけだろー」
こいつらの中で俺はそんな変人なのか。正しくは死ぬ前に異世界に行ってみたいってのが俺の夢だったはずだが。
「なあ翔悟、もうネットでは呼びかけたのか? もしかしたら世界中のどっかには信じてくれる人がいるかもしれないぜ?」
「それはもうやったよ……。嘘扱いされて終わりだ」
「まだわかんないぜ! そのうち信じてくれる人からくるかも!」
「どうだろうなぁ」
たしかに宇宙人やUFOを信じる人は一定数はいる。しかし、それは宇宙の存在が認知されているからであって、存在すら認知されていない異世界を信じる人が俺たち以外に果たしているだろうか。
期待はあまりできないが、もう一度パソコンを立ち上げてさっきの掲示板を開いた。
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1:異世界帰還者 投稿日2020/04/06 09:11
id:SreiaveR05
異世界から今帰還した。本当だ。
2:名無し 投稿日2020/04/06 09:15
id:1tSiLaeR0
>>1
嘘乙
3:名無し 投稿日2020/04/06 09:16
id: ReleNnahc2
>>1
やべぇやつやん、関わらんのが吉。
4:名無し 投稿日2020/04/06 09:18
id:eNo1eMos
>>1
はい、解散。
5:名無し 投稿日2020/04/06 10:15
id:aTis3NiNoR10
>>1
ついに人類の妄想はここまできたかw
証拠だせ、証拠。
6:名無し 投稿日2020/04/06 10:34
id: ReleNnahc2
>>1
転生してチート能力もらって異世界無双してきました的な?w
ですが夢想でした的な?w
7:名無し 投稿日2020/04/06 11:32
id:eNo1eMos
>>6
だれうまw なろう小説かよw
8:名無し 投稿日2020/04/07 09:38
id:NI4mAgem1
>>1
そういうのはなろうでやれよ
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ほらやっぱり。所詮こんなもんだ。誰も信じてくれない。スレッドを立ててから一日以上経過しているが、数人しか反応してくれていない時点でお察しだ。
この人たちが言う通り、俺の体験は他人にとって、いつも読んでた小説の中の出来事でしかない。夢物語という分類のなかの一部に過ぎない。
あの時と何も変わっちゃいない。異世界を信じているのは俺たち3人だけ。
「うひゃー、辛らつだね~」
パソコンの画面を横からのぞき込む池内が本音を漏らす。
だが、この人たちの考えは決して間違ってなどいない。いきなり異世界から戻ってきたと言われて信じる人のほうが珍しい。むしろこの情報だけで信じ込むような人はネット上にはいないだろうな……。今頃になって自分の最初の書き込みの平易さに反省する。
「それだよっ! 翔ちゃん!」
今度は横で見ていた愛菜がいきなり叫んだ。耳元で叫ばれ、思わず圧倒される。
「びっくりした……。それってどれだよ?」
「小説だよ! しょ・う・せ・つ!」
「小説がどうしたんだよ」
「その翔ちゃんの体験をさ、小説にすればいいんじゃない!?」
俺が……小説を?
「でもよー、それだと結局フィクションってことになるじゃねーか。信じるどころか、架空世界になっちゃうぜ?」
「むー、それもそうかー」
「……いや、それだ」
二人が驚いた表情で俺を見る。
そうだ、その手があったか。
俺の体験した異世界は確然たる事実だ。しかし、今はそれを心から信用してくれる人なんてほとんどいない。まして、異世界の存在を周知の事実とすることなんてもっとできない。
ならばいっそ、完全な信用などなくていい。人々は今、せいぜい異世界の存在について半信半疑だろう。50-50だ。それを100-0にすることは到底できないのだから、せめて75-25くらいにしてやろう。
それを可能にするのが小説だ。エッセイとして正面から事実を語っても、突っぱねられるだけだ。空想を前提としたフィクションに乗せることでようやく人々の心をつかめる。
そこからは読んでくれた人次第だ。その人の中の異世界という可能性を引き上げる。その人の現実の見方を変えてやる。
異世界を可能にできないなら、不可能じゃなくせばいい。
ーーそうだ。小説家になろう。
これが異世界から帰還した俺にしかできないこと。俺だからこそできること。俺がすべきこと。
今まで俺は、神が作った世界の上を歩かされてきた。神の決めた運命に従い、神の導くままに行動してきたのかもしれない。
今度は俺が"神"になる。お前の所業をもう一度、文字という形にして起こしてやる。お前の作り上げた最悪の現実を塗り替えるのはその後だ。
「ちょっと、翔ちゃん?」
愛菜が俺を心配そうにのぞきこんだ。
「ああ、ごめん。小説、いいアイデアかもしれない」
「ほんと?」
「おいおい、大丈夫なのかよ、翔悟?」
「ああ、昔一度書いたことあるし。俺ほど異世界を知り尽くしたものはいないだろ?」
「それでみんなは信じてくれるのかよ?」
「ああ、きっと」
今は誰にも信じられなくたっていい。いずれその時は必ずやってくる。その時まで俺は、異世界研究者として声を大にして声高に主張し続けよう。
ーー異世界はある。俺が知っている。
教授の言っていたのはこういうことなのかもしれない。いつか必ず異世界が当たり前になる日が来る。俺の役目は、それまで異世界という可能性を0にしないことだ。
「まあ確かに、翔悟にぴったりだもんな! お前、昔から物語るの上手いし!」
「他人とは上手く話せないのにねー」
「うるせーよ」
アイデアはどんどん湧いてくる。まあ自分が体験してきたことだし、当たり前か。
とりあえず手始めにネット小説サイトにでも投稿してみよう。いろんな人の目に触れるし。
「ねーねー、はやくさっきの続き聞かせてよ!」
「ああ」
「よっしゃー、今日は朝までパーティじゃ!」
みんなでもう一度乾杯をして、俺は続きを語った。
俺は二人に異世界の話をしながら、小説の書き出しを考えていた。
まあとりあえず、最初は「この物語はフィクションです」から始めようかな。聡明な読者ならわかってくれるはずだろう。
Final "現実"の世界 完
こんなオチじゃ、なまぬるい。
もうちょっとだけ続きます。




