Another2 全てが"平等なゲーム"で決まる世界 1
変化球異世界譚をお楽しみくださいませ。
気がつくと、異世界にいた。周りは静かな荒野。
現状確認。携帯、財布、バスの定期券。記憶もそのまま、見た目はもとの俺に戻っている。見た感じ、特別特典がもらえたようには見えない。やっぱり、神様は俺のことが嫌いらしい。
さて、ここはどんな世界なんだろう。
幸運にも近くに街のようなものが見える。とりあえず、あそこの街で身を落ち着かせよう。
一人で誰もいない荒野を歩いて行く。
歩きながら考える。俺は、何をすればいいんだろう。明確な目標が決まっていない。悠々自適な生活をすればいいのか?開拓をすればいいのか?最強の勇者になればいいのか?
俺に課された義務はなんだろう。俺が得た権利はなんだ?
ーーそれは異世界に来たことそのものだ。
当初の目的を忘れていた。俺は、世界を知る義務がある。世界を知る権利がある。だって異世界に来られたのだから。
いろんな世界を研究して、故郷に持ち帰って、発表してやろう。こんな世界があるのだと。世界は広いのだと。たとえ、信じられなくたっていい。俺は今、確かにここで体験している。俺にしかできないことをしよう。
いろんな世界を巡れば、その途中でアイに会えるかもしれない。世界はたくさんあるが、神様のさじ加減によって奇跡は決まる。身もふたもないが。
ーーさて、この世界はどんな世界だろう。
街の中へと入っていく。先ほどの荒野とは違い、活気にあふれていた。
前の反省を生かし、拠点から探すことにした。街の人に不動産屋的なところがないか聞き、飽き物件を探す。
幸運にも、小さな一軒家が格安で借りられた。転生者様特別キャンペーンとして、前金はなし。あとからローンで支払っていくことになった。
拠点の確保は完了。
次は、食料だ。しかし、1日でお金を稼ぐのは難しい。まずは、協力者を探そう。
結論から言うと、探すまでもなかった。街を歩いていると、幸か不幸か、男性3人に囲まれている女性を発見。
「よぉよぉ、おねーさんよぉ、ちょっと遊んで行かないかい?」
ヒヒヒヒッと笑う残り2人。ベタだ。ベタベタのナンパだ。こんな昼間からよくやるもんだ。どこの世界でもあるもんなんだなぁ。
ここは助けに入るのが、主人公だろう。
「おい。なにやってるんだ。寄ってたかって」
「……チッ…男連れかよ……なんだぁ? 兄ちゃん、俺とやんのか?」
この男、思ったより迫力がある。
「お、穏便に済まそうぜ」
「やんのか、ってきいてんだよ」
握りこぶしを作って、指をパキパキ鳴らしている。
おい、そこは、「チッ…もう行くぞ……」と言って退場するのがベターだろ。
「イヒヒヒ! ビビってんじゃねーすか、このガキ!」
「ウヒヒ! やってやりましょうぜ!アニキ!」
うるさい、モブ2人。
「やるって……なにする気だ?」
「そりゃ、決まってんだろ。"ゲーム"だ。この世界で決闘っつったら"ゲーム"に決まってんだろ」
いや、知らないよ……。初耳だよ。どこの世界にそんな常識が……
ーーここで、理解する。
ここはいわゆるゲームの世界ってやつなのか。と言っても、ゲーム内の世界ではなく、ゲームで全てが決まる世界。
ポーカー、ルーレット、麻雀、チェス。相手との読み合い。騙し合い。手に汗握る駆け引きの応酬。熱い心理戦。長い戦いの末に勝ち取る勝利。
なるほど、この世界はそういう世界か。
「いいだろう。その勝負受けて立つ」
「イヒヒヒ! こいつバカだ! 3人相手に勝てるわけないだろ!」
「ウヒヒ! うちのアニキはマジパネェからな?」
フラグでしかないセリフ。
「いい度胸だな、兄ちゃん、何を賭ける?」
やはり、何かを賭けないといけないのか。じゃあ。
「じゃあ、俺の全財産でどうだ?」
「イヒヒヒ! こいつほんとにバカだ! 通りすがりの女のために全財産賭けやがった!」
「ウヒヒ! ラッキー、今夜の酒代ゲット!」
うるさいモブ2人。全財産といえど、元から大して持っていないので痛手ではない。
「お前らは何を賭ける?」
「じゃあ、俺らも手持ちのカネ全部だ」
「オッケー。んで、なんのゲームで勝負するんだ?」
トランプならできる。チェスや将棋は得意だ。麻雀はやり方しか知らない。なににしろポーカーフェイスは得意だ。
「おいおい、兄ちゃん、そんなことも知らねぇでこの世界生きてきたのか?」
「どういうことだ? ここに来たばかりなんだが」
「この世界の"ゲーム"。それは万国共通、平等にして、神聖な決闘……」
嫌な予感。
「"じゃんけん"だよ」