第3章 ランゲージ・エンゲージ 5
【異世界研究活動記録2】
〈2日目〉
この世界は、チュートリアルらしい。
"チュートリアル"。
ゲームの前置き。使用説明、操作補足。元の意味は個別指導とか、家庭教師。現在では、ソフトウェアの基礎的操作を学ぶことか、お笑いコンビの名前とかに使われている。
どうりで簡単なわけだ。タダでなんでもできると思ったら、ただのチュートリアルだった。
ーータダほど怖いものはない。
しかし、俺の求めていた異世界生活ってなんだ?
こんなにイージーモードなのか? それどころかゲームが始まってすらいないぞ?
俺はもっと、苦節苦難の末の異世界開拓とか、汗と涙の異世界冒険とか、熱い展開の異世界ストーリーを望んでいた。
なんだか夢が打ち砕かれた気分だ。
これが、チュート"リアル"。これが、異世界の"リアル"なのか?
願わくば教えて欲しい。神よ。どこの世界もこんなもんなのか? こんなに平和なのか? こんなに、つまらないのか? だからチュートリアルなのか?
最初にこの世界を見せて、どうしようとしているのだ?
いや、待てよ。と書きながら思った。この世界の言語はなんだろう。なんで言語に関してはハードモードなんだ?
いろんな世界から転生者が来るから、共通言語にはできないと言われればそれまでだが、俺の知ってる転生者たちは普通に話していた。
それに、林さんたちはこの世界でゲームを作った。
確実に、世界を変えている。
ーーどこからがチュートリアルで、どこまでがチュートリアルなんだ?
あるいは、これを含めてチュートリアルなのかもしれない。
こっちの世界もあっちの世界も変わらない。俺一人の力でなにかが変わるというわけではない。変える必要がないくらいだ。
ーーしかし、
そこにほんの少し苦難がある。それを克服しなければならない。
それを克服した時、ほんの少しだが、ほんとうにわずかながら、世界が、変わる。
俺の行動によって、微小に世界が変わる。
それならば、他の世界に対してほんの少し希望が出てきた。