第1章 愛と出逢い、 3
【研究成果報告6】
〈12月1日〉
私に足りないものはなんだろう。
これまでたくさんの研究をしてきた。だが、異世界に行くのはおろか、その方法すら見つかっていない。
物語で、主人公は1話目で転生することが多い。あらすじやプロローグで転生する主人公だっている。小説なら"死んだ"、"転生した"の二つの言葉で片付けることができる。
それに比べて私はなぜ行けないのだろう。
その答えは簡単。私に"主人公力"が足りていない。
純粋に、何かを守ろうとする優しい気持ち、懸命に、誰かのために命を投げ出す勇気、神に見てもらえる運。それらが欠けている。主人公力は一種の才能ともいえる。持つ者、持たざる者がいるのだ。
私がいくらあがこうとそれだけはどうしようもない。
いくら詠唱したって、
いくら練習したって、
いくら夢見たって、
いくら自殺未遂をしたって、
いくら信じたって、
ーーいくら研究したって、私が神に選ばれなければ意味がない。
これが現実。これが現実?
いろんな人から『現実を見ろ。』と言われ続けてきた。
現実、現実、現実。
現実を見た時点で、もう後戻りはできない。"引きずりこまれる"、と言う表現は当てはまらないが、あえて言葉に表現するなら、"溶かされる"といったところだろう。
ここであったが百年目。一度知ったらその味を忘れられないし、忘れさせてくれない。
知らぬが仏。知ったら閻魔。二度と天国への階段は現れない。
私たちがそれを認知しようがしまいが、現実はある。リアルはアル。
私だって最初は純粋だった。異世界に行きたかった。
この世界に不可能はないと思っていた。
しかし、不可能は確実にあった。リアルを、知ってしまった。もう逃げられない。隠れられない。目を背けられない。
現実は変えられなかった。俺なんかに世界を変える力はなかった。それは生まれた時点で決まっていた。生まれた時点から、生まれ変わることも、立ち返ることも、この世の不可能を変えることもできないと決められた。
この世界の不可能を可能にしていないのに、どうして、異世界を可能にすることができようか?
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