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後編

「よもや四天王すらも退けるとはな。少しばかり驚いたぞ勇者とやらよ」


 ジークフリートがPTから抜けてからもラインハルト達は先へと進み続けた。途中四天王と呼ばれる魔族との戦いで危険な目にも合ったが誰一人欠けずついに魔王の眼前までたどり着いた。


「魔王よ。なぜ人の世を荒す?あなたの望みはなんだ?」


 ラインハルトは魔王に問う。


「我の望み?それは簡単だ。邪魔な人間の排除。その(のち)に魔族の楽園を創る。それだけだ」


「だから言ったろ。交渉の余地なんてありゃしないって。構えな」


 ディラクは背中の大剣を構えながらラインハルトにも構えるように促す。


「そこの男の言う通りだ。我は貴様らの話なんぞ聞く気もない。あの四人を倒した褒美として少し戯れてやったにすぎぬ。だが、もう十分であろう?遊びは終わりだ」


 そう言うと魔王は己の魔力を高め始める。肌を刺すような魔力の圧にソフィアは震える。ジークフリートのいない戦闘がいかに辛いかはここに来るまでにも味わったが今この時ほどジークフリートがいないことに絶望したことはない。


(それでもっ!)


 それでもソフィアは前を向く。杖を両手で握りしめて魔王の圧に耐える。民のため自分のためそして自分達で追い出すことになったジークフリートの願いのため。魔王を倒すためにここまで来た。今更怯えてなどいられない。


「皆、行くぞ!」


 先頭に立つラインハルトの掛け声と共に戦いの火蓋は切られた。





 魔王との戦いは熾烈なものとなった。魔王と称するだけあって今まで戦ってきたどの魔族よりも能力が高く隙らしい隙もない。そしてなにより全ての攻撃が苛烈であった。


「ぐはっ」


 ディラクは魔王の攻撃を大剣で防ぐも威力までは抑えきれずに壁に叩きつけられる。叩き付けれた壁に小さな亀裂が走った。

 叩き付けられたディラクを見てソフィアはすぐに回復魔法を唱える。しかし魔王もそれを簡単にさせてはくれない。


「回復なんぞ小賢しいマネをっ!」


 魔法の詠唱を無しで魔王は火炎の弾をソフィアに向けて放つ。放たれた炎がソフィアに当たる寸前ラインハルトが間に割り込み弾を弾き飛ばす。


「かの者に癒しを。『ヒール』」


 ソフィアはその場から動かずに詠唱を終え回復魔法を放つ。癒しの力によって傷ついたディラクの体がみるみるうちに治っていく。


「うっとおしい虫共だな。潰しても潰しても立ち上がってくる。おまけに連携も中々。我が火炎を目の前にしてよくぞ逃げずに成し遂げたな。いやはや全くもって、不愉快だ」


 魔王の放っていた圧が更に強く重くなる。先ほどまでの苦虫を噛み潰したような顔とは打って変わり、眉間に皺が寄り目が血走り犬歯をむき出しにして怒りを露わにする。

 その寒気すらする気迫にラインハルト達は思わず身構えてしまう。


「その目が気に入らぬ。その態度が気に入らぬ。その考えが気に入らぬ。我を前にして、虫如きが、束になってかかれば勝機はあるなどと言いたそうなその顔がぁ!気に入らぬ!絶望せよ!我の真の力の前にひれ伏せぇっ!」


 またもや無詠唱の魔法。しかし先ほどの火炎の弾とは比べ物にならない熱量、そして大きさ。人一人を飲み込んでしまえそうなほどのその炎の塊は、まるで小さな太陽が現れたかのようにすら思えるほど。


「ど、どうするっ!あれはまずいぞ。真正面から受けたら灰すら残りそうにないぞ!」


「僕がやる。聖剣を使って全力を出せば恐らくなんとか」


「ラインハルト殿、しかしそれでは魔王に止めを刺すことが出来なくなってしまう!」


 ラインハルトは聖剣を構えてメンバーの前に立つ。聖剣を握りしめて魔王を見据える。


「それでもやらなくちゃいけない!僕は勇者だ。人を守るのが僕の使命だから!」


「何覚悟決めちゃってんのよ!あんなのわざわざ受け止めなくたってやられる前にやればいいだけでしょ。眼前の敵を打ち砕け『サンダーボルト』」


 大蛇のようにうねり轟く紫電の束が魔王へと伸びる。エリィの詠唱に間髪を入れずに魔王も魔法を放つ。


「無駄だ。穿て『フレイムランス』」


 通常よりも大きく鋭いフレイムランスがサンダーボルト目掛けて放たれ、爆発と共に相殺される。


「嘘っ!並列詠唱!?あんなでかいの維持しながらそこまでやれるのっ!?」


「あの程度で我を屠れるとでも?敵を滅ぼすのならこのくらいはせんとなぁ。さぁ受け取れ。これが絶望だ。『メガフレア』」


 小さな太陽の如き熱量を持った球体がラインハルト達目掛けて放たれる。ラインハルトは聖剣を構え力を籠める。迫ってくる熱の塊に対抗すべく聖剣を振り上げたその時。

 誰かがラインハルトの横を通り抜けて迫ってくる炎の球体に突っ込んでいく。

 その人物が炎の球体に接触した途端、目が眩む爆発が起こる。


「はーはっはっはっはっ。跡形もなく吹き飛ばしてやった。我に歯向かった自分を恨むがよい」


「足りないな」


 爆発よって生じた煙が濛々とたちこめる中から誰かの声がする。仕留めたと思っていた魔王はその声に驚く。


「何っ!?誰だ!?」


 煙が引いていく中から現れたのは黒い髪を短く刈り込みなぜか鎧を着こまず上半身をはだけさせている、筋骨隆々の中年の男。そう、ジークフリートである。


「ジ、ジークフリートさん!どうしてここに!?」


「どうしても忘れられなくてな。来てしまった」


 魔王を見つめたままのジークフリートの背中はとても大きく偉大であった。






 ところで、時はさかのぼる。ジークフリートがPTから解雇された後のことである。

 ジークフリートは彷徨っていた、強力な魔物が跋扈(ばっこ)する魔族領を。本能のままにそれを求め続けた。

 魔族領の魔物は強かった。魔王の城に近づけば近づくほどそれは顕著でジークフリートは快感を禁じ得なかった。噛みつかれるたびに、切りつけられるたびに、殴られるたびに、頬は緩み恍惚とした表情を浮かべる。

 そんな何をやってもヘラヘラ笑っているジークフリートを恐れて魔物達は逃げ出す。

 そんなことを繰り返している時にジークフリートはあることに気付く。


(何かが足りない……そう、決定的な何か。足りないもの……足りない、もの。)


 ありとあらゆる苦痛を味わっているはずなのに後一押し、何かが足りない。前のジークフリートにあって今のジークフリートに無いもの。模索する思考の闇の中で一筋の光が走る。


「そうかっ!俺には、俺には仲間が足りないっ!」


 真実にたどり着いたジークフリートは無我夢中で走り出す。仲間の元へ。






「忘れられないって……でも、僕達は、ジークフリートさんを」


「いいんだ。そんなこと、些細なことさ」


 縋るような声を出すラインハルトにジークフリートは優しく語りかける。ラインハルトは何かを堪えるように手を握りしめる。


(そう、PTから解雇された事なんて些末なことさ。それよりも大事なもの、それは仲間。そう、仲間の視線!身悶えている姿を見られているという事実、それが俺には足りなかったっ!)


 ジークフリートはいつしか芽生えた仲間達との絆を快楽へのスパイスに変えていた。痛みを感じているなかで更に恥辱というスパイスを味わっていたのだ。

 仲間からの尊敬の眼差しが、純粋なその瞳が自分の隠し持った性癖を見透かしているのではないか、哀れに思っているのではないか、悶える姿に落胆しているのではないか。そういった恥辱にその身を晒すことで更なる飛躍を遂げていた。


「ところで魔王よ。今のが全力か?」


「何?」


「全力だったのかと、そう聞いているんだ。どうなんだ?」


 ジークフリートの突然の質問を魔王は挑発だと捉えた。


「ほう……身の程を知らぬと見える。今のを受け止めた程度で、よくもまぁ図に乗れたものだ!」


 魔王は膨大な魔力を練り始める。ジークフリートは歓喜に震えながら吠える。


「来い魔王。貴様の全力を俺に叩き付けてみろ!」







「足りないな、まだ足りない。その程度か魔王」


「貴様ぁ」


 魔王の放つ人の頭程の大きさの炎の弾をその身で何発も受け止めながらジークフリートは笑う。魔王はその笑顔を挑発と受け取り更に怒りを募らせる。

 頭に血が上ったことで視野狭窄に陥った魔王の隙を付きアレイストが矢を放つ。魔王は一瞬気付くのに遅れたもののすんでの所で体を逸らしかすり傷程度に防いだ。その体を逸らした事で生じた隙に更にディラク、ラインハルト、エリィが畳み掛ける。

 魔王は三人の攻撃まで対応することが出来ずに傷を負う。


「ぐっ。虫けらが調子に乗りおって。ならばまとめて消し飛ぶがいい」


 魔王が先ほどの三人に向けてそれぞれ魔法を生成する。禍々しいほどの魔力量から成ったそれらは一つ一つが当たれば致命傷になりかねないほどである。


()ね、虫けらが」


 魔王が三人に魔法を放つ。特に近接主体のラインハルトとディラクは距離が近く避けるほどの時間もないほどである。


(まずい、当たる!)


 ディラクは咄嗟にかばうように両腕で顔を覆う。意味がないとわかっていても人とは構えてしまうものである。そして構えたまま一秒、二秒と時が進む。

 あの距離ならばもうとっくに当たっているはずなのにいつまでたっても当たらないことを訝しみ恐る恐る目を開ける。すると目の前には。


「おっさん!」


「大丈夫か、ディラク。魔王、全て俺に叩き込めと言ったはずだが?」


「き、貴様。私の魔法を一つは体で残りの二つはそれぞれを片手で受け止めたのか!馬鹿なっ」


 ジークフリートは魔王とラインハルト達の前、つまり魔王の超至近距離に詰め寄り己の体全身を盾にして魔王の攻撃を防いでいた。そのことに魔王は驚きを隠せない。

 自分の魔法に自信があるからこそ、片手で受け止められるようなやわなものではないと思っているからこそその驚きはあまりに大きい。

 驚く魔王とは対照的にラインハルトは安心しきっている顔をしていた。


(そうだ。いつだってこの背中に守られていたんだ。僕達はこの大きな背中を追って旅をしてきたんだ)


 感慨深げなラインハルトを余所にディラクが突然声を上げる。


「そ、そうか。おっさんはこんな場面を想定していつも練習してたのか!」


「え?」


 あまりにいきなりなことにジークフリートは素っ頓狂な声を出す。


「なぜか無駄に被弾したり、盾じゃなくて体で被弾していたのは複数を同時に狙われた時にその全てに対応するためだったんだな!」


「……あぁ!」


「やっぱり!」


 ジークフリートは我が意を得たりと言わんばかりに頷くがそんな事実はない。しかし実際にジークフリートはそれをやってのけてしまっているので余計に(たち)が悪くディラクはジークフリートの嘘を完璧に信じてしまった。

 そのやり取りを唖然として見ていた魔王は、ハッとしたように我に返る。


「ま、待て貴様!本当に我が魔法を受け止めてなんともないと言うのか!一つたりとも傷ついていないと、そう言うのか!」


「あぁそうだ。全然足りないな。まだまだ全然だ」


「そ、そんな馬鹿な」


「そういやおっさん全然身悶えなくなったよな。一体どうしちまったんだよ?」


「秘密の特訓というやつさ。お前達と共にまた戦うために、ちょっとな」


 ジークフリートはニヤリと笑みをこぼす。人を疑うことを知らない勇者PTのメンバーはそれをあっさりと信じるがこれは嘘である。

 実はジークフリートはPT解雇の後、更なる高みへ登るための特訓を行っていた。どんな特訓かと言うとダメージの蓄積である。

 ジークフリートは考えた。魔族領のモンスターの攻撃は鋭く重いものばかりであるがまだ少し物足りない。ではどうするか。足りないのならばダメージを足していけばいい、とそう考えたのだ。

 そして三日三晩モンスターになぶられ続けてたどり着いた境地、それこそがダメージの蓄積である。ダメージを蓄積することでその瞬間に消費されることなくジークフリートの体内に留まり続ける。攻撃された時にはダメージが発生していないので苦痛などもない、恐るべき技能である。


(我ながら恐ろしい技能を得たものだ。この、体内に溜まり続けるダメージがいつ爆発するかと思うとエキサイティングっ!素晴らしいっ!しかし、まだ足りていない。山でいうなら5合辺り。あの頂きにはまだ足りない。)


 ジークフリートはその山の頂きに登りつめるために最後の一押しをする。不敵な笑みで魔王を挑発する。


「魔王、全力でなければ俺を倒すには足りないぞ!(あの快楽の頂きに登りつめるには)全然足りないぞっ!本気で来い!」


「ここまでコケにされるとはなぁ。良いだろう、本当の全力を見せてやろう」


 魔王が両手を掲げると先ほどの大きな炎の玉と同じ大きさのものが頭上に現れる。


「なんだ、脅かしやがって。さっきのと一緒じゃねーか。それはおっさには効かな、いぃっ?」


 魔王の頭上にある炎の塊がみるみる内に大きくなっていき辺りの温度も上昇していく。魔王は勝ち誇った顔で口を開く。


「我が最強魔法を受け止められるものなどいない。私に盾突いたことを後悔するがいい」


「あ、あれはいくらジークフリート殿でも無茶なのでは?生身でどうにかできるようなものでは」


「ま、まずいよあれ。本人でも完璧に制御できてないよ。暴走気味になるほど魔力つぎ込むなんてそんなのアリ?」


 アレントとエリィが動揺を口々にする間も炎の玉は大きくなり気温も上がっていく。他のメンバーも打開策が見つけられず微動だにしない。そんな中ジークフリートが口を開く。


「作戦は変わらない。俺が受け止める。そしてラインハルトが止めを刺す。それだけだ」


「で、でもそれじゃあジークフリートさんがっ」


「ラインハルト、お前がやるべきことはなんだ?俺を守ることか?違うだろう。人の世を守ることがお前の使命だ。お前のやるべきことをやれ。俺が望むのはそれだけだ」


「で、でも」


「そこまでだ、ハルト。悔しいけど俺達はあの攻撃に対してなにも出来やしない。俺達は俺達に出来ることをやるしかない」


「ディラクの言うとおりだ。俺はあの攻撃を受け止めることは出来ても止めを刺すことは出来ない。だから頼む。俺の代わりに魔王を討ってくれ、ハルト」


「……わかり、ました」


 ジークフリートの頼みにラインハルトは辛そうに頷く。ジークフリートはそれを見て内心ほくそ笑むが表には出さない。


「ソフィア様。加護はハルトに全て使ってください。私には不要です」


「で、ですがそれではっ」


「魔王を討てるかどうかはハルトにかかっています。ならば加護の力は全てハルトに使うべき。そうでしょう?」


「……そうですね、わかりました。ジークフリート様の言う通りに。ご武運を祈っております」


「ありがとうございます。皆もハルトの援護を頼む」


「あぁ、言われなくても」


「もちろん。全員で帰りましょ!」


「えぇ。全力でラインハルト殿をサポートしますよ」


 ジークフリートの言葉に皆それぞれ頷く。ジークフリートはそれを見て自身の作戦が成功したことを確信する。


(よし、計画通り。これで誰の邪魔も入らない。回復もされない。後はあれを真正面から受け止めるのみ!)


 ジークフリートは魔王の攻撃を受け止めるべく皆の前で仁王立ちをする。


「お喋りはもう済んだか?そろそろいかせてもらうぞ?」


「ソフィア。加護を」


「はい。かの者を守り給え。『ヴェール』」


 ラインハルトの指示に従いソフィアは加護の魔法をラインハルトにかける。他のメンバーも魔王への攻撃に備えて構える。


「これが我の全力だ。皆等しく塵に還るがよい。煉獄の炎よ、全てを焼き尽くせ『アビスフレア』」


 魔王から放たれた魔法はジークフリートへと向かっていく。ジークフリートはそれを全身で受け止める。今までとは比べ物にならないほどの熱量がジークフリートの体を焼く。


「ぐおぉぉぉぉぉ」


「ふははははっ。流石にそれは受け止められまい!これでお終いだ」


 あまりの熱量に全てのダメージを蓄積することは出来ず、ジークフリートは少しずつ焼かれていく。だがしかしダメージが少しずつ蓄積していることもまた事実。


(おぉぉぉ、焼かれながらダメージも溜まっていく!新感覚!新感覚!ちょっとずつではあるが確実に高みに登っているぅぅぅぅぅ!)


「なに!あれを受け止めているのか!そんな、そんなはずはない!無駄な抵抗は止めろ。燃え尽きてしまえ!」


「ぐおぉぉぉぉぉ、まだだ。まだだぁぁぁぁ」


 ジークフリートは登っていく。その山を。ただひたすら頂点を目指して。一歩一歩確実に。着実に。耐えに耐えひたすら己の体をいじめ抜く。そしてついにジークフリートはその頂きへと到達し、快楽の(そら)へと舞い上がった。


「おほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 それは天にも昇る気持ちだった。限界に限界を重ねたダメージが一気に全身を駆け抜けるその快感は全身の細胞を稲妻が焼き切るかのような壮絶なものでそこに更に追い打ちをかけるように炎がジークフリートの体を飲み込み焼き尽くす。


「っ!進め、ハルトっ!」


 ジークフリートが受け止めたことで大幅に威力の落ちたのを見計らってディラクが声を張り上げる。ラインハルトは一瞬戸惑うもすぐに駆け出す。ディラク、アレイスト、エリィがその後に続く。


「そんな、馬鹿な。我の究極の魔法を。そんな、そんな」


 ジークフリートの方を見つめたまま唖然としている魔王にラインハルトが斬りかかる。


「おおぉぉぉ」


「しまっ。虫がッ!」


 ラインハルトの接近に気付いた魔王は咄嗟に炎の魔法を飛ばす。しかし魔力のほとんどを使い切ったのか足止め程度の威力でしかない。


「よそ見している場合か?」


「穿つ!」


「食らいなさい。『エアブラスト』」


 ディラクが大剣を振るい、エリィが魔法を放ち、アレイストが矢を射る。ラインハルトの対応で体制を崩された魔王はそれらをまともに浴びてしまう。


「ぐぅぅぅっ」


「今だ!ハルトっ!」


「これで終わりだ魔王!」


 ラインハルトは自分の持つ聖気を全てこめよろけて無防備な魔王に袈裟(けさ)切りをする。


「がはぁぁぁ。そ、そんな馬鹿な。我が敗れる?我の魔法が敗れる?そんな、そんなことが。虫けらなぞに我は、我はぁぁぁぁァァァァァ。」


 魔王の体の切られた場所から光が溢れ広がっていき、やがて魔王を飲み込みそして徐々に体が朽ちていき灰だけが残った。


「勝った、のか?魔王に?俺達勝ったんだ。魔王に勝ったんだ!」


「勝った!勝ったんだ!私達勝ったんだ!」


「倒した。倒したんだ。成し遂げたんだ」


「長い旅の終わりが遂にきたのですね」


「って、おっさん。おっさんはどうなったんだ」


 喜ぶのもつかの間四人はジークフリートの元に駆け寄る。ジークフリートはボロボロながらもどこかやり遂げたような顔をしている。ソフィアはそんなジークフリートに回復魔法を施していた。


「ソフィア、ジークさんは大丈夫なの?」


「はい、恐らく。全身の火傷、そして推測ではありますが秘密の特訓で身に着けた技能で体の中が傷ついていますけど、全身に分散されているおかげでなんとか」


「と、とりあえず持ってるポーション使っちまおう」


 各自で持っているポーションをジークフリートへ使う。使われたポーションの中には上級の物もあったためジークフリートの傷が目に見えて癒えていく。


「ここは……魔王はっ!魔王はどうしたっ?」


 ジークフリートは目を覚ますと魔王がどうなったか確認をした。


「倒しましたよ。全部ジークフリートさんのおかげです」


「た、倒した。そ、そうか」


 ラインハルトの言葉にジークフリートはどこか物悲しそうに背を丸める。


「なんで悲しそうなんだよ?魔王倒したんだぜ?」


「えっ、あぁいや。出来れば倒す所を見届けたかったなと思ってな。はは」


「あぁ。でも立派だったぜハルトは」


「え?いや僕はそんな、最後止め刺しただけだし、何も」


「なぁに言ってんの。すごかったよ」


「えぇ。ラインハルト殿だからこそ成せたことですよ」


「はい、私もそう思います。ハルト様はとても素敵でしたよ」


 メンバーの顔はジークフリートを除いて皆明るい。悲願を達成したからこそ心の底から喜びを感じることが出来るのだろう。


「じゃあ帰るか。いつ魔物が襲ってくるかわからないしな」


「もう帰るのか?」


「何言ってんだよ。目的は果たしたんだから帰るに決まってるだろ」


「そうですよ、ジークフリートさん。国にも報告しないといけませんし」


「そうそれそれ。国に帰ったら俺達英雄だぜ!」


「いや俺は別に英雄なんて」


「さっきから何言ってるんだよ。頭強くぶつけたのかよ、おっさん。おっさんが一番活躍したんだからおっさんが英雄にならないでどうするんだよ」


「い、いやだから俺は」


 ディラクとラインハルトに手を引かれとエリィとソフィアに背を押され、アレントの先導でジークフリートは帰るべき場所へと歩みを進め始めた。本人の意思に反して。

 こうして勇者達の冒険は幕を閉じた。ジークフリートは国に帰った後、前線に出ることは出来ないような地位に就いたがそれはまた別のお話。



お疲れさまでした。お付き合いありがとうございました。

最後の辺り駆け足になってしまって申し訳ないです。もっとサクッとまとめたかったのですがなんかグダグダに。

次に生かせたらと思います。

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