Another2 全てが平等な"ゲーム"で決まる世界 6
店を出て、広場へと向かった。広場の受付の列はもうなくなっており、人々はまばらに散って、次の戦いを待っていた。そこにアナウンスが入る。
「えー、お集まりの皆さん! 時間となりました! これより第二試合を行います! お手元のデバイスをご覧ください!」
俺らもデバイスに目を移す。
『第二予選、あなたの対戦相手はこの人!
リュウさん
時間内にこの場所へ来てください』
広場の噴水近くが示されている。第二予選からは1対1の勝負か。
「現在、約400名の方が残っております! このラウンドではお一人様あたり4名の方と対戦していただきます。負けたらそこで敗退となります。次の対戦相手は随時デバイスに送信します! それでは指定場所に向かってください! 健闘を祈ります。君に幸あれ!」
このラウンドで約25人にまで絞るのか。なかなか狭き門。これならそのうち負けそうだ。
「海川さんは、どこで対戦ですか?」
「俺は噴水のほうです」
「私は時計のほうです。別々ですね」
「そうですね。お互い頑張りましょう」
「はい。ご武運を」
アリアさんと別れ、噴水へ向かう。
そこにいたのは、いつぞやのチンピラだった。お前も参加してたのかよ。取り巻きのモブ2人は、いない。あいつらは未成年なのか。
のどかな噴水に強面のチンピラというミスマッチ。最悪の相手とマッチングしてしまった。
「おぉ、対戦相手はお前か、にぃちゃん。こんな偶然もあるのか。会いたかったぜ〜」
「俺は会いたくなかったよ」
「冷たいこと言うなよ。お前のせいで昨日から何も食ってねぇ」
自業自得だ。互いのデバイスをリンクさせ、戦闘態勢に入る。
「んで、にぃちゃんは本気でトップ狙ってんの?」
「いや、狙ってない」
「そうなのか?俺は本気で狙ってるぜ〜。金欲しいしな」
結局、カネか。ブレない理由だ。まあ、理由は人それぞれだろう。
ーーあの人は、どうなんだろう。
「んじゃ、始めるか〜。今回は賭け事はなしだ」
「ああ」
ーーそして、"ゲーム"が始まる。
何を出すかなんて、考える暇もない。心理戦の一つもない。思考の読み合いすらない。必要なのは運だけだ。
「グーの神よ! チョキの神よ! パーの神よ! ここに絶対の平等を宣誓す! 我に力を与え給え!」
「じゃん、けん……」
「ポン!!」
俺はチョキを出した。
チンピラは、パー。
またしても勝利。
「ククッ、にぃちゃん強ぇなぁ〜」
「じゃんけんに強いも弱いもないさ」
「ヘッ、そうかもな」
はにかむアニキ。なんだ、そんないい顔もできるのか。
デバイスに通知が来て、次の対戦相手が表示される。
『おめでとうございます! 次の相手はこちら!
トムさん
時間内にこの場所へ来てください』
「まあ、がんばれよ。にぃちゃん。幸運を祈ってるぜ〜」
「ああ、ありがとう」
戦いを終えた敵と友情が芽生える。健闘を讃え合い、友情を深め合う。じゃんけんだって、同じなのかもしれない。たぶん。お前のパーはなかなかのものだったぜ。
チンピラと別れ、次の指定場所である大樹のほうへ向かった。
ーー結論から言おう。勝ってしまった。
勝ちまくってしまった。負けるどころか、あいこにすらならない。4戦全勝。第二予選通過。
あっけないって思うだろう。ほんとうにあっけなかった。相手と少し会話を交わす→儀式→じゃんけん
という流れ作業。見所なんてどこにもない。
今まで、こんなにじゃんけんで連勝したことはなかった。そんな自分に不自然さを覚えていた。もしかしてこれが……。
「あ、海川さんも突破されたのですね!」
全試合を終え、ベンチで休憩していた俺のところに、アリアさんと執事さんが戻ってきた。
「はい。突破しちゃいました。その様子だと、アリアさんも?」
「はい。ここで負けてはいられません」
えっへん、と胸を張るアリアさん。声のトーンが高い。
「明日も頑張りましょう。あっ、通知ですね」
デバイスに通知が届く。
『第二次予選を通過された24名の皆様。明日の9時から第三次予選を行います。15分前には広場にお集まりください』
「あら、明日も早いですね」
「そうですね、もう帰りましょうか」
「ええ、なんだか疲れてしまいました」
「俺もです」
既に辺りは暗くなり始めていた。今日は一日中じゃんけんの事ばかり考えていた気がする。まあ、たまにはこんな日があってもいいか。
車に乗り込むアリアさんを見送る。
「あの、よろしければお送り致しますが」
「あ、いえ、大丈夫です。寄りたいところがあるんで」
「そうですか。では、また明日。ごきげんよう」
俺の別れの言葉はエンジン音によってかき消される。走り始めた車窓から手を振るアリアさん。
じゃんけんの事しか考えていない俺には、アリアさんがパーを出したように見えてしまった。
ーー俺はなんとなく、チョキを出した。
完全な後出しだ。
「重症だな」
独り言を呟いてみる。
走り去っていく車を、ただただ見守っていた。
車が角を曲がり、見えなくなる。
「さて、"実験"に移ろうか」
独り言を言ってみる。
そして俺は、商店街の方へ歩き出した。




