Another1 女神トーク・アゲイン! 1
第4章の終わりからの分岐となります。
目が覚めた。真っ平らな世界。一度見た世界だ。
世界と世界の中継所、『area』。
俺は…
ああ、そうだ。暗黒騎士に負けたんだ。ボロ負けしたんだ。ずっとゲームをやっていたからか、体の感覚がおかしい。
「ここに来たということは…また、転生するのか?」
「はいー! その通りですー!」
「うわっ! びっくりした!」
突然の女神の登場。
「呼ばれて飛び出て、めがみん参上☆」
「呼んでないよ……」
「ちっちゃいこと〜は気にすんな!」
「…はあ」
気にしたら負けだ。
わかちこわかちこ。
「えっとー、アイさん、でしたっけ?」
「違います、海川です」
「ん、あー! はいはい! んもー、紛らわしい見た目ですねぇー。」
名前を間違えられた。俺が女の子に見え…
ああ、ゲームのアバターのまま転生してしまったのか。俺の理想を反映したアバターは、アイの見た目そっくりとなっていた。
ーーアイ……
「あ、そういえばアイさんはもういないんでしたね、 うっかりしてましたー!」
……は?
もう……いない?
「どういうことですか!? アイは! アイはどこに行ったんですか!」
咳払いをする女神。
「えーっとー、消滅しました☆」
…は?
「な、なんでっ!」
「なんでと言われましてもー、神様が決めたから、としか言えないですよぉ」
その可能性も、もちろん考慮していた。でも、そんなことにはならないと、なってほしくないと切望していた。切望は絶望に変わる。
ーーやっぱりお前か。神様。
なんでアイなんだ?なんでアイだけなんだよ。
俺も一緒だっただろ?同じように転生して転移しただろ?
それにーー
「異世界転移に神様は関与しないんじゃ!」
林さんや女神がそんなことを言っていた。
「あー、そりゃ、行き先に関しては関与しないし、基本的に、神様は関与しませんけどぉ」
「だったら、なんで……!」
「そりゃ、矛盾が生じるからでしょー」
林さんも同じことを言っていた。
矛盾? 頭が追いつかない。あの子が元いた世界に帰って、何が矛盾なんだ? 何が神様にとって不都合なんだ?
「そんなことより〜、本題に入りましょー」
「そんなこと、って!」
「あのですねー、この世界にとっては些細なことですよー。引きずる男はモテませんよー。 アイさんはあなたの心の中にいるのです☆」
いい話風にまとめやがって。
「それにー、もしかしたら別の世界のアイさんに会える可能性もなくもないですしー」
「…どういうことですか? アイは消滅したのでは?」
「それはー、この正無限角柱のアイさんです」
絶望は希望に変わる。
「正無限角形が1つでないのと同様、正無限角柱も1つではないのですよ☆」
まだ……広がるのか?どれだけ広いんだ。どれだけ俺は小さいんだ。
「だから、ひょっとしたら別の角柱へと移れる時がくるかもですよ?」
「そんなことが可能なんですか…? また…会えるんですかっ…!?」
「それはー……神のみぞ知る☆」
女神、渾身の決めポーズ。
「結局それか…」
「なので、あなたは前に進むしかないのです!」
たしかに、そうかもしれない。嘆いてもしょうがない。アイが戻って来るわけではない。
アイは必ずどこかにいる。いつか、逢えるかもしれない。曖昧な単語で自分をごまかす。
前を見よう。現実を見よう。
「えー、では、本題ですがー」
女神の切り替えは早い。きっと、今まで何人もの人の消滅を見届けてきたのだろう。彼女の気持ちはおれにはわからない。
「あなたは見事にチュートリアルを突破されましたので、これからは転生の度に少し特典が付いてきます〜、おめでとっ☆」
「特典……?」
チート能力付きで転生とか、レベルカンストで転生とかいう、あれか?
「だからー、ボーナスですよ! ボーナス! ほらほら、ゲーム世界に転移したときももらったでしょ?」
「いや、何一つ能力もらえなかったんですが」
そのせいで、死んじゃったんだけど。
「そんなはずないですよぉー。だって、暗黒騎士さんと普通に話してたじゃないですかぁ〜」
それが…何だ? 騎士に言語は必要不可欠なんだろ?言語…
「もしかして、言語能力か!?」
「その通りですー! 欲しかったでしょ?」
「どんなタイミングでくれてんだよ……」
あまり深く考えていなかった。林さんたちがゲームの製作者だから、日本語版かと思い込んでたが、よく考えたらゲームを作ったPCなどはあの世界のものなのか。それに、ゲームの世界に行くのは日本人だけじゃないもんな……
「あなたは、どこの世界に行っても言語が通じるようになったのです! ヒューヒュー!」
「何だか複雑な気分だ……」
最初からそうしろよ…と言いたいが、こればっかりは、現実的なのだろう。
前向きに考えよう。 もういちいち図書館を探さなくて済む。
「あの、女神様、一つ聞きたいんですけど……」
「めがみん☆ って呼んでほしいなっ☆」
「女神様、特典ってのは、もう永久に使えるんですよね?」
「無視ですかっ!」
ずっこける女神。
「んー、モノによってはその世界にいる時"限定"ですけどー。言語能力はおそらく永遠に使えますねー」
ならば一安心だ。次はもっと、人とコミュニケーションを取れる。たぶん。おそらく。俺にその勇気があれば。
「あの、ついでにコミュ力とか、付いてませんかね?」
「ないです☆」
『異世界転生したらコミュ力レベルカンスト』というのも面白そうだが、そううまくはいかないらしい。結局、コミュ障には厳しい世の中だ。
「え、次の特典はコミュ力がいいんですかー?」
「いやいや! もうちょっと良いやつくださいよ!」
「も〜、わがままだなぁ〜」
危ない危ない。また不用意な発言で、異世界生活が台無しになるところだった。
「てか、特典って選べるんですか?」
「いえ、選べません☆」
「じゃあ、言わないでくださいよ……」
「まあ、神様が決めますからね〜、願っとけばもらえるかもですよ?」
「神様はそんな優しくないと思います」
今までだって、何度も神様に裏切られてきた。
神様は、そんな甘くない。神様は俺が嫌いだ。
ーー俺も、神様が大っ嫌いだ。
「そんなこともないですよ? 神様はなぜかあなたがお気に入りのようですしー」
「まったく嬉しくないですね」
「ツンデレさんかな?」
「違います」
やれやれ、とため息をつく女神。ため息をつきたいのはこっちの方だ。
「まだ少し時間がありますね、せっかくですし、何かお話ししましょうか〜」
「そうですね」
女神と話せる機会なんてなかなかない。この機会に色々聞いておきたい。
いや、死ぬ度にここに来るから、むしろ並の友人より会う回数多くないか?友達少なかった俺の言えたことじゃないけど。
この女神と、死ぬ度に会わなければいけないのか…。ため息がこぼれる。
こういう時は俺から話題を振るべきなのか?コミュ症にはつらい。考えた末、とりあえずコミュ症克服のワンステップ。
「あの、女神様、今後長い付き合いになると思うので、タメ口でもいいですか?」
「めがみん☆ て呼んでくれるなら許す☆」
「わ、わかったよ…め…めがみ…ん」
「何でそんな嫌そうな顔なんですかー!」
恥ずかしい。女の子をあだ名で呼ぶことなんて、一度もなかったからな。この女神は、女の子……なのか?
「もしかして照れてますー? ツンデレさんかな?」
「うるせぇ」
「急に態度変えましたね……! まあいいです。とにかく、これからもよろしくぅー!」
握手のため、手を差し伸べる女神。
「女神さ…めがみん…って触れるのか?」
なんかバーチャル映像のようなものかと思ってた。分身とか言ってた気がするし。
「いやん、触りたいんですか? きゃー! 海川さんのエッチ・スケッチ・ワンタッチ☆」
「………」
ドン引きだ。
そしてネタが古い。
「ちょっとぉー! 沈黙は一番ダメでしょ!」
「いや、ちょっと受け付けなかったので」
「もしかしてデレてます?このまま、めがみん攻略ルート入っちゃいます?」
「入らねーよ。年の差やばいだろ」
「愛さえあれば関係ないのだぜ☆」
それ以前の問題のような気がする。てか年の差、認めちゃってるし……自称:永遠の18歳、めがみん。
「なあ、めがみんって転生者の名前とか全部覚えてるのか?」
「はい〜、顔と名前は把握してまっせ」
キャラがブレブレだ。
「見た目が変わった時はどうするんだ?」
「んー、見ようと思えば魂とか見えるんで、魂が付けてる名札で判断しますかねー」
「魂に名札とか付いてんのか!?」
「はい〜、ちゃんと安全ピンで留めてありますよ?」
「小学生かよ。」
魂に安全ピンって、なんか痛そうだし。
「ふっ、あなたも転生学歴で言えばピカピカの一年生というわけですね〜!」
「上手くねーよ」
「友達100人できるかな?」
煽ってんのか?
「できるといいですね!」
喧嘩売ってんのか?
ファイティングポーズを取ろうとしたら、目の前が明るくなりはじめた。
「おや、そろそろお時間ですかね。お話の続きは、また今度にしましょうー!」
「なあ、次はどんな世界に飛ばされるんだ?」
自分でも、なんとなく、答えは予想できた。
「それはー、神のみそ汁☆」
女神、決めポーズ。
予想の斜め上をいかれた。
「それでは、あなたに神の御加護があらんことを! ばいばいきーん!」
目の前が光で覆われる。
女神めがみん。ノリの良い面白い女神だ。俺も本音で話ができる。
ーー俺はこいつとなら、友達になれると思った。
女神トーク・アゲイン! 完