表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/64

Side1 Am I Ai?



 翌日。朝イチで研究所へ行った。そこで差し出されたのは研究成果報告と書かれた紙束。

なかなか本格的じゃないの。これなら期待できる。けっこう大きな大学だし、最先端の研究が行われているに違いない。



 成果報告は日記のように進んでいく。


ーーそのどれもが、失敗、失敗、失敗。


 ジンクスを見つけて真似をするが失敗。高いところから落ちて、失敗。夢オチで、失敗。

失敗がいっぱいだ。

 それでも、失敗は成功のもと、99%は失敗の連続でも1%の成功に賭けて、読み進めた。異世界に行けた成功例なんてなかった。


 この世界から、異世界へ行くのは不可能なの?ずっと、こんな違和感と孤独を抱えて、生きていかなければならないの?


 先への不安。自分が何者かもよくわかっていない。



ーー異世界は無いの?


 いや、ある。私は確実に異世界から来た。誰も信じてくれないだけだ。



 私は誰を頼ればいい? 何のために生きていけばいい? 何のためにこの世界に来たの?



 ウミカワが私に向かって何か言ってるけど、全然耳に入ってこない。


 ウミカワ。君は何がしたいんだ?なにが、"異世界転生研究所"だ。

 何を発見した?研究して、失敗して、それはいい。

ーーなら、諦めるなよ。最後までやり通せよ。


 裏切られた気分だ。






ーーあなたなら、もしかしたらわかってくれるって思ったけど。それがこの世界の現実なら、仕方がない、よね。



 私は、研究所を飛び出した。


 あーあ、これからどうしよう。唯一の希望が打ち砕かれた。


 いや、一つだけ、僅かな希望が残されている。彼の研究がそれを教えてくれた。



ーー死だ。本物の死の恐怖だ。

彼は2階から飛び降りていたが、そんなものじゃ、足りない。もっと、もっと。欲しいのは本物の死の恐怖だ。


 どうせ、私を知っているのは私一人のみだ。私は独りの身だ。


 どうせなら実験台になってやろうじゃないの。誰かが観測してくれるわけじゃないけど。

それでもいい。証明してやるよ。








 充電した携帯で、付近の手頃な高い場所を探す。

 立鉄キャンパスビル。絶好の場所だ。


 バスで移動し、一番高いビルの屋上まで上り、縁に登る。


 なかなかいい景色だ。雲で隠れてしまっているが、そこに広がっている世界。その世界は果てしない。


 下を見る。

ーーあとは落ちるだけだ。

落ちるだけ……

落ちるだけ……


 しかし、あと一歩が踏み出せない。


 時間だけが過ぎて行く。やがて、下に人が集まり始めた。雨も降り始めた。


 私は何をしているんだろう。なぜ、あと一歩が踏み出せないの? まさか、あの研究結果を気にしているの?


『異世界に行きたいと熱望する者は決して異世界に行けない。』


 ならば、信じていないふりをしよう。あの研究については半信半疑だが、気休め程度にはなるだろう。あの呪文をブツブツ詠唱する。

 こんなので、いいの? 



ーーバカなことやってるな、私。

しかも、それを誰も見ていないところで。そんなことやったところで何も変わりはしないのに。


ーーねぇ、誰か。教えてよ。私はどうすればいいの?





 そんな時、扉が勢いよく開かれた。



 彼だった。なんとなく、心の奥で予想していた彼の登場。

 しかし、彼の言葉一つ一つもまた、予想できるものばかりだった。それは、私の心に響かない。




 下にマットが用意され始めた。これじゃ恐怖でもなんでもない。私は反対側の縁へ移動する。



 そうだ、彼にもこの景色を見せてあげよう。

世界は広い。人間はちっぽけだ。その中でも私は特に、小さい。

 こんなに世界は広いのに、私は何をしているんだろう。自己嫌悪しか出てこない。自己批判しかできっこない。

 "自分"が嫌いになりそうだ。いや、もうなっているのかもしれない。それを認められない自分がいる。自分だけが、自分を見つめている。

私が自分を憎んだら、もう誰も私を見てくれる者はいない。


誰も……





ーー瞬間、暖かさが私を包む。


 抱きしめられた。

 この暖かさは、体温でも同情でもない。こんなセリフを言うのはこっぱずかしいけど、これが、愛の温もりなのだろうか。



 この行動は予想できなかった。彼は耳元で囁くように私に告げる。




「アイが孤独だとしても、俺がいる。

記憶がないなら、今から作ろう。

過去に何があったかは知らない。

未来を見よう、現実を見よう。

死ぬまで一緒だ。死んでも一緒にいよう。

だから……」



 始めて心に、耳に、身体中に響く彼の言葉。



「アイ、好きだ。俺と付き合ってくれ」



 好き。その二文字の響きは、何もかもを吹き飛ばした。孤独、不安、悲しみ、哀しみ、恐怖、憎しみ。


 なんで出会って2日の男に好きだとか言われているんだろう。なんでそれでときめいてしまったのだろう。

 彼なら私を見てくれている。すぐ、こんな風に思ってしまう私はチョロいのだろうか。

 違和感は感じる一方だが、彼に不思議と親しみが感じられる。出会って2日とは思えない。ーーもっと前から……


彼なら。彼なら、もしかするかもしれない。




彼に聞いてみた。


「……ねぇ、確認だけど、異世界ってあると思う?」



フッ、と微笑む彼。


「…異世界なんてない。そんなもの、知らない」




 さすがだ。

 彼は異世界を信じていないふりをしている。本当は異世界に行きたいんでしょ? さすがは異世界転生研究所。あんなこと言っていながら、内心ではやっぱり異世界を信じてくれていたんだ。



 広がる世界を見る。


……今なら一歩が踏み出せる。2人なら。


 言ったよね?


 死ぬまで一緒。死んでも一緒。



ーーじゃあさ、死のう。



 君と私は、一心同体、一連托生、連帯責任、死なば諸共だ。


 君と私はこうなる運命だったのかもしれない。それとも宿命か、因縁か、因果か。

ーーあるいは天命か、天罰か、神罰か。




 そして、思い切り、彼を死の淵へと誘った。






 私と彼は、落ちていく。ああ、怖い。


 私と彼は、落ちていく。ああ、恐い。



 心臓がバクバクいっている。


 これが恋? 私と彼は恋に、落ちているの?

ーーそんなの私には知らない。


 地面に着いた時、この心臓が止まるのかな? 

このドキドキは止まるのかな?

ーーそんなの私には知ったことか。




 彼を見る。彼は青ざめた顔をしている。

 しかし、最後には何かが憑依したかのような、何かを決意したかのような顔になった。


 そして、彼に強く抱きしめられた。



















ドサッ




ちょっとヤンデレ風になってしまいました。

これも作者の趣味の表r……ゲフンゲフン。


こっちは答え合わせ的な話なので、露骨すぎるくらいにこの後の展開を意識した文を入れちゃってます。


それなりに繋がりは持たせてるつもりなので、メインストーリーを読み返しながら、読み比べながら、見ていただけると幸いです♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ