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Another5 "嘘"の世界3

【異世界研究活動報告8】

〈1日目〉


 この世界は地球に似ている。車や飛行機はあるが、電車やバスはない。昼や夜はあるが、月や太陽はない。一軒家はあるが、マンションはない。


 地球に似ている。ただし、地球の偽物だ。

 偽り、虚構、"嘘"。


 "嘘"が許された世界なのである。


 政府をもがそれを許し、嘘が悪だとは教育されない。

 そんなことをしたら国が混乱するのが目に見えている。住民は何を信じてよくて、何を信じてはいけないのかがわからなくなる。互いを疑い合い、勝手に信じ合い、疑心暗鬼に陥るのだ。そんな世の中は生きづらい。

 したがって、信頼を基盤とするサービス業は軒並み機能を果たさなくなる。銀行の貸し借りはもちろん、郵便やメディアなんかも使われなくなっていく。




 『狼少年』という童話がある。『狼と羊飼い』とも呼ばれるこの作品は、周知の通り、いつも「狼が来た」と嘘をつく羊飼いが、本当に狼が来た時に信じてもらえなかった、というものである。

 嘘に溢れることで、せっかくの真実が隠れてしまうことを物語っている。

 『ピノキオ』や、この『狼少年』に代表される童話によって私たちは、嘘がいけないものだと教えられてきた。


 しかし、この世界においては、狼少年悪くなく、騙された大人が悪いということになる。

 

 "騙される方が悪い"

 詐欺師の常套句だ。この世界ではすべてが自己責任なのだ。嘘という無責任な発言が許されるのにもかかわらず、それに騙されたことへの責任逃れは許されない。

ーー信じるか信じないかはその人次第だから。


 そのために、この世界の住人は、人を信用しないことを選んだ。誰を信じていいかわからなくなり、信じることも、疑うこともしなくなった。

 信じられるのは部外者のみ。自分の身内すらも疑いの対象となる。



 俺のいた本物の地球はどうだっただろう。

 目の前の情報は信じられるものだっただろうか。街中は嘘だらけだっただろうか。


 私の中では、地球も似たようなものだったのだと思う。

 嘘は許されておらず、虚偽は罪であるとされているため、世の中は真実ばかりかと思いきや、そうでもない。日常生活やネット上など様々な場所に"嘘"がある。

 ことごとく、この世界は地球に似て非なるものだとわかる。


 この世界は、"嘘"の中に真実がある。

 対して地球は、真実の中に"嘘"がある。


 それを見分ける力を持たないものが損をして、それをぼやかす力を持つものが得をする。

 地球では、嘘を見抜かなければ生きていけない。

 逆に俺は、この世界で真実を見抜かなければ生きていけない。しかし、それができたら苦労しない。


 嘘を見抜きたいなら疑えばいい。

 ならば、真実を見抜きたいなら何をしたらいい?


 

 鏡の向こうの誰かさんは、俺に"真実をも疑え"と言った。奴の言葉が信用できるかすらわからない。

 

 この世界における真実って何だろう。


 いっそ、この世界が"嘘"だらけだということが、嘘なのかもしれない。

 そしたら、この世界は真実だらけだということになる。ならば二行前の嘘はなんだったんだ……?


 嘘か本当かなんて考えてもわからない。こんな考察は無駄だったかもしれない。


 無限に続く背反に嫌気がさしてきたので、この辺で終わろうと思う。



 ああ、そうだ。友達ができました。これは嘘ではない。名前はエイネ。転生者、いわゆる俺と同じ部外者だ。

 魔法学園→勇者→農家→漁師→主婦→魔王→貴族→村人、と転生して今に至るらしい。

彼女の話はとても興味深かった。それはまた機会があったら書こうと思う。


 なんだかんだで仲間がいるって楽しい。以前の俺ではなかった感情だ。

 俺は転生の旅で少しずつ成長しているのかもしれない。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「こんな感じかな」といつもの独り言を小声で呟いた。


 やっと2度目の眠気が襲ってきた。変に頭を使いすぎたか。

 電気を消して、ソファに横になった。寝心地は悪くない。研究室で寝ていた頃に比べればマシだ。


 夢の続きが見れるかと期待したが、その夜は夢を見ることなく、ぐっすり眠った。



読んでくださっている方ありがとうございます。

今更ですが、毎朝8時に更新しております。


それでは、誰も予想しないオチへとご案内します。

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