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第1章 愛と出逢い、 4


 翌日。彼女は朝イチで研究所にやってきた。


「…お邪魔します」


「ああ、そこに座ってくれ。見せたいものがある」


 現実を知り、彼女は悲しむだろうか。俺は最後まで迷った。そして、迷いは捨てた。

 俺はテーブルの上に研究成果報告書を出した。


「…何、これ?」


「俺の研究成果だ。読んでくれ」


 彼女は子供のような、キラキラした澄みきった目をしている。間違いなく期待している。

 しかし、読み進めるごとに表情が曇っていく。

 そして、10ページくらい読んで、悔しいのか、憎いのか、悲しいのか、わからない表情で、涙を流した。俺は出会って2日の女の子を泣かせた。


 いや、俺は悪くない。悪いのは、現実だ。


 いたたまれなくなり、できるだけ傷つけないように話しかける。


「すまない。異世界にいく方法なんてわかっていないんだ」


「……」


 無言ほど恐い回答はない。


「だから、この世界で生きよう、ね? 孤独で不安なら、俺がいる。だから……」


 そこで言葉に詰まる。だから、だから、なんだ?

 昨晩寝ずに考えたセリフだった。薄っぺらい、テンプレートな台詞。続きはなんだ?


「…あなたなら、もしかしたらって思ったけど……仕方ない、よね……」



 彼女はおもむろに立ち上がり、こちらに笑顔を向けた。それは彼女の初めての笑顔だった。こんな状況でなければ、俺はキュン死していただろう。

 しかしそれは、涙で濡れた、強がった天気雨の笑顔だった。


「…時間とらせて悪かったわ。またね」


「え、ちょっと待ってよっ!」



 彼女は出ていってしまった。

 俺は選択肢を間違えたか? 彼女は救われたのか? それとも俺は、女の子一人救えなかったのか?

あるいら、間違った方向に救い上げてしまったのか? 

 人生はゲームじゃない。やり直しがきかない。


「自分が恥ずかしい」独り言を呟いてみる。

 そんなことはわかっていた。こうなることだって予想できていたはずだ。。


 それからずっと、ぼーっとしていた。

妄想する余地も、猛省する余地もないくらい、ただただぼーっとしていた。


 正解の見えない問いを目の前に、ただただ立ち尽くすことしかできなかった。



ーーーー




 1時間くらい経っただろうか。実際には数分しか経っていないのかもしれない。

 彼女を追いかけるべきだったのだろうか。今からでも間に合うのだろうか。そんなことしたら、かっこつけていると思われるだろうか。今更俺に何ができるのか。


 いや、迷っていても仕方ない。



「探しにいくか」


 彼女がどこにいるのかはわからない。とりあえず大学内をまわってみよう。

 藍上寮→柿國→指洲(さしす)キャンパスと回った。どこにも彼女の姿はなかった。


 勇気を出して聞き込みをしてみたりもした。彼女が新入生ということもあってか誰も彼女のことを見ていないと言う。



 そのうち戻ってくるかも……という淡い期待を抱きながら立鉄キャンパス行きのバスに乗った時だった。池内から電話があった。



「あ、やっと出た! おい! やべーって! 翔悟! あの女の子、飛び降り自殺しようとしてるぞ!」




 茫然自失。目の前が暗くなる。言葉が発せない。


「立鉄キャンパスだ! 早く来い!」


 バスが動き、揺れる。あるいは、俺の動揺だろうか。


「もしもし? 翔悟? 聞いてるか? とにかく早く来い!」


 池内の言葉は途中から耳に入ってこなかった。



ーー俺のせいだ。


 俺が無責任にも彼女を現実に叩き落した。

 俺が信じてあげないでどうする。俺は異世界転生研究所初代所長だぞ? 

 彼女は、孤独を感じていたのだろう。俺だって、孤独を感じることがある。

 彼女は、理解者が欲しかったのだろう。理解者になれたのは俺だけだ。

 彼女は、迷っていたのだろう。間違った道を教えてしまったのはこの俺だ。


 だからこそーー

 まだ間に合う。彼女を理解できるのは、彼女を救えるのは、



ーー俺だけだ。















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