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第3章 ランゲージ・エンゲージ 4

  明るくなってきた。結局一睡もできなかった。

 俺はアイを起こし、食堂に向かった。


 ランダム料理運試しをして、(あたりだった。)街に繰り出した。


 昨日は気づかなかったが、街にある全ての店の看板にg:0の文字があった。やはりこの街は、商業というものを知らないのだろうか。


 そして、歩き回った末、ようやく図書館らしき建物を見つけた。中は、日本の図書館と変わらない。


 静かな館内。聞こえるのは足音と本のページをめくる音だけ。街で楽しそうに話していた人々が、まるで別人かのように、まじめに本を読んでいた。


 アイと手分けして、『ウチュウ』とこの世界の言語とを繋ぐ、辞書のようなものを探した。蔵書検索のような機能が欲しかったが、この世界にそんなものはない。一冊一冊、見覚えのある文字が使われていないかどうか、しらみつぶしに確認していく作業。




 その途中、日本のゲームの攻略本や小説を見つけた。誰がが、転生の時に持って来たものを寄贈したのかもしれない。ということは、この世界に日本語を話せる人がいるのか?


 攻略本の寄贈者の名前を見ると、〔音村 恵〕と書かれていた。小説の方は〔林 隆太〕。この近くに住んでいるかもしれない。

 それと、地図を見つけた。借りて行こう。



 探すのに疲れ、諦めかけていた頃、アイが日本語で書かれた一冊の本を持ってきた。



『サルでもわかる日常会話〜基本編〜 』




 ここに来た転生者が書いたのか?著者を確認すると〔林 隆太〕と書いてある。さっきの人か。

 基礎編と応用編があるらしい。


中身を確認してみた。



『レッスン1

君、可愛いね、僕とお茶しない?

ヒヌンッ、プリプリィ、ミミハフハフサ?』



 大丈夫か、これ。基礎編1ページ目にして、雲行きが怪しい。不安になりながらページをめくる。




『レッスン2

僕と、王様ゲームしない?

ミミ、タブクラィノオーキサ?』




 いつ使うんだろうこんなフレーズ。そして絶妙に覚えやすい。




『レッスン3

この辺に、宇宙からの、転生者はいますか?

ニャー、カリントゥパーク、ウチュウ?』



これは使える。急に実用的だ。しかも覚えやすい。



『レッスン4

僕の、好きな、エロ本は、売ってますか?

ミミ、アータム、ピー、ドーキ?』




 知らねーよ。またこんなのかよ。覚えたくもないのに頭に入ってくる。てか、店員にこんなこと聞かねーだろ。アイもちょっと引いている。


 その他にも、挨拶ただしチャラい、宿の取り方ただしラブホなどいろんなことを学んだ。



 応用編の最後に「僕に会いたい女の子ははここに来て♡」と地図とともに書かれていた。


 まだ、そこにいるのだろうか?何歳くらいなのだろうか?


 その後も日本語の本を探したが、これら以外見つからなかった。ひとまず、基礎編、応用編、地図の3冊を借り、図書館を出た。


「林さん、まだいるのかな?」


「…さあ」


まあ、そうとしか答えられないだろう。


「地図の場所、行ってみようか」


「…うん」



 次の目的地は決まった。しかし、朝ごはんを食べてからかなり時間が経っていた。集中を要する作業をしていたせいか、どっと疲れが押し寄せてくる。


「とりあえずどこかでご飯食べようか」



「…ミミ、ハフハフ??」




あー。うん。可愛い。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


途中のレストランでランダム食事(美味しくなかった)を食べた後、林さんの家へと向かった。


 そして、地図に書かれた場所に着いた。彼の家はすぐにわかった。日本で言えば何億円もしそうな豪邸だ。


チャイムを鳴らした。


「はいはーい?」


「すいません、林さんのお宅ですか?」


「お、君日本人ー? 中に入りなよー」


「あ、はい。お邪魔します」



 広い庭を進み、中に入る。家の中は和風というか、洋風というか、その中間のような感じだ。


 林さんは、アロハシャツにジーパンという奇妙な格好だった。家の中なのにサングラスをしているし、麦わら帽子被ってるし、とにかく個性の塊のような人だ。


「まず、お名前を教えてくれるかな」


「海川翔悟です」


「…アイです」


「僕は林隆太。んで、何が聞きたいんだい?」


「あの、あなたは異世界についてどれくらい詳しいんですか?」


「少なくとも君たちよりは。いろんなところに転生転移を繰り返し、ここに戻ってきたのさ」


 なんと、俺のやりたいことをすでに成し遂げている人だった。なんだか複雑な気分だ。


 そして、本題に入る。


「僕ら、『ディストピア・オンライン』という

ゲーム世界に行きたいんですが」


「あー! それならこの世界からいけるよー」


「ほんとですか!? そんな簡単に見つかるなんて……!」



 あっけない。話が出木杉くんだ。てっきり、もっといろんな世界をたらい回しにされるのかと思っていた。展開が早すぎる。世界は、思ったより狭いのか?




「"簡単"、ね」

林さんは独り言のようにつぶやく。


「君、この世界が、何の世界かわかるかい?」


 そういえば、異世界に来たことに舞い上がっていて、あまり深く考えていなかった。便利すぎて、異世界なんてそんなもんだと思い込んでいた。

 この世界がどんな世界かを知るのは大切だ。今後の方針も左右される。一体なんの世界なんだろう?

 どこかの王国? 魔王と停戦状態の街? 今はその片鱗が見えないだけで、実は壮大なバトルファンタジー世界だったりして。これから剣をとり、魔法を操り、旅に出るのか?








「この世界はね……"チュートリアル"の世界なのさ」





夢が、目の前が崩れ落ちる感覚。




「チュート、リアル……? ですか?」




「そう。なんだかちょろいと思わなかったかい?」



 優しい人が拾ってくれた。ご飯をくれた。言語指南書は、用意されたかのような使うセリフばかり。住民でもないのに本が借りられた。タダで寝泊まりできた。タダで何もかもできた。お腹が空いたら無料で飯が食える。簡単に同じ境遇の人に出会える。簡単にその人に教えてもらえる。

ーーー簡単に、次の世界に行ける。


「ここはね、神様の第二選別場所なのさ」


「どういう意味ですか?」


「神様が気まぐれだってことは、女神から聞いたかい?」


「はい。俺たちの命運を握るのは神様だとか」


「そ。神様はね、初めての転生者がここでどれだけ面白く死ぬかを見てるんだ」


「もし、神の気分に合わなかったら……?」


「消滅する」


消滅ーーそれは死とは別のもの。



「神様も意地悪だよなー。こんな平和な世界に来たら死ねねぇもん」


だからこそーーここでドラマを見せる者が選ばれる。


「僕たちはね、そうならないために転移手段を整えたのさ」


「それが、ゲームですか」


「そーいうことさ。転移は基本的に神様の影響を受けないからね」


「基本的には、とは?」


「転移に神が影響してくる場合は1つ。 "矛盾"が生まれるときさ」


「矛盾?」


「神にとって不都合なこと。それが矛盾さ。どこの世界に行こうと、神は見てる。僕たちもいつ消されるかヒヤヒヤしたぜ」



「あの、僕"たち"というのは?」



「あー、もう一人日本から来た奴がいてさ。ゲームは今、そいつのところにある。音村恵っていうゲーマーなんだけどな」



音村恵。攻略本の寄贈者か。



「その人は今どこに?」


「この街から少し離れてるんだが……地図は持ってるか?」



俺は地図を出して、言われた街を確認した。



「そこまでは徒歩で行くことになるけど」


「はい、わかりました。ありがとうございました」


「あれ、もう行っちゃうの? もう少しゆっくりしてかない? 特にお嬢ちゃん」


「…イヤ」即答。


「タッハー! つれないねぇ。兄ちゃん、何か質問はあるかい」

「あの、あなたはこの世界に戻って来たんですよね?」


「おぅよ。この世界が一番良い」


「俺も、元の世界、宇宙に戻ることができますか?」


「できるよ。神のみぞ知るけどな」


「その時、僕の扱いってどうなるんですか? 死んでるんですよね?」


「これは俺なりの解釈だが、世界と世界は立体的につながっている」


「正無限角形でしたっけ?」


「それだけじゃない。正無限角柱なのさ。微小な厚さの正無限角形がたーくさん重なっている」



高校で習った積分みたいなもんか。



「つまりな、"宇宙"は1つじゃない。面は1つじゃないんだよ」


「俺が死んでない"宇宙"に送られると?」


「おそらくな」


「意識が同化するんですかね?」


「その辺はわからん。神のみぞ知る、ってところかな」


「なるほど…。ありがとうございました」




帰り際、林さんに声をかけられる。



「なぁ、お前はどうして元の世界に帰りたいんだ?」



答えは簡単。



「…俺の体験を、異世界研究を、世に発表するためですかね」



林さんは、フッと笑う。



「そいつぁおもれぇ。きっとみんな驚くぞ。ま、達者でな。またいつか会おう!」



手土産にと、林さんに保存用食料などをもらった。


「こんなにもらっていいんですか?」


「まあ、チュートリアルだからな」


 チャラい人だけど、良い人だなあ。

 俺はお礼を言って、豪邸を出た。



 ここから恵さんのいる、ハセ街まで30キロほどか。

今から出発すると途中で野宿になってしまう。一度宿に戻って、明日の朝出発しよう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 宿に戻って、夜ご飯を食べ、(安全を期して、前と同じのを頼んだ。)布団に横になった。


「んじゃ、電気消すよ。おやすみ」


「…おやすみ」



暗転。


静寂。





そんな中、珍しくアイが話しかけてきた。



「…ねぇ。キミは私のことなにひとつ覚えてないの…?」


「…うん。なんかごめんね」


「…そう…」


 暗くて彼女の表情は見えない。交わした会話はそれだけだった。








今宵は、とてもよく眠れた。


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