第3章 ランゲージ・エンゲージ 3
【異世界研究活動記録1】
〈1日目〉
初めての異世界は、平和そのものだ。人々が武装している様子もない。魔獣が蔓延っているわけではない。魔法が飛び交っているわけでもない。飛び交うのは街の人々の楽しそうな会話だけだ。
飯も美味い。街として、世界として、完成されている。異世界に来て、地球にいた時の知識や技術を使って、異世界を開拓していく、という展開もなさそうだ。これからの生活は何の不自由もなく生きていけそうだ。
気になったことが2つ。1つは、この世界のものはなにかと無料だということだ。
なにもかもタダ。ただただ、タダなのだ。
正しい商業を知らないのか?資本主義社会ではないのかもしれない。
ただし、最初はタダで、あとから高額の料金を請求される可能性もある。
ただ単に考えすぎか。その時は、労働でも危ない仕事でも何でもやってやろう。異世界に来てまで労働とは。なんだか笑えてきてしまう。
どちらにせよ、今のところ快適に過ごせている。
気になったことのもう1つ。それはこの世界に来て唯一不便だったこと。それは言語だ。この世界独自の言語があるらしい。日本語には全く似ていないし、
地球にあったどの言語とも似ていない。初めて聞く発音やイントネーションだ。
こればっかりは、この言語に慣れ、習得するしかないだろう。それまでは、街の人とコミュニケーションをとることもできない。
ただ、数字は共通のようだ。それだけでも希望が見える。
まだ1日目。まだ始まったばかりだ。順調な滑り出しとは言い難いが、こうして布団で寝ることができ、
食事を食べることができている。今のところ命に関わる事態はない。
まあまあなスタートを切ったのではないだろうか。
ーーもし、
神様に、異世界転生の時に、特典をつけてもらえるのだとしたら、素敵な能力をもらえるのだとしたら、
私は、
チート級能力ではなく、イケメンなアバターでもなく、初期レベルカンストでもなく、 最強の武器でもなく、無敵の魔法でもなく、かわいい娘ばかりのハーレムでもなく、
ーーー迷わず、言語能力を選ぼう。