勇者三号、魔王ともにロスト
私は勇者である。別に勇ましい者というわけではないが、とりあえず勇者である。もっと正確に言うと『勇者三号』である。
三号というのは単純に『三人目』ということだ。私の故郷であり、私、勇者を魔王軍にぶつけようと企画した糞みたいな王国『ミララリア』から魔王を討伐するために旅を始めた。およそ半年前に。そしてその前に勇者として勇ましく魔王に突撃していったのが『勇者一号』と『勇者二号』である。一号は魔王までたどり着くも破れ、肉片になった。二号は食料を輸送していた魔王軍を襲い、食料強奪、虐殺とリンチ、女性の魔物への性的暴力など悪逆非道な行為を働いた後、近くの村で悠々と寝ていたところを、逆襲に燃えている魔王軍に村もろとも焼かれ肉片になった。我が国も余りに酷いと公式で公表しなかった。
先ほど、二号の話をしただろう。その時、二号は村で寝ていた。野宿などではない。ふわふわで柔らかい高級羽毛をめちゃくちゃに使った少しケモノ臭い布団で彼は寝ていた。これが何を意味するか。ヒント、この布団は勇者が持ち込んだものではなくその村で作られたハンドメイドの高級品(御年86歳の村長用)であった。
察しがいい人なら気が付いているだろう。勇者にはある権利がある。
『勇者様がもしもお困りであれば、自分の命を犠牲にしてまで救え』という鬼畜過ぎるルールが。
私は勇者でありながら、そのルールに心底うんざりしていた。
少し村を歩けば、あちらこちらから「うちに来なきゃいいな」とか「なんでここ通るんだよ」とか小さな囁きが聞こえる。挙句の果てには「勇者様だー」とこちらを指さす健康な男児を、その母親が「やめなさい!!ご無礼でしょう!!!」と咎めているところも目撃した。
そして、王国近辺から魔王軍本部にかけての市町村が勇者のことを毛嫌いしていたことから、ある一つの大きな問題が発生してしまった。
単純に言うと『仲間が増えない』。
冒険を続けていたらきっと誰かしら仲間になるであろう、と思っていた私だが、本当に誰一人としてついてこないのである。人だけでなく犬も猿も雉も誰もついてこないのである。大体愛想笑いをして過ぎていく。むろん、人以外もだ。
だから、『勇者』というつまらないレッテルを貼られたただの成人男性(23)は、こんなところまで一人で来てしまった。
そう、『魔王』の目の前まで。