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文字のない漫画(絵・i-mixsさま)

i-mixsさま(http://10275.mitemin.net/)のイラストに文章を付けさせていただきました。

ジャンル・必須要素は指定なしの作品です。

「なーに読んでんのっ」


 幼馴染のケイタが持っていたマンガ雑誌を横取りして、彼が見ていたページを眺める。

 カラーのイラストが四ページ続くだけの短い作品だった。脈絡のない絵から始まり唐突に終了している。

 コマ割りがされているから、きっとマンガなのだろう。不思議なのは、その作品のページだけ文字が一つも印刷されていないことだった。


「……なにこれ」


 作者の名前もなければマンガのタイトルもわからない。編集ミスの類にしては随分と酷い部類に入るのではないだろうか。

 その旨をケイタに伝えると、一笑に付されてしまった。


「これはこういうマンガなんだよ。セリフも何もないから読者の想像を掻き立てる? ってやつ」

「へー。こんなのが流行ってんの?」

「おう。週に四ページしか載らないから、コミックにまとまるのは来月が最初だけどな」


 一年以上も連載を続けているのに、まだコミックも出ていない。それが本当に人気作と呼べるのだろうか。

 その面白さが理解できないでいると、ケイタは最後の一ページを開いて見せた。



挿絵(By みてみん)



「この男が主人公ってのは確かなんだけどさ、こっちの斬られてる女が不明なんだよ」


 嬉々として語り始めるケイタに、少し引いた。

 血の涙を流す男と薄笑いで涙を流す女の絵だ。女の人には羽があって、なぜか首を斬りつけられている


「不明ってどういうことよ」

「ネットでこいつがヒロインだって解釈と敵軍のボスなんじゃないかって説が出たんだけど、結局結論は出なかったんだよ」

「……は? そんなの今までの流れを見てきたらわかることでしょ?」


 私が反論すると、彼女の怪しげな行動と一貫しての薄い笑みを浮かべた表情が両方の論を混在させる要因になっているのだと説明された。前の号を見せてもらうと、本当に同じ表情を浮かべている。


「これの作者、外国人だって噂だぜ」

「……ふぅん。セリフがないと国籍もわからないもんね」


 これくらいなら私でも描けそう。

 思わず漏らした本音が、ケイタに火を付けてしまった。ケイタは私が反論する隙すら与えてくれず、昼休み終了のチャイムまでこの作品がいかに素晴らしいかを力説した。


「アニメ化って話もあるくらいだからな! コミック買ったらお前にも見せてやるよ」


 鼻息荒く宣言したことで、ようやく解放される。




「アニメ化、ねぇ……」


 帰宅後、私は真っ先にパソコンに向かった。

 文字のない漫画の情報を集めてみると、ストーリーの考察サイトが多数ヒットした。その中の一つにアニメうんぬんの記事を掲載しているサイトがあった。


 本文自体はこういった作品がアニメ化されるとしたらどんな表現が用いられるのか、BGMや効果音は付けられるのかということを考察している内容だ。ところが、その記事のコメント欄に「アニメ化されるのですね!」という一文がある。

 どうやら、勘違いした人が書き込んだらしい。その書き込みの後には「本当ですか?」「楽しみです」といったコメントが続き、勘違いが連鎖していったのがわかった。


 ブログの主は次の記事で「前回の記事はあくまでも推論です。アニメ化の情報はありません」と釈明している。

 しかし混乱の渦は止まらず、アニメ化の話だけが一人歩きしたようだ。


「ですよねぇ。作者の知らんとこでアニメ化とか勘弁っすよ」


 ディスプレイに向かいながら独り言を漏らし、ペイントソフトを起動する。

 作者相手に作品の良さを力説していたと知ったらケイタはどんな顔をするだろう。

 文字が一切入らないのは、私の書くセリフが絵の雰囲気をぶち壊しにするレベルで下手くそだからだと知ったら笑うだろうか。作者が外国人だと噂される原因が下手くそな文章で綴った日常のひとコマをSNSに投稿していたからだとわかったら、流石に距離を置かれるだろうか。


 ほとんど無名の雑誌で、ほんのちょっとのページを使わせてもらっているうちは身近な人に見られることもないと思っていた。

 その分の動揺がペンに現れて、作画が進まない。学業を優先してほしいという出版社側の厚意は常日頃から伝えられていたが、このままでは初めて締め切りを遅れてしまうかもしれない。


 ――話は決まってるんだから。


 自分を一喝して、ラフ画に取り掛かった。

 首から血を流して倒れた女性に、主人公が顔を寄せて何かを囁く。次のコマでは女性の顔がアップになる。ここで初めて薄い笑み以外の表情を見せるのだ。

 この部分は賛否がわかれるだろう。


 ――でも、私が一番大切に思ってるシーンだから。

 

 息絶える女と武器を捨てる主人公。そこまでを次の締め切りまでに仕上げたい。第一部はそこで幕を引き、コミックにまとめてもらうのだ。

 コミックができたらケイタが買ってくれると言っていた。あの笑顔を見せられては急がないわけにはいかない。


 ケイタにあの漫画の作者は自分だと伝える日は、きっと来ない。聞かれてもシラを切り通すための言葉を準備してある。

 でも、もし彼が気付いてしまったら。その時はきちんと認めて謝ろう。

 この話の元になったのはケイタが見た夢で、私はそれをアレンジして使わせてもらっているのだから。

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