Another2 全てが平等な"ゲーム"で決まる世界 7
【異世界研究活動記録5】
〈2日目〉
私はこの世界に来た時から、何一つ神からの特典なんてもらっていないと思っていた。
しかし、それは大きな間違いだった。神は私に能力を授けた。
それが、じゃんけんに勝てる能力だ。相手は私の出す手に、負けるような手を出してくる。そんなのでたらめだろうと思うだろう。私も最初は半信半疑だった。
実験がてら、商店街のじゃんけんサービスを行なっている店に行ってきた。じゃんけんに勝てば、商品が安くなる、というサービスを行なっている店だ。
6軒ほど巡ってきたが、全戦全勝。あいこにすらならない。これで、この世界に来てから13連勝。これが偶然とは言い難い。
ここで、確信した。私はじゃんけんが強いのだ。
しかし、これは私の能力の一つの"使い方"に過ぎない。正確に言えば、私がもらった特典は、じゃんけんに勝てる能力ではないのである。
ーー神からの本当の特典は、この「運」なのだ。
運良く、街があり、家を見つけ、幸運にも、協力者を得て、好運にも、お金を手に入れ、運試しの飯は美味かったし、幸いにも、大会を勝ち進んでいる。
私は、小さな幸運から、大きな偶然まで体験してきた。私は運良く、幸運を手に入れたのだ。
それを裏付けるべく、また実験を行った。商店街の一角にある、ガチャポン、もとい、じゃんけんポン。
俺は、6回挑戦した。
1個目は、確率1%のゴールド・グー。
2個目は、確率1%のゴールド・チョキ。
3個目は、確率1%のゴールド・パー。
4個目は、普通のグー。
5個目は、普通のパー。
6個目は、普通のチョキ。
これで、コンプリートだった。速攻でコンプリートしてしまった。しかも、確率1%を3連続で引き当てた。これを幸運と呼ばずに、なんと呼ぼうか。その後、ガチャポン前に張り込み、数人が挑戦するのを見ていたが、ゴールドを当てる者はいなかった。
幸運という能力は、見た目ではわからない。劔でも、盾でも、魔術でもない。なんだかパッとしない。
こんなのいらないって思う人もいるだろう。
しかし、この世界では、最強の武器だ。
ーー全てがじゃんけんで決まる世界。
この世界において、幸運はチートだ。
どんな能力よりも、最強だ。
激しい読み合いのゲーム?
凄まじい頭脳戦?
駆け引きの応酬?
そんなものいらない。
私はこの能力さえあれば、この世界を無双できる。まさに、俺TUEEEE。
〜〜〜〜〜〜〜〜
「こんな感じかなぁ」
商店街から帰ってきた俺は、日課を済ませ、明日の決戦に備える。
記念に、ストラップはスマホにつけてみた。さすがにゴールドは重かったので、普通のグーチョキパーのをつけておいた。これでアリアさんとお揃いだ。ゴールドはお守りとしてズボンのポケットに入れておこう。
ベッドに入り、思案に耽る。
今までにない興奮で眠ることができない。心が踊っている。胸が高鳴っている。俺の研究していた、異世界転生はこれだった。俺の求めていた、異世界生活はこれだった。過去形。
リアルに体験すると、複雑な気持ちになる。
これでいいのだろうか。ひたむきに努力している人がいる。欠かさずに特訓している人がいる。まっすぐに勝利を目指す人がいる。
それに比べて私は、血のにじむ努力も、勝利に対する欲もない。ついでに言えば、友達もいない。
努力・友情・勝利、私はその全てを、諦めてきた。
そもそも、幸運ってなんだろう。人と出逢えること?低確率を偶然当てること?じゃんけんに勝てること?
そうじゃない。もっと、それより大事なことがあるだろう?
ーーこうして生きていることだ。
何度も死んで、生き返ってきたから感覚が麻痺していた。こうしてベッドの上で戯言を考えられるくらいに、俺は今幸せだ。これは、決して、能力のおかげじゃない。
もう一度自分に問う。これでいいのか? これ以上何を手に入れる必要がある?
ーー俺がこの世界に来たことは、果たして幸運だったと言えるのか?
異世界モノを書いてたつもりが、いつのまにか「幸せとは。」とか語り始めてしまう始末に、作者自身がビックリ。