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研究成果報告から始まるプロローグ

数ある作品の中でこの作品をご覧いただき、誠にありがとうございます。楽しんでいただければ幸いです。





この物語はフィクションです。

作者は異世界研究はしておりません。


ただ、異世界モノをリスペクトしております。


ちょっと違った異世界の面白さを感じていただければなと思います。





【研究成果報告】


〈はじめに〉

 わたくし海川翔悟は、これまでの大学生活の2年間の全てを、なんなら人生の全てを「異世界転生」についての研究に費やしてきた。


 私を動かす動機は簡単、異世界に行ってみたい、ただそれだけだ。別に現世が嫌いなわけではないが、死ぬまでに一度は異世界とやらに行ってみたい。海外旅行に行きたい気持ちと同じだ。


 そんな私は、この藍上(あおいうえ)大学に入学してから異世界研究サークルを創った。メンバーは、創設当初は3人いたが、今は私一人だけだ。


 この2年の間に、様々な転生物語を読み漁り、データを分析した。たまに実験も行ったりした。


 しかし大した成果もあげられず、このままではサークル存続の危機のため、これまでの研究結果をもとに、研究成果報告を作成することにした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 「こんな感じかなぁ」と独り言を言ってみる。

 人生初のオリジナルレポートに、四苦八苦している。手伝ってくれる友達もいない。みんな俺のことを、異世界オタクだのなんだのと敬遠してくる。まあ間違ってないが。


 そんな時、数少ない友人で、元サークルメンバーの池内から電話が入った。


「もしもしー、翔悟ー? 今からメシ食いにいかね? 進級祝いでパァーッと!」


「ごめん、池内、今忙しくてさ」


「ん、あー、課題に追われてんのか?」


「お前と一緒にするなよ、別件だ」


「まーた異世界かー? いつまで続けんだ?  明日から3年生だぞ?」


「お前も興味が出てきたなら、いつ戻ってきてもいいんだぞ?」


「遠慮しとくよ、んじゃまたなー。がんばれよっ!」

ツー、ツー、ツー、





 はぁー、三年生という言葉に妙に重みを感じる。

 春ーー出会いの季節だ。俺の胸は全く躍らない。


 続きを書こう。

 レポートに何から書こうか迷ったが、とりあえず一日一ページ書いて今まで貯めてきた研究日誌の主要部分を写すことにした。日誌は保存状態が悪く、所々消えかかっているが、そこはなんとか予測と記憶で補完した。






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【研究成果報告】

〈8月19日〉


 今日は驚くべき事実を発見した。異世界転生モノを読んでいて気づいたのだが、転生者たちにはある共通点が存在する。


 それは、彼らが転生することを"予期していない"ことだ。


 不意の交通事故しかり、バーチャルゲーム内に取り残されるしかり、異世界から召喚されるしかり、どれも行こうと思って行ったわけではない。異世界のことなんて頭の片隅にもないのだ。


 この事実を知った時、私は落胆した。私のように、異世界に行きたいよ、行きたくて仕方がないよ、と思っている者は異世界に行けないのだ。

 行きたいものが行けず、行きたいなんて思わない人が行ける。異世界とはそんな場所なのだ。



 ここで、私は一つの結論に辿り着いた。異世界には行きたくないよとアピールする、その名も、『転生なんて夢にも思ってなかったよー、作戦』の実行だ。

 私が異世界のことなんて考えていないことを神様的な人にアピールするのだ。

 その方法は簡単。


 朝昼晩の食事の前に一回、「私は異世界なんて興味ありません。そんなもの知りません。」と唱えるのだ。


 早速、明日から実践してみようと思う。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「これじゃまるでガキの作文だな」

 また独り言を呟いてみる。


 読み返してみると、どこか宗教じみた文章が並んでいる。とても自分が書いたとは思えない。

 


 明日からは新年度が始まり、新入生が入ってくる。うちのサークルに一人でも部員が入ればサークル解散を免れる。


 一応ホームページやツイッターなどで、うちのサークルの宣伝はしてあるが、来てくれる人はいるだろうか。リツイート数を見てみるが、たった2回だけ。1回は自分。もう一人は・・・アカウントが凍結されてる。もちろん、いいねはゼロ。


 時刻は夜10時。

「腹減ったし飯食うか」

池内の誘いは断ったが、腹は減る。買い置きのカップ麺を取り出し、ポットで湯を沸かした。湯はあっという間にすぐに沸いた。湯を入れ、2分後に食べ始めるのが俺の食べ方だ。




「頂きます。私は異世界なんて興味ありません。そんなもの知りません。」



 この作戦は現在も進行している。







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【研究成果報告3】

〈8月30日〉

 また、驚くべき事実を発見した。転生者が異世界に行った時の第一声は、「ここは……?」が多いということだ。


 当研究所調べでは、およそ37%の転生者が、まず発している(類似の発言を含む)。驚異の「ここは?」率だ。


 また、次に多かったのが「知らない天井」系で12%だ。(あくまで当研究所調べ)


 理由として考えられるのは、やはり困惑だろう。死んだと思ったら生き返ったのだ、それも知らない場所に。記憶喪失の人が「ここはどこ? 私は誰?」と言うのと同じようなものだ。



 そこで、私も異世界に行った時には第一声は「ここは……?」にしようと思う。いざという時のために迫真の演技で練習しておこう。





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 カップ麺を食べ終えるのに3分もかからず、続きを書き始めたが、寒気がする。

 普通なら食事後は体が温まるものだが、構想を練るうちに、徹夜が続いてしまっていたため、風邪でも引いたのかもしれない。

 4月初めとはとはいえ、最近は三寒四温の寒の日が続いている。



「暖かいものでも飲んで、もう一回体を内側から温めるか」

独り言を呟いてみる。



 カップ麺の時に沸かしたポットの湯の余りで、インスタントコーヒーでも淹れようかと思ったが、スティックを切らしていた。



となると、残る選択肢は、緑茶、紅茶、レモネード、ココア、……



…ん?



「ココア……?」







……

……余計に寒くなった。






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【研究成果報告4】

〈9月25日〉


 今日は実験を行った。もちろん異世界に行く実験だ。

 実験対象はは、臨死体験と転生の関係性についてだ。準備物は、異世界に無関心な気持ちだ。


 臨死体験方法は、交通事故でもよかったが、あまり人様に迷惑をかけてはいけないので、飛び降りを選んだ。

 手頃な建物から飛び降りて、精神に死の恐怖を刻み込むことで、異世界送りになるのではないか? そんな短絡的な考えだ。


 ルーティーンとして、食事前ではないが、いつもの呪文を唱えた。

「私は異世界なんて興味ありません。そんなもの知りません」よし、完璧。




 実験は正午ジャストに決行。近くの寺の鐘のゴーンという音と一緒にゴーだ。


では、いっきまーす。







ーーよく死の間際は、時間がゆっくりに感じるという。

 しかし、実験は一瞬だった。


 痛みが私を襲う。恐る恐る目を開けて、空を見上げる。






「ここは……?」








 見上げた先には、先程までいた建物がある。


 当たり前だった。まあ、飛び降りたのは2階からだったし、こんなもんだろう。



 立ち上がろうとしたけど、うまく力が入らない。どうやら足を怪我したようだった。しまいには携帯で救急車を呼ぶ始末。


 異世界に送られるどころか、病院に送られて、病院の先生に怒られた。



 実験によって得られた成果は、馬鹿なことはするもんじゃないということ、半端な恐怖では異世界には行けないということだった。やはり、異世界に行くのであれば必要なのは、





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「本物の"死"の体験」

と呟きながら入力するが、思い直す。

 これが成果として認められるかどうか、今さら疑問をもち始めた。

 削除キーを押して「ほんの少しの勇気」と入れ直す。


 この日誌を書いていた頃の俺は純粋だったのだろう。


ーー純粋に異世界を信じていた。

報告書を書いている今の俺は、どうだ?



「もう寝よう」

明日に備えて、寝ることにしよう。明日は新入生の勧誘をしなければならない。


PCを閉じ、布団に入って、

目を閉じて、寝入った。





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