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前編

初めてですがよろしくお願いします。

 とある宿の大部屋で一人の中年の男性を半円状に囲うように男女五人が並んでいる。中年の男性を含めて六人は皆浮かない顔をしている。


「ジークフリートさん、これ以上あなたを連れて行くことは出来ません。……PTを抜けて貰います。いいですね?」


 ジークフリートに硬い声色で問いかける青年、ラインハルトは強い意志を感じさせる瞳で見つめる。その有無を言わせぬ圧力にジークフリートはたじろぐ。


「ま、待ってくれ。いきなりどうしてだ?私に落ち度があったのなら謝るし治す努力もする。理由も聞けずにはいそうですかと頷くわけにはいかない」


 ラインハルトの圧から逃げるようにして他の四人に訴えかけるように周りを見渡す。聖女と呼ばれているソフィアは気まずそうに目を逸らし魔法使いのエリィはどこか困った表情をしている。エルフの青年アレントは事の推移を見守るために黙する。

 しかしジークフリートと同じ前衛のディラクは感情の籠った声で不満を吐いた。


「おっさんはもう俺達についてこれてない。落ち度だとかそういう話じゃないんだ。努力で埋まる溝じゃないんだ。これは皆で話あった結果だ。だからPTから抜けてくれ」


「つ、ついて行けていないとはどういう意味だ?私は皆と一緒にいつも闘って」


「確かにあんたは闘っている。でも、戦闘をしている時間より悶えてる時間の方が長いだろ?」


 ディラクの率直な意見にジークフリートは言葉に詰まる。ディラクの言う通りジークフリートにもその心当たりはあるし事実である。だがそれには理由が……と言いたいのだがそれにも言えない理由がありジークフリートは目を彷徨わせ口を開いては閉じ、そして俯き口を閉じた。


「……おっさん自身も納得したみたいだな。……おっさんは良く闘ったと思うぜ。でもここいらで引くべきだ。何度も何度も立ち上がる姿をみるのはこっちもつれぇんだよ」


 ディラクは何かを我慢するかのように手を硬く握りしめる。感情を抑えるようにそっけなく放った言葉には苦悩を感じる。それを聞いていた他の四人もどこか辛そうな顔でジークフリートを見ている。


「み、皆もそう思っているのか?私はここまでだとそう、思っているのか?」


 それでもジークフリートはしがみついた。今ここで足掻かないと本当にPTを抜けさせられてしまう、そう考えたジークフリートは一人一人の顔を藁にも縋る思いで見る。しかし誰もが顔を逸らしてしまう。

 それならばとジークフリートは一番答えてくれそうな人物を名指しで指名する。


「ソフィア様。ソフィア様はどうお考えですか?私は不要でしょうか?」


「わ、私、ですか?」


 話しかけられたソフィアはいきなりの事に驚きあたふたと落ち着かない。彼女はこの中でも最年少で、更に誰にでも優しく接するその性格が仇となった。逆に言うならジークフリートはそれを狙ったとも言える。

 ジークフリートは頼むと拝まんばかりにソフィアを見る。しかし、


「そ、その。私はこれ以上ジークフリートさんに苦しんで欲しくありません。いつも敵の攻撃に倒れ悶えるジークフリートさんをこれ以上闘わせるのは良くないと、思い、ます」


 ソフィアは声を発するたびに俯きながらも自分の心情を吐露した。そこには切り捨てることへの罪悪感とこれ以上ジークフリートが苦しむことはないという安堵があった。


「い、いや。私は望んで盾の役をやっているんだ。例え何度倒れようと苦しもうとそれが私の本懐なんだ。だから気にしないで欲しい」


「そう言うけどさ。ジークさんもソフィアの気持ち考えてよ。自分を守るために倒れられるのは辛いんだよ」


 ジークフリートの望みを絶つようにエリィが口を開く。


「あたし達は後衛だからさ一番ジークさんに守られてきてる。それはわかってるし恩もある」


「だったらっ!!」


「これ以上守ってもらったら恩を仇で返すようなもんじゃん!!出来ないよっ」


 少女の悲痛な叫びであった。目に涙を溜めそれでもジークフリートを見る。逃げる気はない。そんな気持ちが伝わってくるほどにまっすぐに見据えられたその瞳はジークフリートの心に影を落とす。


「それにジークさん、なんか無駄に被弾するしたまに盾じゃなくて体で受け止めようとするし見てらんないよっ」


「えっそ、そうだったか?守ることに夢中で気づかなかったな」


「そうですね、確かにジークフリート殿は被弾が多い」


 今まで黙っていたアレントがぽつりと呟く。


「そ、それなら被弾をあまりしないようにすればどうだ?仲間に被害が及ぶような攻撃だけを防げばいいんだろう?」


「そうなれば確かに良い方向に向かうと思いますがそれでもディラク殿が言った通り悶えてる時間が長いことの解決にはなり得ません。このまま旅を続ければどうなるか、ジークフリート殿あなたが一番理解しているのではありませんか?」


 アレントの言っている事は事実だ。客観的な事実としてジークフリートは盾役としての責務を果たせていないし、このまま続けることが解決に繋がることもない。その事に関してジークフリートは反論することが出来ない。しかし、それでもジークフリートはこのPTに残りたかった。


「……そうか。じゃあハルト、はっきりと言ってくれ。俺はこのPTに必要か否か。頼む」


 ジークフリートは最後のあがきに出た。ラインハルトに一縷の望みを賭ける。

 ラインハルトは黙ったままジークフリートを見る。そして頭を下げた。


「……今まで本当にありがとうございました。ここまで誰一人欠けることなくこれたのはジークフリートさんのおかげです。本当に、本当にありがとうございました」


「そうか、わかった。世話になったな」


 頭を下げたままのラインハルトを見つめながらジークフリートは言う。抑揚の無い声からははなんの感情も推し量れない。ただ淡々としている。


「それじゃあこれで終わりでいいか?なら俺は寝るよ。明日までには準備を整える、それじゃあ」


「ちょっ、おっさん待てよ」


 ディラクをはじめ他のメンバーもジークフリートを止めようとするが、ジークフリートは立ち止まることなく部屋を去っていった。

 残されたメンバーにはただ重苦しさだけが残った。






 翌朝、メンバーは朝食を取るために宿屋の食堂に集まる。しかし皆どこか浮かない顔をしており中には隈の出来ている者もいた。昨日のジークフリートの去っていく後姿が忘れられずに眠ることが出来なかったのだ。


「……おはよう、皆」


 ラインハルトは弱弱しく挨拶をする。皆それぞれ反応を見せるも芳しくはない。

 後はジークフリートを待つばかり。そんな状況で皆はなんと声をかけようかなどと考えていると宿屋の従業員がテーブルに近づいてくる。


「……あぁ、悪いんだけどさ。注文は待ってくれるか。あと一人来てないんだわ」


「あ、いえ。そのお連れの方がこれを朝になったら渡してほしいと」


 そう言って渡されたのは一通の手紙であった。

 ディラクはそれをひったくる様に受け取り封筒の裏を見る。ジークフリートの名前が書いてある。

 ディラクは慌てて中を確かめる。手紙に目を走らせること数行、すぐに渡した従業員に詰め寄る。


「おい、いつだ。これを渡されたのはいつだ。答えろ」


 掴みかかろうとするディラクを抑えるようにラインハルトが立ち上がる。


「い、いきなりどうしたんだディラク」


「どうもこうもねぇ。おっさんの手紙はいつ渡されたのかって聞いてるだけだ。さっきか?」


「い、いえ。日が昇る前かと思われます。深夜の受付担当の者から渡されましたので」


「ちくしょうっ!」


「だからどうしたんだディラク。説明してくれ」


「鈍い奴だなお前はっ!俺達がぐーすか寝てた時におっさんはもうこの町から出て行ったってことだよっ」


「そ、そんなっ」


 唖然としているラインハルトにエリィから先ほどの手紙を渡される。

 ラインハルトはその手紙に目を通す。


「黙って出て行くことを許してほしい。面と向かって別れを告げられるのはどうにも苦手でな。……今まで本当にありがとう。……追伸、俺の部屋にPTの資金で買った鎧やらなんやらは置いてあるから安心してくれ」


 所々声に出しながらラインハルトは手紙を読み終えた。しかし事実が受け入れられないのかまた手紙を読み返す。


「あ、あの。ではこれで失礼します。ご注文お決まりになられたらお呼び下さい。それでは」


 事情を知らなくても何かがあったであろうことはわかるほどの重苦しい雰囲気を感じた従業員はそそくさとその場を離れていく。そして残されたメンバー達は注文を取ることもなくその場に居続けた。

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