第3章 ランゲージ・エンゲージ 6
翌朝、恵さんのいるハセ街に向けて出発した。
道中を漢字二文字で表すなら"沈黙"だった。アイと俺は何を話すというわけもなく、ひたすら歩き続けた。何を話したらいいのかわからなかった。
そのせいか、ハセ街に着いた頃には1日中歩き続けた気分がした。
ハセ街には人が全然いなかった。街というよりステージ。安っぽい2Dドットゲームの、手抜きされたステージ。
ようやく見つけた通行人に尋ねてみた。
「ニャー、オーキ、ドーキ?」
「あ、もしかして君たちが日本から来た方々……?」
「あ、はい。恵さんですか?」
「そうです、どうぞこちらへ」
たまたま声をかけた人が、恵さんだった。なんだか拍子抜けした。こんな偶然があるのか。いや、これもチュートリアルの一環か?
連れてこられたのは、ラボのような所だった。
「林くんから話は聞いてる。準備はできてるから、いつでも飛べるよ」
さすが林さん、連絡しておいてくれたのか。
……どうやって??
「あの、携帯電話あるんですか?」
「ええ。持ち物はそのままだったでしょう?」
「いや、俺のスマホ、転生の時に無くなってたんですけど……」
「…あの……」
徐に、アイが口を開いた。その手には俺のスマホ。
「…ごめん、わたしが持ってたの」
「え? いつから?」
「目覚めた時、わたしのポケットに入ってた」
「なんだ、早く言ってくれればよかったのに」
「…ごめん、異世界に行ってから返そうと思ってたら、返しそびれた」
「まあ、何はともあれよかったよ」
電波は通じないが、充電はまだありそうだ。
「…じゃあ、行こ。『ディストピア・オンライン』の世界に」
「そうだな」
この世界とも、このチュートリアルとも、おさらばだ。
「恵さん、お願いします」
「はい、これをかぶってください」
渡されたのは見たことのあるヘッドギア。指示どおり、それをつけた。
「転移の際、アバターはあなた方の理想を最大限に反映したものになります。なお、完全に転移させるため、ゲームクリアするまでログアウトできません。ゲーム内の死はご自身の死に直結します。そこで転生できるかどうかは、神様次第です」
「はい、わかりました」
心の準備はできている。滞在時間は短かったが、なかなか快適な世界だった。快適すぎた。
「じゃ、いくよ」
「はい、お願いします」
よかったな、アイ。これで君は元の世界に戻れるぞ。
ーー光が目の前を包む。
俺はゆっくり、目を閉じた。
……横からアイが話しかけてきた気がする。
「…翔悟、ヒヌンッアータム…」
それが俺の聞いた、"最後"の"彼女"の声だった。
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第3章 ランゲージ・エンゲージ 完