機械仕掛けの天使(絵・injoonさま)
injoon(http://10242.mitemin.net/)のイラストに文章を付けさせていただきました。
ジャンルはファンタジーまたは掌編、必須要素は「蝋燭」「時計」「空を飛ぶもの」の作品です。
命の蝋燭を、機械仕掛けの天使が手に提げている。両手でしかと支えているのは、命の重さに耐えるためだろうか。だとしたら、天使の尻尾に括り付けられたのは誰の命だろう。
その天使の頭上に輝くのは、太陽でも月でもなく時計だ。頭上、十二時の位置には「End」の文字が据えられていた。
他にも至るところに英単語が散りばめられた絵を見て、私は呆然としていた。
これを描いたのは、他でもない自分なのだ。
幼い頃から絵心がないと言われ続け、描く気力など微塵もなかったはずだ。証拠に、ルーズリーフに描き殴った線は所どころ歪に歪んでいる。
それなのに描き上げてしまった。手元にある本と、自分の描いた絵を見比べると手が震える。
図書館の本を、カウンターを通さずに持ち帰った。本のページを破いて抜き取り、そこにあった挿絵を模写した。
普段はそんなことを考えたこともなく、何かに取り憑かれていたとしか思えなかった。
――とにかく、図書館に行って謝ろう。
弁償となったら、どのくらい掛かるのだろう。なけなしの財布の中身を思うと、胸が痛んだ。
「こちらの本は当館の蔵書ではありません」
カウンターで深く頭を下げた私にもたらされたのは、否定の言葉だった。思わず目が丸くなる。
私はここでこの本を見つけ、持ち帰ったのだ。図書館の蔵書でないはずがない。
「図書館で管理している本でしたら、このようにバーコードが付いています」
職員さんが手にした本には、図書館の名前が入ったバーコードが確かに貼付されていた。ところが、皮張りの不気味な本にはそれがない。
「これ、誰の何て本かもわからないし、引き取ってください」
「すみません。当館では本の寄贈は受け付けていないんです。内容からタイトルや作者をお調べすることはできますが……」
「じゃあ、調べてください」
自分の名前と連絡先をメモに残すと、私は本から逃げるように図書館を出た。
家に帰ると、無意識のうちに自分で描き写した絵を眺めていた。この一枚が本の全てを物語っているようで、目が離せない。
じっと絵と対峙していると、電話が鳴った。
「もしもし?」
「こんにちは。先ほど本をお預かりした○○図書館の……」
「ああ。何の本かわかりましたか」
本なんて嫌いだったはずなのに、あれがないと落ち着かなくなっていた。
今すぐにでも取りに行けるように、鞄を掴んで立ちあがる。
「それが、ですね……」
妙に口調が重かった。口にすることが憚られるようなタイトルなのだろうか。
「タイトルは――で、世界に数冊しかないと言われている古書です。本来は博物館などに展示されているものなのですが」
「えっ?」
そんな貴重なものを、私は破ってしまったのか。
携帯を握りながら震えをこらえていると、追い打ちのような言葉が続いた。
「――その表紙は、人間の皮でできています」
お引き取りになりますか。
図書館員の質問は、私を問い詰めているようだった。
世界に数冊という貴重さなら、私が所有権を放棄しても方々から引き取り手が集まるだろう。
あの本は怖いし、二度と見たくない。でも――
「取りに、行きます」
私は本の魔力に勝てなかった。