Another2 全てが平等な"ゲーム"で決まる世界 8
翌朝。ダブル目覚ましの襲撃を受けて、目を覚ました。着替えて広場に向かった。
広場には既にアリアさんと執事田中さんがいた。二人で真剣な表情で会話をしている。こちらに気づいて、表情が変わり、笑顔で手を振る。
「あ、海川さん、おはようございます」
「おはようございます、アリアさん、田中さん」
「絶好のじゃんけん日和ですね」
「は、はぁ」
現在の天気、曇り。これがじゃんけん日和なのか。
他の参加者も続々と集まって来た。彼ら以外に、ギャラリーも何人か来ている。
9時になった。鐘がなるのと同時にデバイスに通知が来た。
『三次予選はトーナメント!
ドキドキと感動の戦いが君を待っている!
最後に残る3人は誰だ?
トーナメント表はこちらの画像をクリック!
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
Hebs//jensvshhzvx.hsvsh@jg
君に幸あれ!』
なんだかスパムメールみたいな文面だ。君に幸あれ、か。
画像をタップし、対戦相手を確認する。
第1試合 海川vs田中
第2試合 アリアvsジャック
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1回戦の相手は田中さん。てか、田中さんも残ってたのかよ。
「あら。海川さんと田中が対戦ですか」
「そうみたいですね。田中さん、よろしくお願いします」
田中さんは、こちらに頭を下げて返す。
「もし、勝てば次に私と当たりますね」
「そうですね。その時は負けませんよ」
「望むところです」
正直、当たりたくない。今の俺にアリアさんと戦う資格はあるのだろうか。
「では、海川様、会場へ参りましょう」
「はい。では、アリアさん。また後程」
待ち合わせする必要もなく、その場に対戦相手がいるのだから、所定場所へ移動する必要もないが、念のため移動するらしい。
じゃんけんの前に、田中さんと話をした。
「あの、苗字からして田中さんも日本の方ですよね?」
「はい。そうでございます」
「転生してこちらに?」
「はい。転生して路頭に迷っていた時、お嬢様に拾っていただきました」
それはそれは、なかなか物語になりそうな展開だ。『転生したらじゃんけんお嬢様の執事に!?』みたいな。
「だからわたくしは、お嬢様に恩を返したいのです」
「その仕事振りで、十分に返していると思いますけどね」
「いえ、だめなのです。お嬢様に、この家に勝利をもたらすまでが私の恩返しです」
「それは、政権を手に入れる、ということですか?」
「左様でございます。どうしても、私、あるいはお嬢様がこの大会で優勝し、勝ち進み、そして国のトップに立たなければならないのです」
しかし、2人は不幸にも、早々と対戦してしまう可能性がある。
「どうして、そこまで?」
「……あなたになら、お話してもいいでしょう。しかし、それについてお話しするのは、私と勝負してからにしましょう」
やけに、もったいぶるなあ。
「では、始めましょうか」
デバイスをリンクさせる。
俺は、ここでも勝ってしまうのだろう。俺はじゃんけんに勝つ運をもらった。
ーーいや、待てよ?
田中さんも転生者なら同じように、運をもらっているんじゃないか?幸運にもアリアさんに拾ってもらって、ここまで生きてきて、ここまで大会を勝ち進んでいる。もしそうならば、条件は50-50だ。本当に"平等な"ゲームだ。そう思うと、一気に緊張が高まる。
「行きますよ。グーの神よ。チョキの神よ。パーの神よ。ここに絶対の平等を宣誓す。我に力を与え給え」
「じゃん、けん……」
「ポン!」
俺はチョキを出した。
田中さんもチョキを出していた。
ーーこの世界に来て初めてのあいこだ。
「あい、こで……」
「しょ!」
俺はチョキを出した。
田中さんはパーを出していた。
ーー俺の運が勝った。
「……やはり、あなたはお強い」
「そんな、運が良かっただけです」
「私も、運は強い方だと自負していたのですがね」
なんだろう、この気分。勝ったのに、嬉しくない。今、俺は一人の人の夢を奪った。あっけなく。元から、戦いなんてそんなもののはずなのに。勝者は敗者を挫く。
「あの、海川様、お願いがあります」
「なんですか?」
眼鏡がギラリと輝いた。田中さんはゆっくり頭を下げた。
「次の対戦、お嬢様に、負けていただけませんか」
そこには、主のために恩返しをしようとする誠実な執事の姿があった。俺と同じ転生者。俺は誰かの為にここまでまっすぐになれるだろうか。
「それは……僕にはどうしようもないです」
じゃんけんの勝敗を決めるのは、
ーー運だから。
俺の能力は幸運であって、運を操作する能力じゃない。
「……そうでございますよね。申し訳ございません」
「どうして、そこまで勝利にこだわるんですか?」
「……全てお話しします」
田中さんはゆっくりと、話し始めた。